ゲームの止め時

 今どきの運営型ビデオゲームを作っていると、プレイヤーは果てしなくゲームを遊び続けたいのだという前提で考えてしまいがち。でもプレイヤーはゲームの止め時を探しながら遊んでいるのです。

 そもそものビデオゲームは同じことをずっと繰り返す遊びでした。一面をクリアして二面をクリアして、難易度は上がっても同じことの繰り返し。失敗してゲームオーバーになるか飽きたら止め時。
 ゲームがとても上手な人であれば腕前を上げていくことで達成感を得られたでしょう。一千万点達成といった目標もあったでしょう。でも多くの人にとってはすぐ壁にぶち当たって敗北感を与えられてしまう。
 そこで生まれてきたのが終わりのあるゲーム、RPGやアドベンチャーゲームです。プレイヤーはストーリーを完結させて達成感を得るべくプレイすることになります。開発者が止め時をあらかじめ設計するようになったゲームともいえます。

 ゲームの止め時を設計するとはクリア時間を設定することでもあります。
 何千円も出して購入したパッケージゲームが一時間でクリアできたりしたらプレイヤーはコスパの悪さに不満を抱きますし、数百時間もかかるようではそれはそれで疲れてしまいます。短時間でクリアできるとすぐ中古屋に売られてしまうこともゲームメーカーでは問題になって、クリアまで数十時間かかったりクリア後もやりこみ要素が残っているようなゲームが増えました。
 アメリカではゲームのレンタルがあったので、レンタルの数日間ではクリアできないよう非常に難易度を高くしたゲームが多かったそうです。Xboxが採用した実績システムも、やりこみ要素を増やしてゲームを手放せなくする仕組みのひとつですね。
 とはいえ永遠にひとつのゲームをプレイされると次のゲームを買ってもらえませんし、おおむね毎日遊んでも1~2か月で止め時が来るようにゲームメーカーは設計し、様々な感想から見るにプレイヤーの大半もそれを求めていたのではないでしょうか。
 パッケージゲーム主流の時代は開発者とプレイヤーが止め時をよくわかっていた時代でした。

 さて、昨今のスマホでは運営型オンラインゲームが主流となっています。
 この手のゲームでは営業が順調にいっている限り果てしなく運営を続けます。止め時は設計せず、プレイヤーが飽きないように手を変え品を変えていきます。プレイヤーは新しい遊びを楽しみにしているだろうとゲームを激変させることもあります。しかしここでボタンの掛け違いがよく発生してしまうのです。

 ゲームを新鮮に変化させたつもりのバージョンをリリースしたらアクティブプレイヤー数が減少してしまう。
 わりとよくある話です。プレイヤーの飽きに対策して新規参入もしやすく仕切り直したのにどうして?
 でもプレイヤーからすれば不思議な話でもありません。
 ゲームは達成感を求めて遊ぶものです。そして止め時とは大きな達成感が得られるものなのです。止めれば他の新しいゲームに取り組むことができ、そこでもまた達成感が得られます。ずっと続く運営型ゲームのプレイヤーも実は止め時を求めてプレイしているのです。流行っていた遊びから潮が引くように誰もかれも離れていく経験をしたことはないでしょうか? いつが止め時かと常に気にしていたからこそ起きる現象です。
 一斉に止める、それはとても気持ちいい卒業体験なのです。
 ゲームに大きな区切りを作ればそこが止め時になります。止めてほしくなければ、運営に山を作ったとき合わせて谷も作ってしまわないよう、常に山と山がオーバーラップする運営を心がけましょう。

 それにしてもゲームが大きく変化したのは魅力的なはず。作り手はそう思いがちですが、別のゲームに乗り換えた方がもっと大きな変化です。プレイヤーがゲームの今後に期待しているのは改善であり、変化と改善はイコールではありません。
 望まれる改善よりも期待と違う方向への変化を作ってしまうのは、新規取り込みといった目的も掲げられているのでしょうが、実はもっと奥の問題があるのではと考えています。
 プレイヤーよりも先に開発者のほうが作っているゲームに飽きてしまい、別のことをやりたいけれど運営は続けねばならないから代わりにゲームを大きく変化させようとする、もっと言えばゲームをいったん終わらせようとしているのではないでしょうか。つまり開発者も止め時を求めているのです。終わることのない運営と細かなバージョンアップを繰り返す日々の中で、大きな達成感を求めて終わりの区切りを作りたくなる。よくわかる気持ちです。

 ゲームに限らず大ヒットしたシリーズで、ファンよりも前に作り手が疲れて終わらせてしまうのを何度も見てきました。まともな終わりを作れなかった新世紀エヴァンゲリオンがわかりやすいですね。
 シリーズを永く続けていきたければ、ファンには継続と終わりの両方を求める気持ちがあること、そして自分たち作り手自身も終わりを望んでいることを認識したうえで、自分やチームをリフレッシュさせて飽きや疲れと立ち向かっていきましょう。エヴァもヱヴァンゲリヲン新劇場版として蘇りました。

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