「赤い疑惑」とピエール・カルダン【#4_二人の母_八千草薫と渡辺美佐子】2020年03月
コロナの最初の年2020年、緊急事態宣言下。
暇つぶしに見た昭和ドラマ「赤い疑惑」の衣装提供が世界的に有名なフランスのピエール・カルダンだったことに興味をそそられ綴ったテキトーな鑑賞日記。
4回目の今日は、ヒロインの母親・大島敏恵役の八千草薫と渡辺美佐子について。
2人の母。ストーリー設定上2人いるわけではない。同じ役柄を2人の女優が演じているのだ。
舞台などではダブルキャストは普通のことだが、TVドラマでは滅多にない。理由は、最初の母親役・八千草薫の途中降板だという。
主役・幸子役の山口百恵は、当時トップアイドル。
ドラマ、映画、テレビの歌番組、雑誌のグラビア撮影、レコーディング、etc…寝る時間も満足にとれない超過密スケジュールを強いられていた。
当然のことながら、このドラマの撮影においても、山口百恵の現場入りを共演者一同が数時間待ちなど茶飯事。前の仕事がどんどん押して現場入りできないことも度々あったらしく、そういう時は、顔の映らない後ろ姿を代役で撮影することも珍しくなかったそうだ。
そういう状況だと、母子が向かい合って対話をするシーンなど、ベテラン八千草薫といえども感情移入が難しい。
そんなこんなの繰り返しに、八千草薫がキレて、第6話をもって降板したという話だ。
もちろん、山口百恵に罪はない。
悪いのは、スケジュールを詰め込むだけ詰め込んだ事務所と、視聴率にあぐらをかいて雑な制作に甘んじた制作プロダクションとテレビ局だ。
当時の放送時の記憶は全くないが、ネットで調べたところによると第7話の本編が始まる前に「諸事情で役者替わります」のテロップが流れたそうだ。
しかしながらDVDではそこは省略されていた。
だから、第7話が、渡辺美佐子が物干し竿でカラスを撃退する場面から始まったものだから、「え?え?この人、誰?」と混乱してしまった。
しばらくして、山口百恵が「ねえ、お母さん」、宇津井健が「おい、敏恵」と呼びかけるのを見て、やっと母親役が変わったことに気づいた次第である。
さらに驚いたことは、こういう場合、役者が入れ替わっても、「幸子の母」というキャラクターは普通変えないものだと思うが、八千草は八千草の個性、渡辺は渡辺の個性を優先して、一切キャラを寄せてないのがすごい。(←誉めてない。笑)
八千草薫演ずる母親は、おっとりと上品で、苦境に立たされるとオロオロするばかりで、夫の助けなしには何もできない奥様風情。娘の難病に茫然自失、ショックのあまりに万引きしてしまうというウエットなキャラ。
対する後任の渡辺美佐子。ハスキーな声のサバサバした印象のせいか、八千草とは真逆のキャラで描かれています。物干し竿でカラスを撃退したり、いきなり白装束で巡礼の旅に出たりと、けっこうアクティブ系。
これはこれで、それぞれ面白いんだが、前任と後任のキャラをこれっぽっちも寄せないという制作側の意図はやはり理解できないし、無責任な印象を受ける。
肝心のピエール・カルダンのファッションは、専業主婦という役柄上、二人ともおとなしめのファッション。
八千草は常に無地のブラウス、渡辺は柄ものが多かったように思う。
私が八千草薫という女優を認識した時、彼女はすでに初老を迎えた頃で、「歳をとっても愛らしい人」という印象だった。が、このドラマの頃は女盛りの44歳、おっとりとした物腰の中にも熟女の艶めきのようなものが垣間見えてちょっとドキドキした。
第1話冒頭のジーンズ姿が新鮮で、思わず一時停止して見入ってしまったほどだ。
さあ、次回は、大映ドラマには欠かせない、かなりキャラ濃いめなヒール役、長門裕之と原知佐子をご紹介。お楽しみに。
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