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#12 この世界に向かって叫ぶ覚悟


僕は以前、大学でアニメーションを学んでいる友人に声をかけられて、卒業制作のアニメーションの音楽を担当したことがあった。

作曲はしたことがあった。音楽は基本的に独学で学んできたため、「これは正しい音楽か?」という疑問とともに成長したようなものだ。


卒業制作といえど、4分間の短編アニメーション。しかし、その絵をすべて一人で描くのだからすごい。根気との勝負だろう。

しかし、絵に集中しすぎていたせいか、音楽にまで十分に手が回らず、結局仲の良い私にその話が回ってきたということだった。


正直、人のアニメーションに音楽をつけることがどういうことなのか、興味があったので引き受けた。私も授業や課題がある中だったので、最小限の労力になってしまったが、なんとかやり遂げた。


そこから学んだこと。

それは、ミュージシャンは音楽性だけがあればいいのではない、ということ。必要なのは、覚悟だ。

たかが、4分のアニメーションに曲をつけたからって、ミュージシャン気取りしてんじゃねえ!と自分でもツッコみたくもなるが、まぁ聞いてほしい。


僕はその友人の家に20時間引きこもって、曲を作った。

その中で、めちゃめちゃダメ出しを受けた。一度、「これで行こう!」と言っていたものが、最後になって「やっぱ考え直してもらえないかな?」と言われることもあった。

20時間の間、何度も悔しい思いをした。自分が一生懸命になって作ったフレーズを簡単に否定されてしまうのだから。苛立った。


けれども、監督は僕ではない。監督である友人に何度も質問して、「こういう感じか?」と即興でフレーズを弾いてみたりした。

結局、アニメーションの中で使われた曲は3曲ほど。けれども、そのために僕が作った曲は10曲はあっただろう。


世の中に音楽を出すということを疑似体験した気がした。

いろんな人に様々なことを言われて、「自分が満足する」という世界から本当に抜け出せる覚悟のある人が売れていけるのだろうと感じた。「自分にとっては魂の1曲なんだ!」というセリフも、世間の前では虚しい。

私は基本的に、自分一人で音楽をしてきた。SNSにもほとんど公開していない。そういう音楽の仕方を決して否定するわけではないが、世の中で活躍しているミュージシャンとは戦っている相手が根本的に異なる。当たり前だが。


自分の曲が評価されることが、これほどまでに緊張すること、怖いこと、嬉しいことなんだと知り、世のミュージシャンを心から尊敬する。

例えそれが僕にとって卑しい音楽に聴こえても、歌詞に共感できなくとも、どんな曲であっても、きっと彼らは覚悟を持っている。

この世界に向かって叫ぶ覚悟を。


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