ノスタルジー423
雨だ。
闇夜で雨が降っている。名前も知らない木の小さな葉っぱは滝のように降りしきる雨を受け止め切れず、そこからあふれた水は地面を溶かしている。
(これだ。これが雨だ。)
ぼんやりと私はおもった。いや、轟音でもかき消されないほどの強い思いだったような気もする。どうだっただろう?わからない。
進まなければ、と思った。
どこに?
前に。
どこまで?
どこまでも。
なぜ?
なぜだろう?
足元のようにぐちゃぐちゃになっていく思考の中で問答を繰り返しながら私は進んだ。それは自分の声だったかもしれないし、誰かが語り掛けていたのかもしれない。
息切れを感じた。傾斜が急になったのか、強すぎる雨で呼吸ができなくなったのか。どちらだろう?
どちらでもいい、とにかく進まなければ、と"私"は知覚した。
”私”とは、なんだ?名前は?性別は?家族は?
いや、
そもそも”生きている”のか?
わからない、だが、それでもいい。
進むんだ。
…
雨が止んだ。
空にはきれいな虹がかかっている。木々は太陽を反射し、輝いている。
どこまでも続く静寂が、そこにあった。
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