見出し画像

うららかな日々、#伝説の安心感



その中で暮らすようになりヒトが消えた。

わたしから消えたのかヒトから消えたのか

三角座りで暮らし膝小僧を乾燥させ
グリーンのインクでこう書いた。

『良い人間になりたい』

箱の中で暮らしながら書き綴る日々

『ジグザグ、あるいはグルグル
マーブルケーキと眼球のホルマリン液』

などなど....

ある時、インクの先で覗き穴を作る
黒目程の大きさひとつ
そこらから見える世界は気取り屋の貧弱な鳥

一人の女が残されていた

カバンからタバコを取り出し
ふぅ、と小さなため息を漏らし
タバコの火を揉み消し告げた

『良い人間になりたい』

わたしと女の目が重なる

わたしたちは箱の中で暮らし
わたしは膝小僧を磨き、女は禁煙をした
とても窮屈でとてもいい匂いがした

絶望を甘く煮詰めた杏の匂い

安らぎに浸れば良い人間になれた


どれくらいたったのか
ヒトはみな消えた
箱中を埋め尽くす文字は

『しあわせ』



文字を知らない緑を愛する鳥たちが箱へ集まれば
安心感でそれはそれはお上品な鳥になったそうよ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?