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ぶりっ子と化した"いい女"田中みな実のあざとさ

いまの世の中、どこもかしこも懐古主義である。それは飲料業界も例に漏れず、サントリー生ビールに続きタコハイも復活した。そこで思い出すのが、着物姿の田中裕子が「タコなのよ、タコ。タコが言うの」とアンニュイな表情でグラスを傾けるあのCMである。

「一流大学を出たいいとこのお嬢さん」に惚れたのだが「どうにもならない」といってタコは田中裕子に泣くのだそうだ。困ったもんだねぇ。最近の若い男は。女から酒の肴にされておるのだ。
このCMは、ウオッカである。強くなった最近の若い女をターゲットにしていると、すぐにピンとくる。が、これが受けるのは意外と裏返しに、肴にされているタコの男たちにであるかもしれない。

徳丸壮也「不透明深海魚時代の大衆 CM表現はコピーからレトリックへ」『月刊アドバタイジング』1983年8月 20頁

田中裕子が語るタコの正体を徳丸壮也はこう分析しているが、「タコハイってなに味なの?って思うよね」とカメラ目線で問いかける田中みな実に対し、梅沢富美男が「なに味?なに味?」とぶりっ子する令和のタコハイのCMも、強い女と嬉々として肴にされるタコな男、という構図を踏襲していると言える。ミステリアスなBGMも含め、田中裕子のCMのオマージュなのは間違いないだろう。

しかし、このCMにはタコになる以前に、どこか鼻につくような、だけれども憎めなくてクセになるような、ムズムズした感じを覚える

田中みな実の「SUNTRY」

それは最後の「SUNTORY」もとい「SUNTRY」なセクシー英語発音に「いい女」の押し売りを感じるからだろうが、この感じ、かつての彼女にも抱いた気がする。そう、ぶりっ子キャスター時代のあの感じに似ているのである。

耳に髪をかけながら、大仰な発音で「SUNTRY」と口を尖らせる。「いい女」そのものをカリカチュアしてしまうこの振る舞いはまさに、笑えるぐらいわざとらしくぶりっ子することで、「女子アナ」に向けられる幻想を笑っていたあの頃を思い出させる。いまの彼女が纏う「いい女」イメージをネタにして惹きつけるこのあざといCM、好きだろうが嫌いだろうが、気になってしまった時点で、田中みな実の術中にあるのかもしれない。あの頃と同じように。

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