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八丈島の旅行(前編)

著者が朗読しているオーディオブログです。
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心穏やかに内省する場所を求めて

「自分探しの旅に出る」人生に悩んだときそんなことをしてみようと考える人もいるでしょう。私も「自分は人生で何をやりたいのだろう?」とモヤモヤとしていました。いくら考えても、その答えを導き出せないでいたのです。
 そこで、年末年始の休暇を利用して、八丈島に旅行へ行くことを思いつきました。大自然の中でゆっくりと考える、誰にも邪魔されることのない内省する時間を確保することを決めたのです。

私の人生に影響を与えた本のひとつ「7つの習慣」その本の中に「ミッション・ステートメント」を考える重要性が書いてあります。ミッション・ステートメントとは、自分が自分であるための宣言であり、自分の中心をはっきりと表すもの。私は自分自身の憲法であると解釈しています。
 そして、このミッション・ステートメントは書き上げて完成ではありません。定期的に読み直す必要があります。それは、長い人生を生きていけば価値観が変わることもあるからです。だから、内省を繰り返し、自分自身に問い続けることが必要となります。

大好きな鎌倉へ久しぶりに行こうと計画をしていたのですが、ふと「せっかくの長期休暇だから時間を有意義に使えることにしよう」と思い立ちました。そうしたら、何故か東京都の島に行ったことがないと思ったのです。調べてみると、八丈島には飛行機の直行便もある。
 そこで、観光も兼ねて内省をし、ミッション・ステートメントを振り返る時間を過ごそうと決めたのです。初めて訪れる八丈島。最初だから、行きは船、帰りは飛行機にして両方の乗り物を利用してみることにしました。

さあ、八丈島へ出発する日を迎えました。東海汽船の大型客船に乗ります。東京を22時30分に出発して、八丈島へ8時55分に到着する10時間20分の船旅です。大門駅から夜のオフィス街を歩き、東京・竹芝客船ターミナルへ向かいます。クリスマスシーズンの様な金色に輝くイルミネーションを横目で見ながら、旅が始まるという期待感が高揚していきます。
 そして、八丈島行きのチケットを受け取り、大型客船 橘丸たちばなまるに乗り込んだのです。一瞬の出来事だったので記憶が曖昧でしたが、独特の匂いを感じました。「これが船の匂いなのか?」と思いながらも、客室の場所を探すことに意識が向いていました。初めて訪れた空間を歩いているだけなのに、何故か足元がおぼつかない。波で船が揺れているわけでもないのに。客室を一度通り越して、辿り着くことができました。

海を進む橘丸(たちばなまる)
大型客船 橘丸(たちばなまる)

 さて、少し興奮しているようだが、船内で朝まで寝れるのだろうか。とは言え、起きていてもやることはない。スマホを眺めていたら船酔いしてしまうだろう。出港する景色を小窓から見届けてから眠ることにしました。だが、全然眠れない。「眠らなければ」と意識すると、さらに眠れない。起きているのか眠っているのか、よく分からないフワフワした感覚のまま朝を迎えました。体を起こすと頭がクラクラする。どうやら船酔いしているようだ。吐き気もするので、外の空気を吸うためにデッキへと向かいました。重い扉を開けた瞬間、強い風と共に水しぶきが飛んでくる。海が荒れているから体を左右に持っていかれ、ときおり何かに捕まっていないと倒れてしまいそうだ。「なるほど、船酔いの理由がわかった。時化しけで船が揺れ続けていたのか」波打つ海の光景に魅了されつつ、船酔いを緩和するために視線を遠くへ向けました。「あ、あれが八丈島か!」視線の先に島影が見える。到着する時間が迫っているこの水平線に、見えるのは八丈島しか考えられない。「やっと着いた」と安堵したのです。心が緩んだこともあってか、海風の寒さが身にしみてきました。船の反対側に目を向けると朝日が差していたので、暖かさを求めて歩き始めました。相変わらず時化しけで船は揺れています。おぼつかない足取りで歩いていると、ザパァと大きな音が後ろから聞こえたので反射的に振り返ると、波がデッキにまで打ち上げられ、海水が迫ってきたのです。急いで建物の陰まで逃げ込みました。まさに間一髪、無事に波から逃れることができたのです。もし、あのまま反対側に居続けていたら、今頃打ち上げられた波を被り、全身びしょ濡れになっていただろう。八丈島の到着前に最悪な事態になっていた。ラッキーだった。朝日に感謝しよう。
 さて、この危険な場所から避難しなければなりません。建物の陰から顔を出し、波がまたデッキにまで打ち上げられないか様子を伺う。しかし、いつ波が襲ってくるか予想が難しい。さらに、今度はこちら側から波が襲ってきたら一巻の終わりです。だったら、もう急いで扉まで向かってしまおうと決意しました。頭のイメージでは走っているのに、足元がフラフラして思うように前に進めない。変な感覚だ。備え付けてある椅子やテーブルにしがみつきながら、なんとか船内へ戻る扉まで辿り着くことができました。

さあ、いよいよ八丈島に到着です。下船すると広大は景色が広がり、振り返ると壮観な橘丸の姿が。まずは、底土港そこどこうにある観光案内所に立ち寄り、観光マップやガイドブックを手に入れました。よし、初めに行くところは決めている。それは、人間魚雷「回天」二号壕跡ごうあとだ。去年の終戦記念日に、社会派ブロガーのちきりんさんが、Voicy という音声メディアで、この《回天》について話をされていたことが印象に残っていたからです。訪れてみると、観光名所とは言い難い殺風景な所だった。ただ歴史の事実がそこに存在しているだけ。風化した洞窟の奥から見える、入り口に差し込む光に何かを求めてしまう。「当時の若い隊員には希望の光に見えたのだろうか?」と。さて、この後の予定は何も考えていない。

(後編につづく)

洞窟内に差し込む光
人間魚雷「回天」二号壕跡の洞窟内から


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