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八丈島の旅行(後編)

著者が朗読しているオーディオブログです。
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「人生で何を成し遂げたいのか」を考える

唯一決めていることは、島内の移動手段はバスを選んだことだけでした。ガイドブックを眺めていると、一枚の写真に惹きつけられたのです。大里の玉石垣、次はそこに行くことを決めました。
 2日間バス乗り放題・温泉入り放題のお得なチケット《BA・S・PA》を事前に購入しているので、バス停を探しに歩き始めました。本当にスマホは便利だ。見知らぬ土地でも、GPS(全地球測位システム)のおかげで迷うことがありません。しかし、距離感はなかなか掴みにくいので、かなり歩いてバス停まで辿り着くことができました。ぎこちない手付きでスマホ画面のチケットを見せてバスに乗り込む。車内は地元の人達が談笑していました。旅行者に気さくに話しかけているおばあさんもいた。そんな声に耳を傾けながら、車窓から見えるキラキラと輝く海に目を奪われていました。そして、玉のような石がならぶ光景が広がったのです。玉石を使った美しい石垣、ここが大里の玉石垣か。この美しく積み上げられた玉石は、六法積みと呼ばれる独特の技法で、ひとつの石の周囲を6つの石が取り囲む形で積まれたものだそうだです。その素晴らしいたたずまいを写真に収めているとき、持ってきていた会社のスマートフォンにチャットの通知が鳴りました。
 そう、この旅行で試したいことがあったのです。それは、休暇をしながら仕事ができるのか。いわゆる《ワーケーション》です。だから、会社のスマホと iPad を八丈島に持ってきているのでした。仕事上、どうしてもパソコンで操作が必要な場面もある。そこで、今回は iPad から自宅にあるノートパソコンを遠隔操作して仕事ができるように準備をしました。その便利なサービスとは Google Chrome リモートデスクトップです。歩き疲れて休憩した時やバスの待ち時間などを活用して、iPad で《どこでも、いつでも》仕事をすることができました。「よし、俺でもワーケーションできるじゃん!」と浮かれた気持ちで確信しました。

次に訪れたのが八丈島歴史民俗資料館。初めて訪れた場所なので、どのような歴史があるのか興味がありました。係員の方が丁寧に展示内容を説明してくださり、とてもわかり易く勉強になりました。流刑るけいの地であったこと、黄八丈の織物、八丈富士と三原山ふたつの火山がつながってできた島であること、縄文時代から人が住んでいたことなどを知ることができました。そして、次の目的地はお話にあった優婆夷宝明うばいほうめい神社に決めました。まだ初詣に行っていなかったので丁度よかったのです。
 これで1日目の観光は終了。ホテルへと向かって、ホテルでは内省ないせいする時間を過ごすと考えていました。だが、まずは大浴場で旅の疲れを癒そう。貸し切りの一番風呂、とても気持ちが良かった。さて、今回の旅行の目的は、ミッション・ステートメントを振り返り「自分は人生で何をやりたいのか?」を言語化すること。ホテルで過ごす夜と朝の時間をそれに充てました。誰にも邪魔されず、ひたすら考えるのです。問に対して、丁寧に思考を巡らせる。自分の思いと言葉をつないでいく、根気のいる作業です。よし、今日はもう終わりしよう。朝起きてスッキリとした頭で、また続きをやっていくことにしました。

八丈富士 分岐点

観光のメインは八丈富士の山頂火口を一周する《お鉢めぐり》です。なんと、バスでは登山口まで行くことができない。観光マップをじっと見つめて「よし、この日は登山だけだから歩いて行こう!」と決意しました。当日は天候に恵まれて気持ちのいい朝を迎えられました。リュックサックに、ウィンドブレイカー、水やお菓子などを手際よく詰め込む。ガイドブックのおかげで準備は万端です。さあ、いざ歩いてみると、やっぱり遠い「ちょっと無謀だったかな?」と後悔もしました。でも、道の途中にある森の切れ目から、広大な景色が見えるたびに元気が出るし、山道を登れば登るほど、そのたびに見える景色が変わりました。そう、頑張って進んでいけば、より良いご褒美がある、そんな感じだ。途中でふれあい牧場に立ち寄って、やっと登山口に到着しました。
 さて、今までは車道を歩いて登ってきましたが、ここからがいよいよ登山の本番です!お鉢めぐりをするためには、頂上まで登らなければいけないのですが、これがとても険しい道でした。「もう二度と登らない!」と思ったほどです。やっと分岐点に到着、ここから時計回りでお鉢めぐりが始まります。山頂には強い風が、前日の夕食でロッジの人がアドバイスしてくれた「風が凄く強いから気をつけてね」と言われたことを思い出す。そして、雨が降った後でもあったので、足元がぬかるんでいて水たまりも散乱している。これは想定外だった。水たまりを避けながら歩くと、余計に疲れてしまう。だが、そんな気疲れも、360度に広がる山頂からの景色を眺めれば、すっかり忘れてしまうのです。1時間前には「もう二度と登らない!」と思っていたのに、海を見下ろしながらの下り道では「今度は暖かい時期に来よう!」と考えていました。気持ちは晴れやかではあるが、さすがに足腰には疲労が溜まっているようだ。となると、向かう所は温泉以外に考えられません。今回の旅行で最後に入る温泉は、地元の人達に愛されている《ふれあいの湯》にすることにしました。

 これで、明日の飛行機で東京に戻れば、3泊5日の八丈島の旅行が終わることになります。さて、八丈島への旅行の目的は、内省ないせいをしてミッション・ステートメントを振り返り「人生で何を成し遂げたいのか」を考える時間に充てること。しかし、日常生活でやりたい事はたくさん思い付くけど「人生で何をやりたいのか?」は、なかなか見つからないものです。この時間をかけて考えることを繰り返すことで、自分の心の深層へ潜れるのかもしれない。そして、何かに打ち込める人が羨ましいとも思います。旅行と併せた今回の試みは良かったから、今度は暖かい時期に他の島へ行ってみようと思いました。心を穏やかにするには最高の場所です。飛行機の窓から見下ろす八丈島を眺めながら、新たな気持で仕事を始められそうだ。

[了]

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