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革命は混乱の後に。

動物たちはまずナポレオンの言い分を聞き、それからスノーボールの言い分を聞きましたが、どっちが正しいか腹を決められません。実は、そのときしゃべっているほうにいつも同意してしまうのでした。ー ジョージ・オーウェル 『動物農場』 -p61   山形 浩生 訳  早川書房

ジョージ・オーウェルの『動物農場』がずっと気になっていて、とうとうタイミングがきて読むことができました。

-動物農場の概要-
飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した「動物農場」を設立した。農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領に選ばれたが、指導者であるブタは手に入れた特権を徐々に拡大していき…。権力構造に対する痛烈な批判を寓話形式で描いた風刺文学の名作。

『動物農場』はソ連でかつて行われた独裁政治を元に作られた寓話形式の作品です。物語は動物たちが農業主の人間を追い出す革命シーンから始まります。最初は平等を謳歌していた動物たちですが、徐々に、しずかに、独裁の道へと進んでいきます。頭のいい豚たちに法律は書き換えられ、あたかも昔からそうだったように他の動物たちは思想コントロールをされていきます。人間が支配していた時代は少なくとも動物が動物を殺すことはなかったのに、動物農場になってからは、動物が動物を粛清していきます。状況は革命以前より酷くなっていきます。

全体主義は封建制度の終焉後、または世の中の動乱期の後に出現しやすいと言われてます。

動物農場のモデルとなったロシア帝国はかつては皇帝が国を統治する封建社会でした。日露戦争、第一世界大戦による出費に加え、農業不作が続き、国内経済が混乱、情勢が不安定化していきます。そんな状況の中でも皇帝・貴族は豊かな暮らしをしているのに、国民は貧窮していました。そこを一気に束ねたのが社会主義を軸とした過激派、ボリシェビキ党を率いたレーニンでした。二回の革命運動を経てソビエト連邦を樹立します。

レーニンの亡き後、スターリンとトロツキーの後継者争いが勃発します。その争いは、暴力と恫喝を得意とするスターリンがトロツキーを国外追放して幕を閉じます。

冒頭の文章で登場したナポレオンはスターリン、スノーボールがトロツキーをモデルにしていると言われています。寓話といえ、非常に示唆に富んでおり、かつ淡々と冷酷に物語は進んでいきます。

まさかこんなことがこの先起こるはずないと思いますが、きっと250年以上の平和が続いた江戸時代の人々も私たちのようにこの先戦争が起こることは予想していなかったでしょう。平時の時はまだしも、有事の時になると、誰も正常な判断ができなくなる可能性は十分にあります。今の各国の動きを見ると、むしろ強力なリーダーに先導してもらう方がいっそ安心するかもしれないという気さえするのは私だけでしょうか。

ドイツは第一次世界対戦で敗戦、賠償金支払いのため重税になり、国民にしわ寄せがいきます。また1929年の世界恐慌の影響で、当時の失業率は40%にもなり国内経済は破綻状態でした。その状況の中で、国家社会主義ドイツ労働者党のヒトラーが彗星の如く現れ、公共投資を行い、失業率は改善、国内経済は徐々に改善していきます。ヒトラーは自国の人々を優性民族として、ユダヤ人の迫害をすることでドイツ国民を団結させていきました。

全体主義の特徴は、メディア統制、独裁、計画経済、言論統制、大規模な監視、国家暴力などによって政治権力を維持します。

当時は主要なメディアは新聞やラジオだったため、情報統制がしやすい環境でした。インターネットがここまで広がり、自由に情報が行き交う世の中で、果たして大衆扇動が可能なのでしょうか?

トランプの当選やブレグジットの際に話題に上がった選挙コンサルティング会社のケンブリッジアナリティカを知っていますか?

『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』 - Netflix

ケンブリッジアナリティカはブレグジットや米国大統領戦(オバマ・トランプ)の勝者側の選挙コンサルティング会社として注目されました。しかしその勝利の裏側でSNSを使った大衆扇動の疑いがあり、マークザッカーバーグが証人喚問に呼ばれるなど、大スキャンダルになりました。事の発端は、ケンブリッジアナリティカの内部告発でした。しかし最終的にケンブリッジアナリティカは事件発覚後、破産申請をして真相はうやむやのままに終わってしまいます。

果たしてどうやって選挙を有利に進めたのでしょうか?

時々Facebookで見かける性格診断がありますが、ケンブリッジアナリティカはあのサービスで数千万人の個人情報を抜き取ります。その抜き取った個人データから、どんな人にどんな情報を流せばよいかを分析していきます。そして投票前に一人一人にあったWEBプロモーションを実施し、扇動するという手法で、候補者を勝利に導いたとのこと。

扇動できるレベルまで大衆コントロールが可能かどうか疑問の余地は残りますが、 実際にインターネットを発端とした運動の例であげれば、アラブの春や香港デモがそうだったように、閾値を越えれば、全体運動へ繋がっていく可能性は十分にあるでしょう。トイレットペーパーパニックがそれを証明してくれています。

こんな時こそ正常な判断が必要です、と言いたいところですが、そう簡単に正常な判断はできません。なぜなら正常な判断は正しい情報がある時に初めて可能だからです。こんな状況下では、不安を煽るような内容の情報の方が注目を集めやすいので、各メディアでは、必要以上にネガティブな情報を流しているように感じます。

人の行動プロセスはインプット(知覚)▶︎プロセス(思考)▶︎アウトプット(行動)なので、正常な判断をするためには、インプットの調整が必要です。色々な情報を取りすぎて、正常な判断ができなってしまっては本末転倒です。過度に、そして間違った情報を取りすぎないようにスマホの接触回数を徐々に減らしたり、メディアとの距離を見直すのも一つの手かもしれません。

ゴミ情報には気をつけましょう。

投票する者は何も決定できない。 投票を集計する者が全てを決定する。
-ヨシフ・スターリン


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