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理想論で終わらせないために「結果ごとき出せ」

劇作家・平田オリザさんと経営学者・宇田川元一さんの対談第4回。組織を強化し、前進させる「対話」の力。一方で、その足かせとなる世代間のギャップや教育の課題。そんな時に撤退するかもう一歩踏み込むか。今回はそんな「対話の難しさ」について話し合います。

※本記事は、2019年10月にcakes上に公開された記事を転載したものです。

「対話勢」の底力が問われている


――対話を通して、じっくりと根本から問題に向き合うことが大事である一方で、ビジネスの現場では「短期的に結果を出せ」というプレッシャーは根強くあると思います。その対立に関して、お二人はどのように考えますか?

宇田川 私の仕事に当てはめて言えば、対話を促したほうが、ビジネスにおけるパフォーマンスが向上するということを結果で証明していかないといけないと思っています。

ピーター・ドラッカーの著書で『産業人の未来』(1942年)というものがあります。この本は、「ファシズム」と「民主主義・資本主義社会」の戦いを描いているんですが、ドラッカーは「結果を出さなければ、我々はファシズムに負ける」、こう言っているわけですね。その思考に通ずる思いが私にはあります。

現在の流れで言えば、日本のスタートアップ企業の規模が大きくなってきて、組織を作らないといけない段階になってきている。その時に多くの経営者が憂うのが、「自社が普通の会社になっていくこと」なんです。

彼らは次の時代の日本社会を担っていく人たちだから、そのタイミングで組織のカルチャーに対話を組み込んでいくことは、しなくてはいけないことなんです。

加えて、会社は立ち上げていなくても、企業が溜め込んでいるお金をうまく引き出して、新規事業を起こしていく「イントラプレナー(社内起業家)」という人たちがいる。彼らにとっても、「対話」というツールの価値を認識してもらう必要がある。それには、私自身の対話力が問われているとも感じていますね。

平田 僕もまったく同じことを劇団員や若手の演出家によく言います。「結果ごとき出せよ」と。前回話に出た『城崎国際アートセンター』に関しても、土地の歴史性はありながらも、行政から出資を受けているから数字的な根拠も示していかないといけない。数字と理念は両輪だと思います。

あとは教育の問題。複数の異なる価値観を持った人が集まって、一緒に何か作業した時の方が、単独でやるときよりもパフォーマンスが上がるという経験を、子どもの頃からシャワーを浴びるみたいにさせるしかないと思ってます。

どんなに優秀な子の集まりでも、1人のパフォーマンスが上がったって組織が潰れてしまったら意味がない。その認識を浸透させる以外に、方法はないと思います。

「協働」の体験は学習する組織をつくる


――協働した結果、パフォーマンスが上がる体験を、と。

平田 はい。共同で何かに取り組んで、マイノリティの意見を取り入れたり、議論の折り合いをつけたりする。その結果できた成果物を発表して、拍手を浴びた経験がある。そんな子たちは、学力が相対的に高くなるという教育統計が出ています。要するに「学ぶ力」がつくわけです。

宇田川 今のお話を聞いていて、オープンソースOSの「Linux」のディストリビューターである『レッドハット』という会社の話を思い出しました。私の本にも書いているエピソードなんですけれども。

伝統的な大企業からCEOとして転籍してきたジム・ホワイトハーストが、自由な社風であるレッドハット社の文化に触れて学び、順応したという話です。その結果ジムは、レッドハットの社員たちと良好な関係性を築き、エグゼクティブとして、オープンなコミュニティをよりよく機能させることに成功したという。

平田 協働性を発揮しやすいという点は、インターネットの強みでもありますよね。

宇田川 まさにそうなんです。「協働すればいいものができる」ということを、まだ大学院の修士課程にいた頃、教授に対してもしていたんです。これからの企業社会はそんな時代になっていくんじゃないか、と。でも、返答はこうでした。「企業は、そういうことでは動かない」。

平田 そうですね。宇田川さんのおっしゃるようなことは、書生論として捉えられやすいですよね。だからこそ、まさにエビデンスを示していかないといけないと思っていて。

教育の世界は、統計データが結構そろってきているんです。そうすると、やはり教育委員会とかも説得しやすくなるわけです。理想論だけ言ってもなかなか響かないけれど、「こんなに学力テストの結果が違うでしょ、ほら」って言うと、結構みんな動く(笑)。

宇田川 エビデンスを示していくのは本当に大事な点ですよね。やはり、教育の問題と、企業の中で生じている問題は、本当に密接につながっている。平田さんとお話して改めて気付かされたと言いますか、本当に勉強になりました。

平田 はい、これからは、双方のつながりが更に強くなると思います。今回はありがとうございました。

おわり

(編集:中島洋一 構成:吉田直人 撮影:小林由喜伸)

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