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アウトプット思考 内田和成 著

動画版は、こちら。

本書は早稲田大学名誉教授である内田和成さんによる著作。従来の知的生産術とは異なるアプローチを提唱しています。本書は、情報収集に時間をかけるのではなく、最小限のインプットから最大限のアウトプットを生み出すという斬新なアプローチを提示しています。

アウトプット思考の背景

著者は、現代社会において情報収集や整理に重点を置く従来型の知的生産術には限界があると指摘しています。その理由として以下が挙げられます。

  1. 情報の普遍的アクセス。誰もが同じ情報源にアクセスできるようになり、情報を持っているだけでは差別化が難しくなった。

  2. AIの進化。情報収集力において人間がAIに勝つことが困難になっている。

  3. 網羅思考の罠。とりあえず情報を集めるという姿勢により、限られた時間の大部分を情報収集に費やし、肝心のアウトプットの質が低下する。

結局、情報を網羅することは不可能であり、限られた情報で、限られた時間にて決断をする必要がある。そのためには仮説を立てることが絶対に必要なのだ。

アウトプット思考の本質

アウトプット思考の核心は、従来のインプットからアウトプットへというプロセスを逆転させ、アウトプットからインプットへと発想を転換することです。具体的には以下のような特徴があります。

  1. 目的の明確化。自分の目的、意思決定や説得などを意識した上で、必要最低限の情報だけを集める。

  2. 思考の軸の確立。自分の得意分野や関心領域を明確にし、その情報だけが入ってくる仕組みを作る。

  3. アナログ情報の活用。デジタルデータだけでなく、街中で見聞きしたことや人との会話から得た気づきも重要な情報として扱う。

  4. アウトプットの意識。情報収集の段階から、どのようなアウトプットにつなげるかを意識する。

具体的には、自分のスタンスを明確にし、そこに引っかかったものだけをピックアップする。例えば自分の目的が意思決定ならば、その目的を意識したうえで、必要最低限の情報だけを集める。説得ならば、相手が必要な情報は何で、自分には何が求められているのかを明確にしたうえで情報を収集する。 あるいは、自分の志向、得意分野を明確にし、その情報だけが入ってくる仕組みを作る。これが、私が本書で提案したい情報術である。

アウトプット思考の実践方法

著者は、アウトプット思考を実践するための具体的な方法として以下を提案しています:

1. 「20の引き出し」の活用

頭の中に20の引き出しを用意し、情報を整理することで、脳内にスパークが生まれ、優れたアウトプットを生み出すことができるとしています。

著者の現在の20の引き出しの中身は以下のとおり。仮説思考、論点思考、右脳思考、ビジネスモデル、ゲームチェンジ、パラダイムシフト、リーダーシップ、コーポレートガバナンス、経営者育成、運と勘、社外取締役、シェアリングエコノミー、イノベーション、自動運転、EV、イスラエル、MaaS、ブロックチェーン、GAFA、AI。

20個の引き出しに20個ほどのネタが入っているので合計400ほどのネタが常に頭の中に入っている状態です。

脳内に格納する為、引き出しやすい様に語呂合わせであったり、キャッチーなネーミングをつけておくと良い。例えば、ギャンブラーと勝負師

元ネタは著名なスポーツライターである二宮清純さんの言葉である。彼によれば、ギャンブラーというのは運を天に任せる人のことであり、勝負師というのは、最後まで運を手元にたぐり寄せようと努力する人のことだという。

2. 自分のスタンスの明確化

自分の立場、ポジションや役割を明確にした上で情報に接することで、情報収集のスピードが上がり、差別化しやすくなります。

情報と接するにあたって、自分の立ち位置を意識するという意味でぜひ、覚えておいてもらいたいことがある。それは、世の中の大半のものには、唯一絶対の正しい答えなど存在しないということだ。

3. 情報活用の目的の意識

情報活用、つまりどんなアウトプットが必要なのかを明確にした上で、情報に接することが重要です。

例えば、膨大な資料を短時間で読み解くコツは仮説と異常値。
まず仮説を立てて、それを念頭に置きながら情報を読み解いていく。
②異常値あるいは例外を見つけるアプローチ。

どちらのアプローチを重視するかは、置かれた状況の立ち位置次第。

自分が全体像を的確に把握することを求められるポジションにいるならば、やはりまずは仮説から入るアプローチを取るべきだろう。だが、チームの中でユニークな発見を求められる立場にいるとしたら、異常値から入るアプローチで、誰も気づかなかった視点を提示すべきかもしれない。 自分がどんな立場で、どのような切り口で資料を読めばいいかがわかれば、資料を読むスピードも、そこから必要な情報を得る精度も、自然と増してくる。まずはインプットからと漫然と資料を読むことこそ、時間のムダなのである。

また、会議や会話の際には右脳と左脳の使い分けで話しながら情報を得ることが重要。

ここで重要なのが、常に二人の自分を持つということだ。目の前の議論に熱くなりつつも、どこか頭の片隅にクールな考えを持つ自分がいる、というイメージである。いわば、常に頭の複数の部分を働かせるということだ。 会議や会話の場では、目の前の話に集中し、会話に参加するということがまず大前提だ。だがその一方で、当初設定した目的に沿ってここはそろそろ、まとめに入るべきだな、ちょっと雰囲気が悪くなってきているので、空気を変えなくてはといったことも考えながら進めていく必要がある。

4. デジタルとアナログの使い分け

デジタル情報とアナログ情報を適切に使い分けることで、より効果的な情報収集と活用が可能になります。AIもAIに頼り切るのではなく、業務効率化目的で適切に活用する。

アウトプット思考の課題と注意点

アウトプット思考を実践する上で、以下のような課題や注意点があります。

  1. バランスの取り方。必要最小限の情報収集と十分な思考のバランスを取ることが重要。

  2. 偏りのリスク。自分の得意分野や関心領域に特化しすぎると、視野が狭くなる可能性がある。

  3. 誤った結論のリスク。少ない情報から結論を導き出すため、誤った判断をする可能性がある。

  4. 継続的な学習の必要性。アウトプット思考を効果的に実践するためには、常に自己研鑽が必要。

アウトプット思考は、情報過多の現代社会において、効率的かつ創造的な知的生産を行うための新たなアプローチを提示しています。従来のインプットからアウトプットへという流れを逆転させ、目的を明確にしたうえで必要最小限の情報を収集し、最大限のアウトプットを生み出す思考法は、ビジネスパーソンや知的労働者にとって非常に示唆に富んでいます。

ただし、アウトプット思考を実践する際には、情報の偏りや誤った結論のリスクにも注意を払う必要があります。また、この思考法を効果的に活用するためには、継続的な学習と自己研鑽が不可欠です。

AI時代において、人間にしかできない創造的な思考がますます重要になる中、アウトプット思考は我々の知的生産性を高め、競争力を維持するための有効な手段となるでしょう。


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