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【書籍紹介】運は遺伝する 行動遺伝学が教える「成功法則」橘玲、安藤寿康 共著

これは直近1年で読んだ中で最も衝撃的な1冊でした。コミュニティやNFT関連で先に読まなければいけない本があったのですが、本書を読み始めたら、ぐいぐい引き込まれ、先に読了しました。

行動遺伝学というのは、遺伝ですべてが決まるという遺伝決定論でもなく、遺伝の影響はなく育った環境や努力ですべてが決まるという環境決定論でもない。遺伝と環境の相互作用で決まるという理論。

行動遺伝学の大家エリック・タークハイマー博士が発表した「行動遺伝学三原則」。

第1原則 ヒトの行動特性はすべて遺伝的である
第2原則 同じ家族で育てられた影響は遺伝子の影響より小さい
第3原則 複雑なヒトの行動特性のばらつきのかなりの部分が遺伝子や家族では説明できない

遺伝と環境の相互作用で知能や行動特性が決まると言いつつ、遺伝の影響が60~70%と大きいそうです。

遺伝率を見ると、計算や認知、学歴のような知能だけでなく、やる気や集中力のような性格とされるものも、ほぼ半分は遺伝で説明できる。

※遺伝率とは、ある形質についての表現型(観察できる特徴)の分散、つまりばらつき具合が、遺伝や環境によってどの程度説明されるかということ

■遺伝とSES(社会経済的地位:Socio Economic Status)の関係

SES(社会的地位)が高いほど、遺伝率も高くなる。トルストイの名作「アンナ・カレーニナ」の一節「幸せな家族はいずれも似通っている。だが、不幸な家族にはそれぞれの不幸なかたちがある」が示している通り。

豊かな家庭だと子どもは自分の好きなように環境を選べますから、遺伝的素質が発現しやすくなる。一方、豊かでない家庭では、教育を重要だと考えている親なら少ない収入から子どもに投資するかもしれませんが、そうでない親は、学校に通わせるより家の仕事をさせようとするかもしれない。家庭環境の特質がストレートに出やすくなり、その結果、遺伝率が下がるわけです。

生得的に高い知能や学習能力を持っている→SESが高い(親が裕福)→学習意欲が刺激され結果が出る→裕福になるという連鎖。俗にいう「東大生は遺伝する」というやつです。

学業成績の遺伝率とSESの関係を調べたタークハイマーの研究では、もともとアカデミックモティベーション(学習意欲)をもっている人は、SESが高いと、その意欲が刺激されるとの結果も出ています。逆にSESが低いと、学習意欲があってもそれを実現することが難しい。そのためSESが高いほど学習意欲も学業成績も遺伝率は高くなっています。

■年齢と共に遺伝的特徴が発現する

知能の遺伝率が年齢とともに上がるのは20歳くらいまでで、その先、遺伝率の上昇はフラットになっていきます。幼児期は親の育て方や家庭環境の影響が比較的大きく、遺伝の影響が顕在化していませんが、成長するにつれて自分の遺伝的素質に合わせて環境を選択したり(遺伝と環境の能動的相関)、友人やまわりの大人がその子の性質や能力に合わせた関わりをするようになる(遺伝と環境の誘導的相関)機会が増えることで、本来の遺伝的な素因が前面に出てくるのではないかと思います。

中学受験の過熱で社会問題化しつつある毒親問題。行動遺伝学的には、どんなに親が必死になり、子供を虐待寸前まで追い込んだところで、最終的には遺伝で受け継いだ能力に収斂していくという悲しいお知らせ。

学校や塾の教師なら、小学校のときに一生懸命勉強して難関中学に入った子どもが、中学になると、たいして勉強ができなかった子どもにどんどん追い越されていくことをよく知っています。後者は一般に「地じ 頭あたまがいい」といわれますが、成長とともに遺伝的な資質が現われてくると考えれば納得できます。

■早期英才教育に対する注意喚起

鉄は熱いうちに打てといいますが、相手は打ったとおりの形になる鉄ではなく、形状記憶合金のように、遺伝子の導く形にだんだんと近づいていくんです。もちろん子どもの頃からよい文化に触れさせることの重要性は強調してもしすぎることはありません。しかし他の子より一足早く学ばせて優位なポジションに行かせようとか、あるいは他の子より出遅れるとかわいそうだから早くから学ばせようという趣旨だとすると、必ずしも報われないことがあることは覚悟しておく必要があるでしょうね。そういった個人差の半分は環境ではなく遺伝も関わっているわけですから。

■遺伝にまつわる保守/リベラル、それぞれの主張と矛盾

  • 保守派:「白人と黒人のIQが違うのは遺伝だ」と言いながら、子供が同性愛者になるのは子育てが悪かった為であり「治療可能である」と主張。

  • リベラル派:知能が遺伝するなんてとんでもないと言いながら、性的志向や性自認はすべて遺伝で決まると主張。

■親の子育てと遺伝の関係

子どもの性格(遺伝)に、親がその子をどう育てるかに影響を与えていることから、子育てにも遺伝が大きく影響しているとい言える。

親の子育てによって子どもの性格が決まるというよりも、子どもの性格に合わせて親が子育てのパターンを変えているということです。すくなくとも、親が子供に一方的に影響を与えているのではなく、親子も相互作用のある人間関係の一種で、影響は片方向ではなく、双方向で生じているのでしょう。

■人との出会いにも遺伝が影響?

まったくの偶然ではなく、誰に話しかけるとか、どのような話をするかを、自分と相手の遺伝的な相性で無意識に選んでいるのではないかと思います。結局、そうした些細なことも含め、あらゆるところに遺伝の長い影が伸びているのではないでしょうか?

とこんな具合に、次から次へと興味深い話が展開され、気がついたら読了となること請け合いです。


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