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Interview vol.1 元町映画館石田涼さん(番組編成担当)「この夏のオススメは、やっぱりジョン・カサヴェテス」

 8月から3年ぶりにスケジュールチラシがリニューアルして復活しました!そこで新たに、元町映画館に関わる人にお話を聞くインタビューコーナーがはじまります。vol.1は2023年1月より番組編成を担当している石田涼さん。作品選定基準やパブボードで注目を集めた女性映画連続公開のこと、これからの取り組みについて聞きました。



■大事なのは自分の心が動くかどうか


―――あまたの候補作から、上映作品を選ぶ基準は?
石田:映画ファンが好きな映画をかける上映会とは違い、映画館は興行として成立させなければいけないと考えたとき、どういう映画を作り、どういうお客様に届けたいとか、どういう広げ方をしたいというビジョンが見えている人と、ちゃんとお仕事として素敵な映画に関わっていきたいです。こちらから聞き出さないと、どういう映画なのかすら分からないような(上映依頼の)営業もありますし、社会人として当然なところを抑えた上で、話ができるというのが前提条件としてありますね。作品の中身としては、わたしがお客さんとして来館したときよりずっと前から元町映画館があるわけですから、その中で培ってきた監督や配給とのつながりを継承しながらも、結局大事なのは自分の心が動くかどうか。そこだと思っています。
 
―――心が動くかどうかという意味では、石田さんがこれだと思う作品は配給に積極的にアプローチし、最終的に当館での上映が決まるケースもあります。そうしなければ、やりたい作品が自動的に他館に決まる流れが強まりかねないのが現状ですよね。
石田:お笑いの「じゃないほう芸人」じゃないけど、神戸のミニシアターの「じゃないほう」にはなりたくない。どうしてもパブ(宣伝広告)の多い作品は当館に上映依頼が来にくいので、劇場公開決定情報はくまなくチェックし、やりたい作品はこちらからアプローチしています。直近では『アシスタント』(6−7月上映)や『メーサーロシュ・マールタ監督特集』(7月上映)、『炎上する君』(8月上映)、『燃え上がる女性記者たち』(9月以降上映予定)がその結果、当館での上映が決まった作品ですね。
 

■1本、軸になる作品から流れを見せた「女性映画連続公開」


受付前に1ヶ月掲示されていた女性映画連続上映のパブボード


―――6月半ばから受付前に「女性映画連続公開」のパブボードが登場し、6-7月にかけて上映する5作品と1特集が紹介されています。今までも女性映画を上映はしてきましたが、一つの流れとして、まとめて提示するのは初めてかもしれません。
石田:日本だけでなく、世界的にジェンダー問題が話題になり、それをテーマにした映画がたくさん作られるようになって、女性映画の数自体が増えたことが、まずあります。今回は韓国のドキュメンタリー映画『AFTER ME TOO』を神戸YWCAさんと共催で1週間限定上映することが前から決まっていたので、その前後に女性映画を入れて、まとめて宣伝したいと思い、『AFTER ME TOO』より間口の広い作品(『アシスタント』)を前の週に置き、『AFTER ME TOO』と一緒に宣伝をすることで来場に繋がるような作品を後の週に持ってくることを漠然と考えていたんです。すると、上映予定作品の中に、女性映画の数がたくさんあることに気づいた。それなら特集とまではいかなくても、そういう流れで見せていけるのではないかと。1本軸になる作品があった結果できたことかなと思います。
 
―――現在公開中の『AFTER ME TOO』の予告編に、2週間後に上映する4人の女性監督によるオムニバス映画『人形たち』+『Bird Woman』がかかり、すごく繋がりを感じたり、作品選定の想いが伝わります。
石田:予告編もそうですし、「女性映画連続公開」のパブボードコメントには結構多くのお客様が反応してくれるので、よかったです。
 
―――石田さんの書いた作品コメントが端的にポイントを表現していたし、石田さん世代から見た心の叫びのようなものも見えて、とても良かったです。やはり同年代の若いお客様に、もっときていただきたいですよね?
石田:本当にそうなのですが、それがなかなか難しいということは映画館で5年働いて感じることです。ずっとどうしたらいいのかと言い続けているだけではダメだとわかっているのですが、コロナがあり、映画館だけでなく外に出るという習慣が一度途絶えてしまったので、今後、文化芸術や社会において、そのことがどんどん目に見えて傷となって、取り返しがつかなくなる心配はありますよね。
 

■多種多様なオタクを取り込みたい


―――石田さんはもともと音楽映画やサメ映画に精通していましたが、そこも今後武器として押し出していきたい?
石田:自分の好きなものを仕事にできたら楽しいじゃないですか。映画に関しては、良くも悪くもわたしにとっては仕事なので、他の好きなものが映画としてその辺を漂っていれば捕まえたいという感じです。音楽はもともと好きでライブハウスに通っていましたし、お笑いとか、アイドルも好きですし。オタクは自分の推しの現場であれば、どこにだって行くんですよ。多種多様なオタクを取り込みたいという気持ちがあるんです。
 
―――なるほど。映画館で好きなアーティストの作品がかかれば、駆けつけますよね。
石田:これからの上映作品で『まーごめ180キロ』ならママタルトのファンの方が来られるだろうし、6月の『GOLDFISH』は「アナーキー(亜無亜危異)」のファンの方がたくさんいらっしゃり、多分元町映画館に初めて来られた方も多かったと思うんです。好きなものが映画館にあれは出向いてくれる。わたしも推しが出演する映画が上映されたら行くし、オタクは味方につけたいですね。サメ映画ファンもちょっとオタク気質なところがありますので、この夏は盛り上がっていきたいです。

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■『ハッピーアワー』のホームで、カサヴェテスを本気でやらないわけにはいかない


代表作6本を一挙に上映する特集『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ』


―――夏の話が出たので、スケジュールチラシ復活号となる8月のオススメ映画を教えてください。
石田:もう、8月はジョン・カサヴェテスですよ!さんざんオタクの凄さを力説したあとに、シネフィルの皆さんに喜んでいただける作品を挙げていますが(笑)、まじでカサヴェテスです。カサヴェテスに影響を受けている監督がたくさんいるし、いい映画であることはもちろんなのですが、濱口監督自身も公言されているとおり、『ハッピーアワー』はカサヴェテスの『ハズバンズ』の影響を受けているんです。元町映画館は濱口竜介監督『ハッピーアワー』のホームですから、その映画館で、カサヴェテスを本気でやらないわけにはいかないんです!
 
―――今年も年末、濱口監督が舞台挨拶にこられるなら、まさにお聞かせしたい言葉です。
石田:わたしが編成になってから、上映作品数が増え、回転数があがり、2週間の上映なら長いという感じで、1週間で終わりの作品も結構多くなってきた中で、ジョン・カサヴェテス特集上映は3週間やりますから!カサヴェテスは基本的に1本が140分ぐらいあって、結構映画館泣かせなのですが、それでもやります。初週はザジフィルムズさんの特集上映から1日2作品と、グッチーズ・フリースクールさんが権利を取得した『グロリア』を上映するので1日に3本、カサヴェテスを観れるんですよ。ちょっと、やりすぎでしょ?(笑)
 
―――石田さんのカサヴェテスとの出会いは?
石田:映画館で観たのは『グロリア』ぐらいなのですが、ここ数年は配信でも観ることができるようになったのでそこで観た作品だと『オープニング・ナイト』が好きです。『ハズバンズ』はなんてホモソーシャル映画なんだ!と思いました。名作ですが、そこは価値観の問題ですね。余談ですが、今、東京のシアター・イメージフォーラムの上映では若い観客も結構来ているそうで、初めてカサヴェテス作品に触れ、作中での女性の扱い方について疑問を呈しているツイートをしている人もいるそうです。確かにその通りだし、名作が名作としての価値を失われるわけではないけれど、今のジェンダーにおける価値観からみればおかしいということに気づけるぐらい、若い人たちのジェンダー意識が育ってきているとわかります。
 
―――名作と言われてきたものに対して覚える違和感を表現することは大事ですね。
石田:今までだと、名作だしこんなことを思う自分の方が…と黙ってしまうところを、きちんとSNSのような人の目に届くところに書けるのがすごいと思います。予告編で濱口監督や三宅監督がコメントを寄せているのに(笑)。東京だけでなく、神戸のような地方の劇場にも若い人が観に来てほしいですね。
 8.12(土)-9.1(金)『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ』上映決定!https://www.motoei.com/post_event/cassavetes2023/

8.12(土)-9.15(金)『ジョン・カサヴェテス×ジョナサン・デミ』上映決定!
https://www.motoei.com/post_event/cassavetes_demme/


■支配人廃止に驚かれたコミュニティシネマセンター総会

―――6月末には東京で行われたコミュニティシネマセンターの総会に出張で行かれましたが、初参加はいかがでしたか?
石田:他の映画館の人とはなかなか会えないので、どんな作品が入っているかという話も含め、いろいろな映画館の支配人とお話しでき、楽しかったですね。自己紹介で当館が支配人制度を廃止したことを話すと、「どういうことなんですか?」と結構聞かれました。他の映画館の人からは「すごいよね」とか「なかなかできないよね」と。
 
―――2023年1月から元町映画館は支配人を置いていませんが、何か支障はありましたか?
石田:ないですね。まだ探り探りの状態で半年きたという感じなのでわからないけれど、番組編成=支配人ではなく、映画館の番組編成という立場なだけなので気は楽です。
 
―――支配人は、映画館の顔の役割を果たすので、取材を受けるときもまず「支配人」になりますよね。
石田:映画館の顔というのは、ちょっとイヤなんですよ。ただ、わたしが支配人を辞退したことから、一般社団法人元町映画館の社員さんたちが廃止すると決めたのはおもしろい発想の転換だなと思いました。
 

■お客さまは情報を届けてほしがっている


―――石田さんは映画館公式SNSの更新もほぼ一人で行っていますが、映画館の情報を届けることの難しさを感じますよね。
石田:若い人はインスタしか使わないそうだし、当館のコアな客層はTwitterで検索されるんです。それ以上の年齢層の方は大体がFacebookですよね。世代によって使っているSNSの違いがあるのがまず大変だし、お客さまは「情報を届けてほしい」という意識が強い気がします。わたしはグイグイ情報を取りに行くタイプなので、こちらがさまざまなSNSで発信している情報をぜひ活用していただきたいですね。
 
―――オタク気質の方は、自分の欲しい情報を常に探しているし、取りに行きますよね。
石田:やっぱりオタクの人を育てていかないといけないですね。今の話でいけば元町映画館オタクを育てなければいけないわけですが、当館はサメ映画もやれば女性映画特集もやるし、間口を広げていきたいじゃないですか。この時点で矛盾しているし、本当にどうしようというのが正直なところです。
 

■感想シェア会をYWCAさんと運営して感じたこと


―――一つの考え方として、映画鑑賞プラスアルファの体験という付加価値をつけることも、間口が広がるのではないかと思うのですが、現在上映中の韓国ドキュメンタリー映画『AFTER ME TOO』では上映後に連日感想シェア会を開催しています。参加しての感想は?
石田:めちゃくちゃ楽しいですよ。いち映画ファンの自分としてなら、映画に対する人の感想は聞きたくないし、観終わってすぐに感想を求められるのは耐えられないので感想シェア会には絶対参加しない。まずは自分の中で観た映画のことを噛み砕いて、噛み砕いて、じっくり醸成していきたいんです。だから、今回の『AFTER ME TOO』の感想シェア会を神戸YWCAのみなさんがしてくださるということで、どんな感じになるんだろうと思っていたのですが、神戸YWCAの代表の方がわたしと一緒に感想シェア会を進行してくださり、YWCAのメンバーの方が観客として積極的に発言してくださり、本当に建設的な議論になっているんです。わたしは日々勉強させてもらっている立場で、話したり、聞かせてもらったりしています。
 
―――神戸YWCAのみなさんは、2021年当館で上映したドキュメンタリー映画『SNS-少女たちの10日間-』を観た後に、オンラインでの感想シェア会を企画され、当時支配人の林さんやわたしも参加させていただきました。そういう風に常日頃からアクションをしておられるので、自分ごとと捉えた上で意見を述べる場を重ねておられる結果なのでしょうね。
石田:ただ映画館が単独で感想シェア会を開催するのは難しいのではないかというのが、正直なところではあります。根気強くやっていくべきなのだと思いますが。
 

■ライトなファンを増やしたい


―――感想シェア会を継続的に映画館独自でやるのは難しいかもしれませんが、『ぼくたちの哲学教室』の哲学ワークショップ哲学カフェのようなイベントは、映画ファンというわけではなけど、楽しそうだと思ってきてもらえそうな手応えがあります。
石田:気に入った作品やイベントのときに足を運んでもらい、次に気になる作品があれば2ヶ月後とか半年後、1年後でもいいから、また来てもらえるような。それぐらいのペースで足を運んでもらうライトファン、元町映画館に行ったことがある人を増やしたいです。
 
―――ライトファンの映画館へ足を運んでくださる間隔が、少しずつ短くなっていくといいですね。あとは「夏休みの映画館」のように、子どもの頃にミニシアターで映画を楽しむ企画を続けてほしいというのが、わたしの願いでもあります。
石田:昨年は1週間日替わり上映で、コンプリートしてくれた中学生がその後、ひとりで映画を観に来てくれるようになったんです。「夏休みの映画館」は、本当にミニシアターの英才教育です。今年は7月、8月の週末2日間に開催しますが、ぜひ小さいうちにミニシアターデビューしてほしいですね。

7.29(土)・30(日)、8.26(土)・27(日)
『夏休みの映画館2023』開催決定!
https://www.motoei.com/post_event/natsuyasuminoeigakan2023/

(2023年7月5日収録 Text:江口由美)
 

<石田涼さんプロフィール>


1993年、神戸市生まれ。ビジュアルアーツ専門学校大阪・放送映画学科卒業。2015年には映画チア部の一期生として活動。卒業後、在京キー局でADとして働いたのち、2018年から元町映画館のスタッフ。2023年1月から元町映画館の番組編成担当。専門はサメ映画。推しは欅坂46、≠ME、Aマッソ。


スケジュールチラシ2023年8月号裏面掲載の短縮版


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