見出し画像

#元町の上で「storage books 」

『愛がなんだ』『あの頃。』などの今泉力哉監督が東京・下北沢を舞台にひとりの青年と4人の女性の出会いを描いた群像劇『街の上で』。新型コロナウイルス拡大による上映延期を経て、ついに当館でも5/1(土)より公開いたします。公開を記念し、映画と合わせて映画館がある「街」を楽しんでもらうために近隣の書店や喫茶店の協力のもと、noteにてオンラインマガジンを刊行します。タイトルは「#元町の上で」。お店の人が観た本作の魅力、オススメの書籍やドリンクの紹介、さらに映画館スタッフによるお店へのインタビューなどで〈元町〉という“街”の魅力を伝えたいと思っています。映画も街もお楽しみください。

今回は書店編。代表者の方々に「荒川青のための本棚」と題し、主人公の荒川青に送る書籍を選んでいただきました。映画を観てから選書を読んでも良し、上映前に読んで、物語への想像を膨らましても良し。

今回ご紹介いただいのは…



「storage books」

内装1

(店内の様子)


JR元町駅から徒歩10分。書店に加えて同じビル(グループ)には「書庫バー」や子ワーキングスペースも。

団体の理念でもある…

出会いが人を変える。

そして芸術は人を豊にする。

この自らの体験を神戸の街に遺したい。

(公式サイトより)

…映画館も体験できる場所です。今後ともよろしくお願いします


そんな「storage books」から『街の上で』へのコメントはこちら。


『街の上で』コメント

舞台は東京・下北沢。古着屋で働く主人公・荒川青は恋人に突然別れを告げられ、気持ちの晴れないまま日々を過ごしているうちに、ある日 女性監督から自主映画への出演を持ちかけられます。この映画は、そんな荒川青と彼の周りの若者たちが織りなす人間模様を、繊細に映し出した作品です。

画像2

(場面写真)

 小説家や役者、アーティストになることを夢見てこの街に集まってきた若者と、彼らのそばで何者にもなれずに嫉妬・焦りを感じる青。同世代の若者が少しずつ活躍する姿を見て、青自身も何者かになろうと努力するものの、結果空回りをしてしまう。「自分は何者か」にこだわってしまうZ世代の気持ちの揺らぎを、とてもリアルに表現していると感じました。自分も、「何者か」にこだわりすぎてはいないか。鏡を通じて自分自身を見るように、観る人に多くの問いを投げかけてくれるようです。

machinouede04_sのコピー

(本作の4人のヒロイン)

 「街の上で」と、含みのあるタイトルから抱いた「一体 何が起きるんだろう」という淡い期待に反して、この映画には、迫力のあるアクションシーンもなければ、世紀の大恋愛もありません。ただ、そこには、いくつもの小さなストーリーがあります。決して「映える」とは言えずとも、たしかにそこに存在している一人ひとりの物語。普段 音もなく通り過ぎていくように感じていた見慣れた街の風景を、ほんの少し変えてくれた気がしました。


storage books」の「荒川青のための本棚」がこちら⬇️



「storage books」が送る「荒川青のための本棚」


夢追う若者が集う下北沢で、皆と違って何者にもなれない自分にどことなく引け目を感じながら、静かに日々を過ごす主人公・青。古着屋の店番で手にしていた本のタイトルが『金沢の女の子』というところから、海の向こうののような大きな憧れをもっているという訳もなく、その姿は自身の苦悩や葛藤から目を逸らすために視線を本に落としているかのように感じられました。この映画が観る人に、価値観を考え直すきっかけを与えてくれたように、「何者でもない自分」に悩む青にとってのきっかけになることを願い、私から2冊の本を紹介します。


『ファン・ゴッホの手紙

著者:吉田修一

出版社:みすず書房/2017新装版発行

編訳:二見 史郎

訳:圀府寺 司

書籍1


ファン・ゴッホの没後100年を記念して1990年に刊行されたオランダ語版の書簡全集を、日本語新装版として編み直した1冊。すっかり神話化されてきたファン・ゴッホですが、父親に精神病院に入れられようとする場面や、彼を支えた弟との軋轢と感謝、不満と感動を縒り合わせる絆の物語まで、手紙という形で、彼の気持ちを非常に正直に表現してくれています。理想的な賢者として崇められるような人物でも、その日々はとても泥臭く、人間らしく生活する姿には親近感を抱くほど。「自分は何者か」なんてことは、後から自ずと付いてくるということを、静かに伝えてくれる1冊です。


少々ボリュームのある書籍ですが、日々の仕事や自然から受ける感動、様々な人物への敬意などを長文で語る、日録さながらのフィンセントの書簡集は、読む人を飽きさせません。店員と親しくなるまでに日頃から古本屋に通う本好きの青であれば、きっとじっくり楽しんでくれることでしょう。


参考:オンラインストア


ひとふでがき 365×10×1


著者:minaco sakamoto

出版社:烽火書房/2020年

書籍2

2冊目は少し毛色を変えて、ライトな1冊をご紹介します。ひとふでがき作家、そして靴下ソムリエとして靴下のオリジナルデザインを手がける minaco sakamoto(さかもとみなこ)が、専門学生の頃から10年間描き続けてきたひとふでがき作品を厳選して収録した1冊です。

ー 昔から好きだった絵の勉強をちゃんとしてみようと、 大人になってから思い立った。 ずっと学びつづけている周囲とのレベル差に焦るなか、 通い出した専門学校の先生に言われた一言「一日一枚絵を描き続けたらうまくなるよ」。 それから私は、 ひとふでがきを10年描き続けていた。(帯コメントより)

タイトルの「365×10×1」の意味は、「10年間 1日1枚 毎日描き続けた」ということ。アート関する知識が浅くてもはっきりとわかるほどに、ページを捲るごとに上達していく彼女のひとふでがき作品は、「どんなに小さなことでも続けることで一歩ずつでも着実に形になっていく」ということを教えてくれます。周囲と比べて焦る気持ちは置いておいて、たまには自分のこれまでを振り返ることも、青には大切かもしれません。

参考:オンラインストア


「storage books」

【住所】神戸市中央区三宮町3丁目1-16三星ビル2F

【電話】078-331-6977

【メール】store@kobe-design.co.jp

【営業時間】12:00-19:00

【定休日】毎週火・水曜日

公式サイト

映画『街の上で』5/1(土)公開


(c)「街の上で」フィルムパートナーズ

文責:映画館スタッフ 宮本

もしよろしければサポートをお願いいたします!いただいたサポートは劇場資金として大切に使用させていただきます!