
絵本ver.「ビートと魔法の帽子」
ずっとずっと遠くの南の海の上に、星のかたちをした島がありました。
その島は、ちずにはのっていない島。
海の真ん中にぽつんと浮かんだその島には、どうやら、飛行機や船では行けないのです。
今日のお話は、そんな不思議な島に住んでいる、虹いろりゅうのカオリちゃんのお話です。
星のかたちをした島の、一番はしっこのゴツゴツした岩山に、虹いろりゅうのカオリちゃんが住んでいました。
カオリちゃんは、絵本を読むのが好きです。
絵本のなかで、ひつじ飼いの少年になったり、南の島のお姫さまになったり。
空想の世界で、いろんな人物になって楽しんでいると、時間を忘れてしまって
気がついたら、ごはんを食べるのを忘れていたことも何回もありました。
カオリちゃんには夢がありました。
それは、おしゃれな帽子をかぶって、スキップしてあるくことでした。
サンタクロースが出てくる絵本の中で、おんなの子がプレゼントにもらっていた、しましまの帽子。
そのさし絵を見たときから、ずっとあこがれていたのです。
「わたしも、いつかあんな帽子をかぶってみたいな。
おしゃれをして歩いてみたい。あるきながら、指をならして、スキップするの。」
でも、カオリちゃんには大きなつのが生えていました。
「わたしにはつのがあるから、帽子をきっとやぶってしまうわ。
だからこの夢はかなわない夢。
想像して楽しんでいるので、わたしは十分しあわせなの。
「でも、やっぱりかぶってみたい。」
「そうだ、帽子屋さんにいって、相談してみたらいいかもしれないわ」
次の日、カオリちゃんは帽子屋さんにいきました。
帽子屋さんにつくと、カオリちゃんはすぐにお気にいりの帽子をみつけました。
あの絵本といっしょの、しましまの帽子があったからです。
カオリちゃんは、勇気を出して店員のおねえさんに、きいてみました。
「わたし、カオリっていいます。」
「この帽子が好きです。かぶってもいいですか?」
おねえさんはすこし考えてから、こう言いました。
「ごめんね。カオリちゃん。」
「カオリちゃんの頭には、つのがはえているから、きっとこの帽子はやぶれてしまうわ。」
「だからこの帽子を、あなたに渡すことはできないの。」
おねえさんは、ていねいに、説明してくれました。
そして、カオリちゃんがかぶっても大丈夫そうな、別の長い帽子を、お店の裏にある倉庫の中にさがしにいってくれました。
でも、それはカオリちゃんが恋した、しましまの帽子ではありませんでした。
カオリちゃんは、歩いてきた道をもどって、お家に帰りました。
お家にかえってきてからカオリちゃんは、ごはんを食べたり絵本を読んだりしました。
でも思い出すのは、あのしましまの帽子のこと。
「やっぱり、つのがはえたわたしには、あの帽子はかぶれないのね。」
カオリちゃんのほおに、涙がこぼれました。
その時、不意にどこからともなく小さな声が聴こえました。
「こんにちは。僕の名前はビート。てるてるぼうずの妖精だよ。」
カオリちゃんが目を開けるとそこには、一寸法師のように、ちいさな子が立っていました。
その子は、ちょっと古びたハットをかぶっていたし、てるてる坊主と呼ぶにはちょっと変わった姿でしたが、たしかに、「雨が上がりますように」って窓辺につるす、あのテルテル坊主と言われれば、そんな風にも見える姿でした。
「こんにちは。わたしはカオリっていうの。」
「泣いていてごめんね、今かなしい気持ちなの。」
てるてるぼうずの妖精のビートは、こういいました。
「ぼくはね、こころの雨の、雨やどり屋さん。」
「はい、これあげるよ。」
びーとの手には、あのしましまの帽子がのっかっていました。
カオリちゃんは、驚いて言いました。
「手品みたい。うれしいわ、ありがとう。」
「でもね、わたしの頭にはつのがはえているから、かぶったら、その帽子をきずつけてしまうわ。だから受けとれないの、ごめんね。」
びーとは帽子を、カオリちゃんのしっぽの先にのせて、いいました。
「だいじょうぶだよ。」
「ちょっとだけ、目をとじていてね。」
そしてすっと息をすって、空を見あげました。
びーとは、星の形のつえを空にかざして、魔法のことばをとなえました。
「るんたったらりらりら!」
「るんたったらりらりら!」
「るんたったらりらりら!」
星の形のつえの先に、光が集まったかと思うと
しましまの帽子は、カオリちゃんにぴったりの大きさになりました。
それを見たカオリちゃんの瞳には、涙が溢れました。
「とても、とても、うれしいわ。」
こんどのは、あったかい涙でした。
「わたし、しましまの帽子、似合ってるかしら?」
びーとはいいました。
「とてもお似合いですよ、おじょうさん。」
「ねえねえ、スキップして、くるくるまわって遊ぼうよ。」
ふたりは、つかれて眠くなるまで、指をならしてスキップして遊びましたとさ。
(おしまい)