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空手用語と概念の固定化

下の写真はナイハンチ初段で、横受けと下段払いを同時に行う箇所である。

本部朝正、大阪、1984年

本部流のナイハンチのこの箇所は、他流とは異なる点がある。それは「下段払い」の位置が体の横へと「払われずに」、体の正面に「突き出している」という点である。

実はこの「下段払い」は、本部流では下段払いではなく実際には「突き受け」を意味している。つまり、敵の突き手を上から一本拳で――指の第二関節の部分で――突き落とすか、もしくは正拳の外側を使って槌打ちで叩き落とすのである。

空手用語の大半は、昭和以降に本土で整備された。それゆえ、「受け」とか「払い」といった用語もそのまま受け取らず慎重に考える必要がある。こうした名称はわかりやすさを優先して便宜的に付けられたもので、本当は受けに見える動作が突きであったり、あるいは両方を兼ねている場合もあるからである。

本部朝基に師事した小西康裕は、「私は横受けとは言わずに、横手と言っています。なぜなら『受け』と言ってしまうと本当に受けだけの意味になってしまうからです」と語っていた。この小西先生の考えは本部朝基の影響を受けたものであろう。

上の写真は、ナイハンチのいわゆる「諸手突き」の写真だが、本部朝基はこれを「取手(関節技)」として理解している。諸手突きの名称に引っ張られて、「これは横から襲ってきた敵を突いているのだ」と解釈してしまうと、鉤突きが敵に届かず、技の解釈としておかしくなる。しかし、本部朝基のように「掴み手」と解釈すると、この不可解な動作も全体として取手として理解可能になる。

それゆえ、受けが突きかもしれないし、突きが取手かもしれない……という柔軟性をもつことが大切であり、言葉の概念固定に惑わされないように注意しなければならない。

出典:
「空手用語と概念の固定化」(アメブロ、2019年3月16日)。note移行に際して加筆。


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