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「わたしを作った7冊」ブックカバーチャレンジ

 友人作家、入江敦彦さんから、私を作った7冊 というブックカバーチャレンジが回ってきました。バトン系は苦手なものもありますが、これは楽しい!やりたい!と思った中のひとつです。

 7日間連続は難しかったので、ぼちぼち半月くらいかけてインスタに記事をアップしていきました。この記事はそれに加筆あるいは修正を加えたものです。
 しかし本来は、本の表紙だけをアップするものだったと知ったのは、7つめをインスタにアップしたあとのことでした。 ……おそい。

 始めてみてわかったのですが、文字が読めるようになって以来、相当数の本を読んできたはずだし、大好きな本や影響を受けた本もたくさんあるのに、自分を作り上げた7冊が、すぐには思い出せないのです。映画やドラマなら、かなりはっきりとこれだ!と言えるのに、本はむずかしい!

 "食べたことを覚えていなくても、食べたものは栄養になっているでしょう。
 読書も同じだよ"
 

 ……と、何かで読んだことを思い出し、そうだよ覚えていなくてもいいんだよ…と思いつつ、なんとか7冊を選ぶことができました。

 残念ながら実家を離れて久しく、いま暮らしている家の本棚は、英国関係の資料に占領されているため、書影はわずかしかアップできなかったことをお許しください。
 それでは本題のはじまりです。

ー1冊目ー 泣いた赤鬼 


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 これは復刻版の表紙です。
 何年か前、浜田廣介さんの復刻全集が出た折に買い求めました。

 子供のころ持っていた本の絵とは違うと感じるのですが、もしかすると、実は同じ絵なのにもかかわらず、私の記憶の中が違う絵になってしまっているだけなのかもしれません。捏造か。

 さて、なぜ『 泣いた赤鬼 』 が最初かというと……

 この本でわたしは今でいう ブロマンス に目覚めたんですよ! 断言。

 青鬼が大切な友達のために嫌われ役を演じることで、赤鬼は村人と交流を持つことができた。
 赤鬼はそんなにも素敵な友達よりも、多くのニンゲンとの交流を望んで、最後は後悔の涙にくれるわけですが、子供のころのわたしは、よく続きのお話を考えていました。
 長じてからは青鬼と赤鬼のプラトニックBLも考えました。

 昔話ではなく浜田廣介さんのオリジナルの物語なので、もちろん著作権の問題がありますから、表にどころか脳内から出すこともないと思いますが……

 そういえばアリとキリギリスも、ー誰かひとアリくらいはキリギリスの音楽に心いやされて、「ボクがごはんを稼ぐからキミは音楽を続けて…」と言いだす者がいても良いのでは?ー と子供心に考え、これまたブロマンス路線の妄想を…… 

 いや話がずれました。
 ブロマンスであるとともに、異形の存在、あるいは人とは違う外見や内面を抱える主人公に入れ込んだ、最初の物語ではないかと思うのです。

 プロ漫画家になって初めて描いた和物ファンタジーコミック『 花明かりの歌 』は、桜色の髪を持つ鬼が人間の少女を育て、そして村人や動物たちの命を救うため、山火事の犠牲となる物語でした。
 『泣いた赤鬼 』は間違いなく、わたしを漫画家へと育ててくれた一冊です。


「 泣いた赤鬼」は、現在さまざまな挿絵で刊行されています。
未読の方は、ぜひどうぞ!
 
「花あかりの唄」は、短編集「アンティークRomanthic」に収録されています(電子版)よろしければどうぞ!


ー2冊目ー 時をかける少女 

 


 わたくしの、えすえふ ことはじめは小学校3~4年でした。
 このときSFと出会っていなかったら、『アンと教授の歴史時計 』は描けなかったでしょう。

 『時をかける少女』は筒井康隆さんの少年少女向けSF名作です。
 タイムトラベル、並行宇宙、タイムパラドックスなどの、SF用語を覚えたのはこのお話おかげですが、実は、NHKのドラマ版が最初の出会いで、原作を読んだのは少しあとのことなのです。

 その後は市の図書館で、当時は小さかったSFコーナーから、ジュブナイル版の海外SFを借りて読みふけるようになりました。
 ヴェルヌやウェルズの古典SFです。


 小学校の高学年には年長のいとこから 『ボッコちゃん』 を譲り受け、星新一さんにもずっぽりとはまりました。和田誠さんの挿絵も魅力的で大好きでした。

 デビュー当時、わりと短編を得意としていたのは、星新一ショートショートをたくさん読んだおかげではないかと思ってます。

 余談ですが小学生のとき、『時をかける少女 』の続編が出ると知って、近所の本屋さで注文して、わくわく受け取ったところ、作者名:石山 透 となっていて……

ーあれ?ー と思ってあとがきを読んだら、" 筒井先生がいつまで待っても続きを書いてくださらないので、許可をとって僕が書きました" と書かれていて、ドラマの脚本家さんが続きを書かれたのだということを知りました。
 その後、石山 透 さんは人形劇「新八犬伝」の脚本も書かれたのですが、お若くして亡くなられていたことも、この記事を書くために検索して知りました。R.I.P


「時をかける少女」 私が読んだのはこのカバーでした!

アンと教授の歴史時計」(電子書籍)
英国の様々な時代にタイムスリップする少女漫画です。チャーチル首相や、
聖ポール大聖堂を作ったクリストファー・レンなど、歴史上の人物も登場します。


ー3冊目ー 小公女

 意外性もなにもないですが、やはりこれは外せませんね。

 一番ときめいたのは屋根裏です。屋根裏。
 そしてセーラの誇り高さが大好きでした。

 セーラは、もちろん優しい女の子ですが、貧困の身に落ちてからの彼女の弱者への態度は、優しさというよりも、彼女の矜持と意志の強さから生まれたもの。

 最後にセーラに大金持ちの庇護者が現れたとき、セーラを奴隷のようにこきつかってきたミンチン先生は、あわててセーラと庇護者の前で、セーラをずっと可愛がってきたと主張し、立場を取り繕おうとします。
 セーラは「ミンチン先生、あなたは、わたくしを可愛がっておられたのですか? 少しも存じませんでしたわ」と毅然と言い放つのです。
 わたしはこのシーンが大好きです。 

 のちに 『コルセットに翼 』で描いた、残酷なデスデモーナ先生と、したたかな生徒たちのバトル描写は、私がセーラとミンチン先生から得たものが、30年かけて発酵した結果に間違いありません。

「小公女セーラ」
 ネットで私が持っていたのと同じ本をみつけました!
https://usedbook151e.thebase.in/items/25659651

「コルセットに翼」
 20世紀初頭の女学校が舞台の少女漫画。当時の医療や女性参政権、車に飛行機など、ぐんぐん変わっていく時代とともに成長していくクリスティンの物語です。


ー4冊目ー よだかの星


 最初に読んだのは小学校の教科書です。

 国語の教科書をもらったら最初に全部読む…という人も多いと思いますが、わたしもそうでした。

 宮沢賢治といえば『注文の多い料理店』、そして『アメニモマケズ』。
 小学生の私には『アメニモマケズ』の本当の良さは理解できなかったのですが、『よだかの星 を初めて読んだときの、なにがそんなによかったのかわからない感動は忘れません。

 いまも何がそんなによいのかわからないままなのですが…… 美しい音楽を奏でるキリギリスとアリのブロマンスなんぞ妄想する子供ですから、よだかもすっかり中二的(小学生だけど)耽美(という言葉も知らなかったけど)アイドルと化したわけです。

 醜い姿の中にとてつもない美しさがある……というお話は、のちの 『オペラ座の怪人』 や 『エレファントマン 』(映画)にハマる素地を作ったのだと思います。

 まあ、漫画ではなかなか書けないですけどね。
 醜いものの中に美しさがある…という描写は、文章なら良いのですが、絵にしてしまうと、相当な画力がないと、醜いしか印象に残らなくなってしまうので。
 しかし今読み直すと、『よだかの星』には、どこにも、ひとかけらも、よだかの美しい部分を描写した箇所は無いんですよね。

 いったい何を、どこを、美として受け止めたのか、タイムマシンが実用化されることがあれば、ぜひ小学生の私に尋ねてみたいです。


「よだかの星」 絵本もいろいろありますね!


ー5冊目ー Tinkle Twinkle

 
5冊目は同人誌です。
 めるへんめーかー先生の Tinkle Twinkle

 残念ながら今は、県をまたいでの移動は自粛ということで、実家にある本の画像をのせることができません。める先生のファンの方は、イメージをおもいうかべてくださいませ。 

 高校1年生のとき、漫研の先輩経由で見せてもらったのが最初です。
 英国の児童書の挿絵が、そのままコマ割りになったような画風の漫画に、大きな衝撃を受け感動しました。
 それまでに読んできた少女漫画では見たことのない世界が、B5サイズの薄い本の中に無限に広がっていました。

 そして、描いた漫画を誰かに読んでもらうには、プロになるだけではなく、同人誌というものを作る方法もあるのだな…ということも覚えました。
  
 実際に同人誌(個人誌)を発行できたのはハタチの時でしたが、思ったより多くの方に買っていただけたおかげで、プロ漫画家になる決意が固まったのでした。当時、買ってくださったみなさま、ありがとうございます!

 そんなわけで、める先生の同人誌と出会わなかったら、同人誌を作ってなかったかもだし、漫画家にもならなかったかもしれないのです。
 偕成社で リエギエンダ物語 を連載できたのも、める先生のご紹介がきっかけでした!

める先生と一緒に掲載されたコミックfantasyも思い出の一冊です。

「リエギエンダ物語」現在、note にてマガジン公開中です。


ー6冊目ー The Rabbit's Wedding


The Rabbit's Wedding / Garth Williams


 教科書以外で初めて読んだ英語の本です。
中学一年の夏休みでした。
今も心がささくれだったときに開くと、ほっとする一冊。

 日本語で読んだのと印象がちがい、なんだかいろっぽくてせつない!と感じて、それまで意識したことがなかった、原著と翻訳の差分というものについて、想像するきっかけになりました。

 まあきっかけになっただけで、その後もいまも、英語、ぜんぜんですけどね。
 しろいうさぎとくろいうさぎ という邦題は、子供向きらしさを出すためかな?と思っていたのですが、タイトルでネタバレないようにとの、配慮だったと知りました。

 英語と日本語の言葉の違いもありますが、英語版の場合は最初にオチが明記されていることになるので、それで受けとる印象も変わるのだなと思います。

 着地点がわかった上でドラマを楽しむ………というと思い出すのが、ヒッチコック手法です。

 " レストランで食事している恋人たち。ふたりが囲むテーブルの下に爆弾があることを視聴者が知っていれば、ふたりの会話をずっとドキドキしながら見られる。知らなかった場合は爆発したときの驚きは大きいけれど、途中のドキドキハラハラは得られない " 
……というものです。

 うさぎの結婚の場合は、途中になにかすごいドラマがあるわけではないので、ネタバレないタイトルも、おそらく正解なのだと思うのですが、逆にいえば、途中に大きなドラマはないのだから、タイトルが「結婚」のほうが、ドキドキして読める……ということでもあるのかもしれませんね。

 
 著者の Garth Williams は 大草原の小さな家の挿絵も担当されています。
 うさぎのふわふわのイラストと、写実的な大草原の小さな家の絵柄は、まったく印象がちがっていて、実はつい最近まで同じ画家さんだと知りませんでした。
 でもどちらも大好きです。
 絵を生み出す画家さんの内面のオーラは、絵柄の違いを超えて、読者にまっすぐ届くのだということを、知った思いがいたします。


「The Rabbit's Wedding」
「Little House in the Big Woods 


ー7冊目ー 英国滞在エッセイ


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 7冊目は3冊の文庫本。
 本当はどれを一番最初に読んだか思い出したかったのですが、思い出せなかったのでトリオでご紹介。 どれも昭和50年代までの英国滞在の記録です。
 読んだのは高校卒業前後あたりかな。

 どの執筆者さんも英国関係の研究家さんや文学者さんではなく、他の分野のお仕事の方が生活者としての目線で綴った、今でいえばブログのような内容。

 物語の中の英国でも、ニュースの中の英国でも、ドラマの中の英国でもなく、旅行ガイドでもない英国に、触れるのはとてもむずかしかった……インターネットのなかった時代。生活者のレポが面白い!ということに気づいて、それらを読み集めるきっかけになった本たちです。

 1990年代には、バトンを渡してくださった入江敦彦さんの英国本が加わるのはもちろんのこと。
 その頃には出口保雄さんや小池滋さんという、英国文学者の本を熱心に読むようになっていましたが、文学者や研究者さんの文には「そこらへんの駄菓子がうまい」なんていう文章はあまり出てきませんから、そのあたりが知りたい私は、いろいろなジャンルのお仕事の方の英国滞在記を探しては、むさぼるように読むようになっていったのでした。

 そうしていると、浮かび上がってくるのは、同じロンドンであっても、住む場所、つきあうコミュニティ、職業、経済力などによって、いろんなことが違ってくるということ。

 英国のテレビドラマを、ネット配信で観られる時代ではなかったし、1980年代までは、日本で上映される英国映画もとても少なかったので、そのぶん1冊の本から得られる満足感は、いまより大きかったと思います。

 私の脳は、この20年ほどずっと20世紀前半以前の英国世界で暮らしていましたが、久しぶりに現代英国を描いてみようかと思っています。

 今は英国在住の方達とリアルやネットでおつきあいがある分、リアルを把握しつつも自由な漫画の世界にダイブするのは難しいかもしれませんが、そこは私が見た私の好きな英国 を素直に描いていくことしかないかな?と思っているのです。

自分を構成している要素を考えるきっかけをくださった入江さんの著書を紹介して、この記事はおしまいです。
 長い記事を読んでくださって、ほんとうにありがとうございます。お疲れ様でした!

英国在住の京都人、入江敦彦さんの英国本はこちらからどうぞ
京都の本のほうがいっぱいあります!


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