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「労働組合に捧ぐ」 ~元人事部長からのエール(終)~

こんにちは。
モチベーションLAB所長の吉川和利です。

「労働組合に捧ぐ」は今回が最終話です。
ではよろしくお願いいたします。


組合があることで助かった事例

次に、人事部の立場で、「組合があることで助けられた事例」をご紹介しておきたいと思います。

(1) 会社の代わりに説明してくれる

会社の経営に関わる重要事項や就業規則の改訂の際には、会社がまず各所属長を集めて説明し、各社員には所属長からその説明を行うのが決まりです。

しかし、恥ずかしい話ですが、所属長が事情や制度を詳しく理解していないということも多く、その結果、説明が曖昧になったり、分かりにくかったりということが多々あります。

一方、組合は組合の責務として社員(組合員)に同じ説明をしてくれるのですが、組合員が興味を持つところを詳しく、かつ分かりやすく説明してくれるので結局はこちらのほうが分かりやすかったということは何度もありました。

(2) クレームの前捌きをしてくれる

例えば、所属長のマネジメントに不満を覚えたり、不適切な言動を見聞きしたりした社員(組合員)は、組合の支部長などを通じて労働組合本部事務局にクレームを届けてきます。

これが、例えばコンプライアンス違反が疑われるなどの場合は、組合は会社に適切な対応を求めてきますが、そういった以外の軽微な問題(単なる言葉の行き違いによる不満など)は、組合が話を聞いてあげることで、不満が和らいだということがあります。
もちろん、会社への正式抗議や調査依頼に発展することもありますが、いずれもこういった前裁きをしてくれることで解決へスムーズに事が運ぶという事例も多々ありました。

上記、2つの事例をご紹介しましたが、こういった場面で労働組合が無かったら会社の負荷は大変なものになっていたということなのです。


人材育成の場でもある

さらに会社にとってプラスなことは、労働組合による組合員の(社員の)人材育成という機能です。

組合としての独自の必要事項として役員に対して教育を施すのですが、自分自身の経験からも、会社全体のことが分かったり、自身の業務のOJTでは学べないことを学べたり、議論や意見交換を通じてコミュニケーション力を養えたり、社内だけではなく社外にも人脈が広がったり、など組合の役員をしていたからこそ学べたことは多数ありました。
他の役員さん達も僕と同様に感じていたことと思います。

労働組合の中で、専従役員として活動する人の数はごく僅かです。組合役員の殆どは非専従、つまり社員としての業務をこなしながら組合の役員を兼務していることになります。

その非専従の役員さん達に、OJTでは学べない様々なことを組合が教育してくれます。無論、会社はそこに一切の費用を投じることがありません。
彼ら・彼女らが組合役員の経験を通じて学んだことは、会社の業務で活かしてくれるわけであり、これは会社にとってはありがたい以外の何物でもありません。


人材発掘の場でもある

執行委員会メンバーとは労使協議会などで直接の議論を行う関係にあるので、その人のスキルの程はある程度分かります。

執行部以外の中央委員会メンバーとは直接の関わりを持つことはありませんが、さすがにこのクラスの役員に選任されている人なら、一定の高い意欲やスキルの持ち主であると想像できます。

「社員のスキルは、人事評価を通じてしか分からない」
というのは表向きの話で、裏側では色々な手段を講じて社員の情報(適性やスキル)を集めます。

例えば、会社が主催する研修に参加してきた人を入念に観察し、その中で適性やスキルを測ることはその一つです。

上記の通り、労働組合の役員に目をつけることも同様です。
非専従であっても執行委員には触手を伸ばすことはさすがにやりませんが、それ以外の中央委員会メンバーの場合は、組合との調整を経た上で然るべき部署に異動してもらったり、管理職に任用したりすることもあります。

労働組合には申し訳ないことですが、労働組合とは会社にとっての人材発掘の場でもあるわけです。


人事部員も鍛えてくれる

前章では、労働組合が人材育成に取り組んでくれることや、人材発掘の場でもあることについて述べました。これは会社にとっての大きなメリットです。

加えて労働組合との議論の場は、人事部員にとっても絶好の育成の場になるということです。
労働組合に議論で負けないように自らを鍛え、そして議論を通じてさらに強くなれるわけです。
健全で強い労働組合は、強い人事部を作る役割も果たしてくれます。

私も同様に、人事部の部長代理、そして部長として事務折衝や労使協議会に臨みましたが、時には大いに反発され「見損ないました」などのショッキングなことを言われたこともあります。
しかし、その言葉をバネに取り組んだことが自分自身の成長に繋がったとも思います。

そういう意味では、「組合があって良かった」ではなく「組合が無いと困る」という考え方もしています。


労働組合は会社を強くする

さて、そろそろまとめに入ります。
ここまで考察してきたように、労働組合の存在意義は高いと感じています。だからこそ組織率低下に少し懸念を覚えています。

もちろん、どの会社にも労働組合があった方が良いと盲目的に考えているわけではありません。

私がよく知っている会社の中には、経営者が本当に社員を大切にし、その幸せを考え、適切な労務管理に取り組んでいるところもあります。
例えばそんな会社で、ある日突然に「組合を作りましたので団体交渉をお願いします」なんてことになったら、使用者(経営者)は戸惑うでしょうし、そういった水面下での行動は労使の信頼関係を棄損し、深刻な労使間の対立を生むことになりかねません。
そもそも、そんな会社では労働組合の必要性は無いのかもしれません。

いずれにしても、労働者が自らの意志で労働組合の存在意義を認め、それが必要であると考えるのであれば、社員会などの緩やかな形からでもいいので、組織化することを推奨したいと思います。
そして、メンバー間の議論を経て、皆さんの総意の元に労働組合にまで発展すればなおよいと思います。

前述したような「健全な労働組合」が増えたら、企業も絶対に強くなるのになあと思う今日この頃です。

(おわり)

最後までお読みいただきありがとうございました。
エルアール人事労務研究所のHPもよろしくお願いいたします。


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