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1/20(金) 2人分のリビルド

知り合って3年ほど経つが、友人の家に初めて訪れる。親密圏の再構築を行おうとする自分の試みはおそらく特殊で、惹かれる気持ちに反するように、彼の人生に立ち寄るのを躊躇してもいた。「自分が暮らしている街をあなたが歩いているなんて不思議な気持ちだ」と言われたが私も重ねた月日を感じ、過去の自分に語りかけたくなってしまう。

絶対に良い人だから、絶対に良い人に愛されてほしくて、私のような人間は彼に踏み込まないと決めていた。彼を愛する人が現れたら手放しで祝福したい。だけどその人が彼をさらっていってしまうのだとしたら、現れないでほしい。そんな愚かな葛藤も瓦解して、波に押し流されるように抗いがたく、いま、ここに居る。

北欧の刑務所のように整然とされていて色味のない部屋の、15分ほどのルームツアー。私の色々な試みを知っている彼が、「自分を知ってもらうのに、部屋を見てもらうのが良いと思う」と一つ一つ家具や配置の意味を教えてくれる。
「効率性を重視しすぎて面白みがない部屋だから、もう少し部屋に彩を置きたい」と言うので、どんな絵がこの部屋に似合うのかを考えた。

* * *

イエローのマーカーで白いキャンバスに三角を描く。三角に少し重なるようにブルーの丸を描く。三角と丸が重なった部分は穏やかな色を置きたくて、ブラウンに塗りつぶす。

知人経由で知った、大人も自由に絵を描こうというコンセプトのイベントに彼と2人で参加して、私はシンプルな図形の抽象画を描こうと決めた。色も3色までとする。彼の整然とされた部屋を邪魔しないように。

丸いブルーは彼で、三角形のイエローは私だ。丸は彼が望む調和。ブルーは彼が好きな色。三角形は私のタトゥー。イエローは好奇心、楽しいことや刺激のイメージ。彼には何も言わずに、出来上がりの絵だけを見せて「私たちのことを描いた」と言ったら驚くだろうと、悪戯心で描き上げる。

規範的な関係性に適合できず、迷い立ち止まっていた彼に、言葉を尽くしたアウトプットで変化を与えたい。だけど変化の先は穏やかで、温かい経験になれば良いと思う。自分は彼に一方的に変化を与えるのだとおこがましくも思っていたが(実際に"そう"プレゼンしたが)、描いた絵を見返して気づく。三角形のイエローに重なり変化するブラウン。彼もまた私に変化を与える人なのだということを。

* * *

「そう、大好きだと思える友人関係があって、一人の時間も楽しめて、仕事だってなんだかんだ働けてて、それでもう十分すぎるほど十分だったんだよね」

彼の肩に自分の頭を重ねながら、昼の光に微睡むようにぽつぽつと喋る。私の大好きな友人の話を彼が手放しで褒めてくれるので、それが本当にポリアモリーのように感じられて嬉しいと。今まで彼の観測範囲に一度も出たことのないようなはずの単語の数々を拾って、ひとつひとつ、彼があまりにも実直に理解に落とし込んでいくので私はいつも尊敬してしまう。

「その上で、さらにこんな関係が得られるなんて思わなかった」

苦しみも呪いも何度も掬い上げて浄化して、もう何もないだろうと思ったところに知らない器があって、そこからあふれてこぼれおちる。あまりにも自然に泣いてしまって、こんな涙があるのかと驚いた。苦しく突き上げるような涙ではなくてあふれる、という表現がぴったりの。閾値を超えた何か。

* * *

私とあなたの、2人分のリビルドは鮮やかでドラスティックだ。そして不思議なほどに優しい侵襲で、私たちを作り替えていく。もう変わらないだろうと思っていた部分まで。

そこに在る私たちはその時々に合わせて、手を変え色を変え形を変えてゆく。私が三角でもイエローでもなくなり、あなたが丸でもブルーでもなくなり、重なり合う色も変わって、キャンバスも変わって、図形も離れて、混じり合ってぐちゃぐちゃになって、思いもよらぬ絵になったとしても。

今まで言葉にできなかった願いを、祈りを、通りすぎてきた心を、言葉を尽くしてーー言葉は文章かもしれないし絵かもしれないし身体かもしれないし言葉なき時間かもしれないーー語り合いたい。

私の、あなたの、私たちの変化を寿げる関係であれるように。

近いうち、自分に起こった変化について文章を書くだろうと話したら、あなたは「出来上がったら読ませて」と返事をした。きっと次に会う時は肩を寄せ合い、私の使い古したiPhone8の画面を覗き込んでもらうだろう。

そうして読み終えたあなたの言葉を、私はまた聞きたいと思うのだ。

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