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ゲイビデオの撮影現場に入らせてもらった。 〜仕事の流れと今後の業界動向



 今回はなんとゲイビデオの撮影現場にお邪魔させてもらったので、それについて書こうと思いますわ。

 ビデオモデルをしながらゲイ風俗のボーイをしていた同僚や、ゲイビ会社を数社跨いで撮影経験があるゲイバーのお客様からどういう世界なのかを酒の席でざっくり聞くことはあっても、実際の現場に入らせてもらったのはあたいも初めてなので、緊張して心臓がドッキリドッキリDON!DON!不思議なチカラがわいたらどーしよ?って感じでしたわ。

 ちなみに出演者(ビデオモデル)側で出演したわけではない。金銭の授受も発生してない。映像に登場もしていない。ただ現場に入らせてもらって話を伺っただけ。もしも画面の端っこにあたいのような謎の白いバケモノが映り込んでいたらビデオがお蔵入りしてまう。観てる人もちんちん萎えてまうで。


 さて、まずはじめに。

 当たり前だけど、本来ゲイビデオは出演者と撮影スタッフ以外が現場に立ち入ることができない世界ですわ。取材や見学なんかは受け付けていないし、撮影の仕事もゲイだからと言って誰でもできるものじゃなく、企業にツテや信頼が無ければ就きづらい、と思う。

 そして何よりこの業界こそ、“ゲイに理解のある人“以外にはあんまり見つけないで欲しい《隠れたゲイ文化》の最たる例です。

 ゲイビデオが巷間で話題になる時なんて、大概が出演者に対するスキャンダルや暴露ネタやホモフォビアな“ネット文化”などで正直ろくなことがない。

 《ゲイであること》《性的な仕事をしていること》そして《男性同士の性行為が映像として残っていること》、三重にも侮蔑される要素が揃っていることで、いわゆる“ネットのおもちゃ“にされやすいのですわ。

 だからあたいも取り上げて来なかった。あたいが取り上げる必要も無いと感じていた。隠れたゲイ文化だからーーいや、これも厳密に言えば《ゲイによってちゃんと隠されていたゲイ文化だから》と言った方が正しい。

 たとえば、今やノンケ(異性愛者)のお客様や女性も入れるように、当事者以外への門戸の開いた営業形態も増えてきたゲイバー業界とは違って、ゲイビデオの主たる顧客層はゲイ・バイ男性ですわ。これは昔から今もその商いの性質上変わることがない。ゲイ風俗と同様、完全ゲイ向け商売という《限られた客層と閉鎖的な経済》でやってるニッチな商売なわけですわな。(もちろんナマモノが好きな女性も購入している。女性向けゲイビモデルイベントもあるくらいだ、この話もいずれ書く)

 だからこそわざわざ業界の外側に向かって発信する必要性がなかった。あくまで内輪に向けた宣伝と商いでいい。ゆえに世間からは見つからないように“隠されてきた“。

 そしてそういうやり方こそが、そこに関わる従事者(出演者)やーーひいてはゲイというマイノリティの存在を守ることになっているわけです。

 「ゲイ・バイ男性当事者以外に見つからないように商売をする」っていうのは、そこに従事する人間と、それを利用する人間両方を衆目から守る効果があります。ゲイオンリーのゲイバーのように、店側も客側も協力し合い、みんなで共同体の存在やそこにいる人間の情報を他に漏らさないように守秘することで、自分たちの存在や居場所も守って、安心して通い詰めることができていたわけです。

 ゲイだとバレてしまえば居場所や職を失ってしまう時代を生きていた先人の方々の《自分たちを守るための不文律と暗黙の了解》だったわけやね。


 そしてまだまだ現代でも、やっぱりゲイってだけで世間の目は厳しいところがあるし、とりわけ性的な文化・商売については理解は得られないですわ。だからゲイバー業界にいる従事者のメディア露出が珍しくなくなってきても、ゲイビモデルやゲイ風俗の出身者が表舞台には出てこないわけやね。(あたいが顔出ししてないのも風俗出身が大いに一因としてある)

 また、ゲイビデオ含む性風俗系の当事者も理解を得ようとは考えてない節もある。理解よりも距離感ーー見つけずに放置してくれと願っているのが大多数かもしれないですわ。性病や痴情のもつれと同様、いやそれ以上にゲイ当事者が恐れているのは身バレですから、ゲイの間でだけ噂になるのならともかく、写真・映像が社会に流出し実生活に影響を及ぼした場合、それこそ大袈裟じゃなく人生終了ーーそれくらいの悲壮感とインパクトで考えているゲイは多いです。

(そしてそういうゲイの生きづらさを共有していながらも攻撃に使う当事者も残念ながらいます。知り合いのゲイの出演作をSNSなどで名指しやアカウント付きで拡散したり、ゲイビデオの映像と共に出演者の実名や勤務先をネットに公開したりするアウティングの実例も悲しいことにあります)


 とにかく性風俗やセックスワークに関係する職業は、伏せられ、秘められ、隠されています。自分たちの身を守るために。

 それゆえ、ゲイビデオ業界は働き方や内情がブラックボックス的にもなっているところもあるのだけれど、ある意味では機密性が高い側面も持つ業界だとも言えますわ。なぜならゲイ当事者でも従事したことが無ければ、ギャラ形態や撮影現場の実態を噂程度でしか知らない人がほとんどだからです。あるいはまるで事実のように喧伝されているけれど、実際には尾ビレがついて誇張された推測や、とにかくでまかせの吹聴であるケースも多いみたい。


 あたいも今までゲイ風俗やゲイバーで働いている時に、ゲイビデオ出演者の同僚やお客様から実体験を聞くことはあったけれども、実際に現場を見たわけではないので、断片的な知識しか知り得ませんでした。ゲイであろうと、元ボーイであろうと、情報にアクセスする機会も場所も無いのです。

 なので経験者から話を伺うしかないんだけれど、話を聞いていても多分ある時代における一企業の、そして一出演者の一事情に過ぎないんだろうな、というくらいには人によって話す内容も異なります。まぁゲイ風俗と同じで、在籍していた店や地域や時代によって経験していることも内情も違うってだけのことなんだけど。一人の意見を参照にして語るにしても、あまりにも偏りがあるわけやね。

 そして企業内部に関わるくらいの立場の人(企業スタッフや制作部の方)にもなると、飲み屋の席でお話ししていても詳しいところでお茶を濁されたりしていました。まぁ一介のゲイに内情を漏らしても、ネットなどで企業名を名指しでばら撒かれるリスクもあるし、守秘義務的なところで上の人から口止めされているところもあるんでしょうな。

 なので色んな事情に鑑みてあたいもゲイビデオ業界には深くは触れてきませんでした。そもそも関わってない業界のことまで書けるわけじゃないし、書くメリットもないのでそこまで書きたい意欲もありませんでした。話題にはなるだろうけれど書いてたまるかって意地もありましたわ(一応ゲイビ出演者のボーイの話は『ゲイ風俗のもちぎさん(KADOKAWA)』の第4巻でも触れてます)



 そんなゲイビデオの世界に、つい最近になってようやく、いろんな経緯があって部外者ながら関与して内情に少し触れる機会があったのです。

 けど別に、あたいがプロデュースのレーベルを立ち上げたわけじゃないので、そういう邪推や期待はしなくて結構よ。フォロワーさんの9割以上がゲイ当事者じゃないアカウントである以上、これまでも、そしてこれからも、ゲイ風俗とゲイビデオにまつわる案件や宣伝は一切請け負いませんわ。

 ただぶっちゃけると両業界からたびたび案件のご相談を頂くのだけれど、それで報酬を得るのはあたいと経営陣だけです。そういった利己的な行いによって、そこで働く当事者の足を引っ張ったり、もっと有り体に言えば安全圏から晒し上げる行為に繋がりますわな。それはあたいがお世話になってきたゲイ業界と先人の努力を裏切ることだと理解しています。

 
 また「ゲイビの撮影って部外者も来るの?」「取材されてネットに書かれるの?」と不信感を募らせることに繋がったり、「目立って売れてさえしまえば出演者のプライバシーなんてどうでもいいのだろうか」と、業界体質や企業コンプライアンスへのマイナスな印象に発展しないためにも、なにより性的マイノリティであることやセックスワーカーであることがバレたら簡単に拭い切れないスティグマ(不当な扱い)を背負うことになる従事者の方々のためにも、直接的な制作会社の描写(企業名やモデル名やスタジオの所在地)は伏せて書かせてもらうし、ここまで書いてきたように従事者が背負っているリスクを最前面にした記事にすることを誓います。

 あくまでこれは《ゲイビデオ出演者を特定したり、ネットのおもちゃにされたりしている現状》への批判を主張のベースにした取材記事です。


 ようやくになるんだけれど、まず、今回の記事のことの発端を軽くおさらいしておく。

 2021年、飲んでたゲイバーで隣の男性と仲良くなる。ゲイビデオモデル兼ゲイ風俗のボーイをしている子。両方現役で働いている。30代前半。あたいの元同僚(その子もゲイ風俗ボーイ兼ビデオモデルしてた。コミックエッセイ4巻参照)の友達だったことも判明。そのことでますます打ち解ける。

 ↓

 2021年末ごろ、別のゲイバーで再会。ビデオ会社の人と飲んでいたようで話してみると、ありがたいことに「もちぎ」という存在も認識してくれていた。そこであたいは自身がもちぎだと伝える。店のママなどにもすでにもちぎであることを伝えているので、気兼ねなく全員でゲイ業界のぶっちゃけ裏側トークをする。

 そしてビデオモデルの彼から「なんでウリセン(ゲイ風俗)とゲイバーのことは書いて、ゲイビデオのことは書かないの?」と問われる。


 なのであたいはこういった感じで説明した。

あたいは自分の経験した業界だけ書きたい

エッセイのために調査や取材はあまりしたくない(書くことありきで人と関わりに行きたくない)

・業界をいい感じに描くことでゲイ当事者に憧れを持たせ、あたい経由でゲイ業界で働く人が増えるーーのようなスカウト的なことにはしたくない。描くならリスクや問題を浮き彫りにしたものをメインに据えたかった。スカウトは今働く人間がすればいいことだから

ゲイバーはある程度秘匿性があるから書ける。(ネットに従業員の顔写真などが載ってない・あるいは探しづらいから)また過去のことなので当事者が今はこの世界にいなかったり、特定しづらかったりするのでSNSで発信できる。ただしどの業界も現在働いている人たちに迷惑がかからないように配慮が必要。ウリセンを「ゲイ風俗」と当事者も使わない言葉に言い換えることで検索結果にあたいの作品だけが上がりやすくなるように配慮したり、店舗や顧客・従業者の情報を直接的に描写しないように心がけてきた(もちろんそれでも“隠されたゲイ業界を舞台にエッセイを描くこと“自体が当事者から反発と批判があることは承知)

だけどゲイビデオだけは過去の作品も探せる上、性行為の映像であるゆえにリスクの質が違う。自身が関わっておらず、さらに発信に対するインプレッションの多くがゲイ以外である以上、ゲイビデオを題材に何かを書くことはデメリットしかない


 というように長々と伝えた。酔ってたし向こうは途中からポカンとしてたし、口頭での説明だったので伝わったか不安だった。

 するとビデオ会社の方が「じゃあタイアップ記事や宣伝漫画をお願いしても無理ってことですよね」とスタンスを理解してくれた。あたいは「そうですね。ゲイ向けのものは全部お断りしてきました」と返した。

 まぁ性病検査系やLGBT向け就活サイトの案件漫画を書いてきたりはしたので、「いやノンケが見てる前でもLGBT向けの宣伝してるじゃん」と思う読者もいるかもしれないけれど、マイノリティ個人の特定や文化の晒し上げに繋がらない地位向上系案件は一円でも受けると決めとるのだ。その金で飲む酒がいっちゃん美味いからな。

 そしてその後、モデルの子が「それじゃあポリコレっぽい真面目な発信はやるってことなんでしょ? ゲイビも世間が思ってるほどヤバい業界じゃないし、モデルも儲けてるわけじゃないって発信してよ」と提案してきた。ポリコレっぽいってのには含みがあると感じたけれど、彼の言いたいことは分かる。つまり良くも悪くも含めてのきちんとした実態を書いてほしいってことだ。

 ただ、ゲイビデオモデル自体がそこまで儲けておらず「ゲイ風俗と兼業でやっていればボーイとしての宣伝になるくらいだ」とかつてのゲイ風俗同僚ボーイが語っていたことは、エッセイでも書いて単行本に収録していた。それにはある程度の誤解を解く反響があったと感じている。

 そして改めてそのモデルの子がエッセイで描いた彼と同様のことを、謙遜じゃなくそのままの意味で伝えてきたことで、あたいは(金銭面での事情についておそらくどこのメーカーも似たり寄ったりなのだろう)という風に受け取った。

 あとは撮影現場の実態ーーいわゆる労働環境なのだけど、そんなところに部外者が闖入すれば、出演者も萎縮するし、仕事の邪魔をしてしまう。ていうか許可が出るわけもないだろう。

「実際にこの目で現場が見られたらいいけど、さすがに撮影を取材するのもできないしね」

 という感じで、やんわりあたいが辞退するようなことを返す。するとビデオ会社の人は、

「ちゃんとしたイメージがつけば、回り回ってうちの会社にモデル志望してくる人が増えるかもしれないし、現場を見て何か書いてもらえるなら宣伝だと思って助かりますよ。スタジオ見にきます? 社長に確認しなきゃだけど、ミーハーだからフォロワー50万人いるゲイの取材とか喜んで受けると思う」

 と言ってくれた。

 ただしあたいはこの時その申し出を社交辞令の一環だと思い、

「ぜひぜひ〜」

 みたいにあっさり返してしまった。


 そして2022年、知人のドラグァクイーンとゲイバーで飲んでいた時に、ビデオモデルの子と再会。そして「あの後、社長に話したら『スタジオ見学ならいいよ』って許可出たらしいよ」と伝えられる。すでに半年以上時間が経っていたのでダメ元で再度確認してもらうと許可が得られたので、あたいとモデルの子とビデオ会社の人の三人で会所所有のスタジオを見せてもらえることになった。


 これが今回の記事の経緯である。

 実際に撮影しているところにお邪魔するのではなく、出演者と制作スタッフの両名とともにスタジオ見学をしながら話を伺っていくというスタイルになる。

 ーーここまでが記事の無料部分(全体公開)の部分になる。

 ここではあたいのスタンスと、ゲイ業界が直面している実態や、ゲイビデオなど性風俗関連について発信するリスク、その功罪などを伝えてきた。

 これを明記しておかないと、ただの物見遊山でお下劣なだけの記事であり、当事者の事情を無視して、嬉々としてセンセーショナルさだけを煽る品性のない作家なんだと受け取られても仕方ないだろう。あたいはそれが嫌なんですわ。知性はないけど、品性は持っていたい、それがあたいの目標であり生き様なのだ。バカでも優しく元気なら立派、それを体現したいのだ。

 また、改めてあたいがこの5年間続けてきた活動スタンスを再度表明することにもエンパワメントがあると考えた。ゲイ当事者はマジョリティに見つからないように日陰を選ぶ。そして日陰から権利を求めたり、加害をやめて欲しいと訴えれば、マジョリティの“ご機嫌を損ねてしまう“。だから押し黙るし、声高に戦う他の当事者に「余計なことをしないでくれ」と悲痛なお願いをする。そんな中で、あたいは当事者の声と、それを知る機会に無い非当事者の人とを接続する“便利な個人的な発信者“になりてぇと思っている。



 そしてここからは有料記事の範囲になる。

 「なぜ有料記事に書くのか、たくさんの人に見てもらいたいなら全部無料で書くべきじゃないのか」「有料記事や書籍は買ったりできない人間も多いので情報へのアクセスが困難になる」という声もある。あたいもそれは理解している。

 たしかに有料購読にはさまざまなハードルが存在する。無料で公開する方がインパクトもインプレッションも大きい。

 だけどその有料における一手間とハードルこそ、あたいはマイノリティの身を守る保護膜のような働きにもなると思っている。

 そこで発生するのは、お金を支払うというプロセスを経てでも、あたいの記事に対してこれは読みたいと感じてくれる前向きなパッション、そして想像力と共感力に満ちた欲求だ。あたいはそれを尊敬しているし、それを信頼している。それこそが安易な偏見や攻撃には結びつかない、豊かな議論や反芻や批判に結びつくと考えている。

 だからこの記事も含めて、今後もあたいは意義ある発信になるように努め、何よりそういった発信をちゃんと受け取ってくれる対等な立場である購読者の方々に向けて、まずは届けたいと考えている。

 そんで少しづつ世の中の潮流が変わればいいと思っている。あたいのようなただの個人が、社会全てを変えるだなんて大言壮語を宣えるほど自惚れてはいない。身の回りの人間がちょっと共感したり、知ってくれたらそれでいい。


 なんか綺麗事というかいいこと言っちまったわ。ちょっと恥ずかしいのでお茶をお酒で濁します。有料マガジンだと変な人が読まないからあんまり炎上しないし、購読者の方のおかげで今日もお酒が買えておいし〜。フゥッ✌️🍻✌️ってのが半分くらい本音なので、そういう自堕落で有り体なあたいをこれからも見守ってほしい。



 2022年 冬 東京某所 だいたい新宿から歩けるとこらへん。住宅街。

 その日、あたいは地下鉄から上がってくると、モデルの子とまず合流した。そしてすぐにその後、近くのコインパーキングに車を置いてきたビデオ会社のスタッフと合流する。知らないスタッフさんまでついてきてもらって大所帯になってしまったらどうしようかと思っていたけれど、以前もお会いして話したスタッフさん一人だったので安心した。

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