見出し画像

法律で暇つぶし

e-GOV法令検索

最初に法律に関する問題を一つ。
<【問】憲法で「民主主義」という言葉は何回使われているか?>
答えはほとんどの人が知らないと思うが、調べるのはさほど難しくない。憲法はそれほど長い法律ではないので、全文が載っているサイトをネットで探してきて、ざっと目を通してもいいし、用語検索をかけてもよい。答えは容易に得られる。ちなみに答えは「0回」である。
では、次の問題はどうだろうか。
<【問】日本には約2000本の法律があるが、このうち「民主主義」という言葉を使っている法律は何本あるか。>
こちらは手掛かりなしに調べるのはかなり困難だろう。しかし便利なツールがある。それが「e-GOV法令検索」。政府が提供している法令検索用のデータベースで、憲法、法律、政令、省令などについて、全文検索ができるすぐれものである。UIも極めてシンプル。こんな感じ。

e-GOV法令検索トップ画面(ページ上部)

上の問いなら、「全文」「法律」をチェックして、検索窓に「民主主義」を入力すればよい。条文中に民主主義という言葉を有する法律が表示される。答えは、次のような形で表示される。

「民主主義」を含む法律の検索結果

該当するのは、「放送法」「文字・活字文化振興法」「公文書等の管理に関する法律」の3本。各法律名をクリックすると、条文が全文表示され、どの条文に目的の言葉が含まれているかチェックできるようになっている。また、右端のページアイコンをクリックすると「民主主義」という用語を含む該当部分のみが表示され、その下の ↓ マークで全体をDLすることもできる。
日本には、約2000本の法律があり、大半は見たことも聞いたこともないものだが、いろいろな言葉を検索してみると、ときになかなか興味深い結果が得られることもある。マニアックな暇つぶしツールとして紹介しておきたい。
以下参考までに、「インターネット」と「コンピュータ」の例も併せて紹介しておく。

インターネット

まず、手始めに「インターネット」を検索すると128本がヒットする。なかなかの数であるし、民法や刑法といった基本法でも使われているのがわかる。それぞれの法律にどの時点で「インターネット」という言葉が加えられたのかは、法律ごとに改正の経緯を追わなければならないのだが、残念ながら、今回そこまでのリサーチはできなかった。ただ、「インターネット」が始めて法律に登場したのは、2000年の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(通称「IT基本法」。2021年に「デジタル社会形成基本法」の施行に伴い廃止。)であった(はず)。その後すぐに多くの法律でインターネットという言葉が採用されたというわけではなく、数が増えだしたのはおそらく2010年代になってからではないかと思う(上述のようにキチンとしたリサーチはできていないので個人的印象です)。法律におけるインターネットの用法は様々であるが基本的に裸で使われており、特別の定義規定をおいている例はないと思われる。一般的に新しい用語が法律に使われるようになるためには、義務養育終了レベルの人間が概ねの意味内容を理解できる程度に当該用語が社会に受け入れられていることが必要といわれているが、「インターネット」については、1994年に商用利用が始まって以来、四半世紀が立ち、保守的な法律策定の現場においても、十分に社会に定着した用語として認められているということだろう。

コンピュータ

次に、さらに基本的な用語として「コンピュータ」を見てみよう。実は「コンピュータ」という用語を含む法律は5本しかない。しかもそのうち「コンピュータ断層撮影装置」とう用法が2本、「パーソナルコンピュータ」「コンピュータゲーム」という用法が各1本で、単体で「コンピュータ」という用語を使用している法律は「文化芸術基本法」という法律1本だけである。なぜかというと、法律では外来語の使用は避けられる傾向にあり、対応する適切な日本語の用語がある場合には、基本的には日本語が用いられるからである。「コンピュータ」については、法律では「電子計算機」という用語が用いられている。「電子計算機」で検索すると340本の法律がヒットする。「電子計算機」の初出は把握していないが、刑法の電子計算機使用詐欺罪が1987年にできているので、おそらくこのあたりから使われだしたものと思われる。今はコンピュータのことをわざわざ「電子計算機」という者はいないが、1980年代であれば法律用語としての日本語優位の原則から「電子計算機」を使うことにさほどの違和感はなかったのだろう。法律は前例主義なので、一度「電子計算機」という用語が使われると、基本的には同意味の別の用語(コンピュータ)に置き換わることはない。したがって、将来的に出てくるであろうコンピュータに関連するいろいろな法律についてもよほどのことがない限り「電子計算機」という用語が使われることになると思われる。
なお、唯一の例外が「文化芸術基本法」だが、これは議員立法であり、前例との厳密な整合性を重んじる内閣法制局の審査を経ていない(議員立法は衆議院もしくは参議院の法制局の協力で作られる)ことによるものだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?