『キャラクター』感想(ネタバレあり)

 今回感想を書く作品はこちら。
 菅田将暉主演の映画『キャラクター』です。

ダウンロード (2)

あらすじ
絵は上手いものの、リアルなキャラクターが描けず苦悩していた漫画家志望の山城はある日偶然殺人現場を目撃する。
殺人犯をそのまま漫画のキャラクターにすることで漫画家として成功するが、殺人犯の両角は山城が描いた漫画を模倣して殺人を開始する。

感想(ネタバレあり)
大まかに言ってしまうなら『決して虚無ではないし、そこそこ楽しんで見れたものの脚本の粗を感じる作品』
まず最初に突っ込まずにはいられなかったのが、山城は初めて両角とあった事件をそのまま漫画にしている。(しかもニュースに成っているのに)
実際にこんなことをしたら人気作になるどころか炎上だろうと思わざるを得なかった。(一応「殺人現場をよく漫画にできるな」と指摘は入るのだが、「漫画家だから仕方ない(要約)」と反論されただけで終わりとなってしまう)
また山城は両角を主人公に設定したが、漫画は主人公だけではなく他にもキャラクターが存在する。両角一人だけを主人公にしたところですぐにアイディアは尽きてしまうはずなのに、それでも山城の漫画は人気であり続ける。(なお厳密に言うと山城は「優しすぎるからリアルな悪人を描けない」のだが「キャラクター」そのものを描けないというように言われている。彼の作品は決して両角ありきではないと言われるシーンが作中にあるが、そのシーンに説得力を持たせるためだとも考えられる)
そして山城が通報しなかった結果既に何人もの人間が死んでいるのである。
一応通報しなかったことを悔い改めている描写は劇中に存在するものの、警察などにそれを責められている描写は一切ない。
道徳的な観点から見て以上のように疑問を抱くシーンが多数存在した。

また何よりもう一人の主役である両角の背景がほぼ語られないこと。
fukaseの演技はサイコパスというキャラクターにこの上なくマッチしていたものの、何故彼が「4人家族」に拘って連続殺人を繰り広げるのかなどの理由がイマイチ納得できなかった。
両角(厳密にはこれは別人の名前だが)は「4人家族」こそが一番幸せだと語るカルト宗教に育てられ、戸籍(=キャラクター)がないまま育ってきたが、作中で語られる以上の背景はそれだけなのである。しかもあくまでただの情報として語られるだけなので何故両角が殺人を繰り返すのかという説明としては弱い。

両角は「キャラクター」がなく、それを定義づけるものが自分を参考にして描いた主人公だったという話の都合上過去を深く掘り下げることはできないのだが、それはそれとして「4人家族」にメタ的な意味を見出せない。
山城は義母と義妹と父に冷ややかな態度を取っており、山城の結婚相手は双子を宿しているのだが「4人家族」が重要な意味を持つ場所などここしかないのだ。(というかこの為に「4人家族」に拘る設定を付けたのだと思う)
山城の内に潜む狂気や過去に起因する鬱屈とした感情らしきものは触れられているのだが、結局それらは大して機能していない。

途中で山城は良心の呵責に耐え兼ね刑事に全てを打ち明けるのだが、結局山城は最初の事件をきっかけに漫画を描いていただけで行動らしい行動はほぼ全て両角がやってしまっている。
一応主人公らしい見せ場のようなものがないわけでもないのだが、それらも見せ場としては弱い。(色々と粗が出てくるため)

一時の迷いで道を踏み外しかけた山城が、様々なできごとを経験したことで道を正し殺人犯と対決し人間としても漫画家として成長するというストーリーともみなせなくはないが、両角との対決以降の描写も山城の狂気は仄めかされているので成長は別にしていない。
『ジョーカー』のように山城が吹っ切れればもっとサスペンスとして面白かったと思う。

ここまでで色々と批判点を挙げたが役者陣の演技はどれも素晴らしく、演出など狂気的な雰囲気は良く出せていた。
脚本の粗さなどに目をつむれば両角が何をしでかすかわからない不気味さもあってこちらの心を揺さぶるのには充分な力を持った作品だった。

裏を返せば脚本の足りない力を役者陣の演技などで補っている作品でもあるので、整合性などが極端に気になる方には合わないだろうが細かいことを気にしない人は見て損はしない作品だと言える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?