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【声劇台本】ショータイム劇場(男2:女3)

登場人物(男:2、女:3)

・ネロ/女
フィドルフィンショーと言う小劇団のリーダー。ドンドルフィン劇団と言う国1番の劇団の団長の娘。父を超え、みんなを笑顔にする舞台を作るのが夢。
少し大袈裟な言葉遣いや動きをする。
『人形師、フィルリア』の人形、ゼネク役。

・エリク/男
フィドルフィンショーと言う小劇団のキャスト。ドンドルフィン劇団と言う国1番の劇団の団長の息子、ネロの弟。姉と共にみんなを笑顔にする舞台を作りたい。
性格は慎重派で、繊細な演技が魅力。
『人形師、フィルリア』では、主人公に憧れる少年、エンボルト役。

・リコ/女
フィドルフィンショーと言う小劇団のキャスト。かつてドンドルフィン劇団で役者をしていた。
誰もが目を惹く美しさで、言葉遣いも丁寧。しかし、演技は大胆で迫力がある。
『人形師、フィルリア』では、主人公の幼馴染、ミリー役。

・ナツメ/男
フィドルフィンショーと言う小劇団のキャスト。ドンドルフィン劇団で雑用をしていたが、かつては役者だった。
ビジュアルは良く、スタイルも良いが、少し卑屈な性格。
『人形師、フィルリア』では、主人公フィルリア役。

・フィルア/女
人形師、フィルリアが初めて作り上げた美しい女性の木製人形。
明るく元気で嘘はつけない性格。
『人形師、フィルリア』の舞台セット。

【時間】約1時間15分
【あらすじ】
弱小劇団、フィドルフィンショーの舞台は失敗ばかり。次の舞台でも失敗すると、解散を宣告された。リーダーであるネロは、次の舞台にかつて自分が描いた物語を元にした脚本『人形師、フィルリア』を選んだ。
そして、倉庫で一つの人形が動き出した…。


【本編】


過去。

ネロ「私、いつかお父さんみたいな舞台をする!絶対、絶対!みんなを笑顔にするの!」

エリク「僕も、ネロお姉ちゃんと一緒にみんなを楽しませる舞台を作る!」

ネロ「言ったね、エリク!約束だよ!」

エリク「うん!一緒にお父さんみたいなキャストになるんだ!」

ネロ「絶対だよ!」

エリク「絶対!」


現代、事務所。

ネロ「絶対に無理だぁぁああ!!」

リコ「ネロ、小さい事務所なんですから、大きな声を出さないでください。…何があったんですか?」

ネロ「リコぉ…、この間の舞台、また失敗しただろう?」

エリク「野外劇場を借りてやったのに、急な嵐で中断したやつだよね?」

ネロ「その通りだエリク…。始まった当初は雨なんて降る気配はなかったのに、不運すぎる」

リコ「それで、それの何が無理なんです?」

ネロ「私たちの舞台は失敗ばかり…、お父様に言われてしまったんだ。次も失敗すれば、我らフィドルフィンショーは解散して、お父様の劇団に入ることになる…」

ナツメ「…それの何がいけないことなの?」

ネロ「ナツメ…」

ナツメ「僕らは元々君のお父さんの劇団にいたんだよ。戻ったとしても僕は裏方、君ら3人は舞台に立てるからいいじゃないか。何の問題がある?」

ネロ「問題しかない!私達の舞台じゃなくなる。お父様の舞台になるんだぞ!」

ナツメ「…演技が出来なくなるって訳じゃないからいいだろう…」

ネロ「…ナツメ!やっぱりお前も舞台に立て!」

ナツメ「はぁ?」

ネロ「お前の演技力、実力、ビジュアルは武器だ!昔、やってたじゃないか!」

ナツメ「!?…昔の話はよしてくれ、ネロ…」

ネロ「でも!」

エリク「言い合うのは止めようよ、二人とも」

リコ「そうですよ。ナツメが舞台に立つ立たないより、次の舞台をどうにか成功させる方法を考えませんと」

ネロ「それもそうだな…」

ナツメ「……」

リコ「でも、実際どうします?何処の劇場、どの演目をやるか…」

ネロ「場所は決まってる……。お父様の劇場だ!」

ナツメ「え!?」

リコ「というと、この国で1番有名な劇場…。劇団ドンドルフィンが所有してるあの舞台を…!?」

ネロ「いや、正確にはお父様が経営してる小さなハコだ…期待させてすまない…」

リコ「あ、あぁ…でも、団長が所有してる劇場でやるんですね?」

ネロ「むかつくよね。お父様…失敗を予想してるのかしてないのかは分かんないけど、私達を新しい劇団員として紹介するためのショーにしたいんだよ」

エリク「もう、舐められてるね…」

リコ「そ、そんな所やめた方がいいですよ!本番はいつですか?場所を探しましょう!」

ネロ「いや、そこでやる」

リコ「何で…」

ネロ「私達の舞台がお父様のと違うって証明するには、お父様の劇場で、私達の舞台をすることなんだから!」

エリク「姉さん…」

ナツメ「…馬鹿馬鹿しい…。やるなら好きにすれば?僕は裏方だから、必要な事しかしない」

ネロ「やりたい演目がある。『人形師、フィルリア』だ」

ナツメ「!?」

エリク「それって、昔姉さんが考えた物語をお父様が舞台脚本にしたやつだよね?一度だけ公演したこともある…。でも、あれって」

ナツメ「だめだ!その台本はやりたくない!」

リコ「ナツメ?」

ネロ「お父様から許可は頂いてる。あれは駄作だったと言われた。元は私の作り上げた妄想ごとだから、好きにして良いってさ」

ナツメ「だとしても…別の演目があるだろう…。あれは、やりたくない。舞台セットも…人間サイズの人形が必要だろう?」

ネロ「そう、そこなんだ、…貧乏劇団はセットも大掛かりに出来ないからな…。そりゃあ舞台は派手に出来れば見栄えが良くなる。でも、それだけだと意味がない。演者や演出あってこそ、セットがちゃちくても舞台は成り立つからな。しかし…人形は欲しい」

ナツメ「それに、演者は最低でも4人いる」

ネロ「いるだろう?4人」

リコ「それって…」

エリク「ナツメもいれて?」

ネロ「もちろん!」

ナツメ「っ、僕は絶対にやらない!!」

ネロ「あ、待てナツメ!」

ナツメ、出て行く。

リコ「行っちゃいました…」

エリク「姉さん、やっぱりナツメを舞台に立たせるのは無理だよ。それにその演目も…」

ネロ「私は、私のやりたい事をする。場所も台本も変えない。劇場も必要なスタッフも貸してくれるんだ。やっとナツメを舞台に立たせるチャンスが来たんだ!私は諦めたくない!」

リコ「どうして、ネロはそこまでしてナツメを舞台に立たせたいですか?」

ネロ「舞台上のあいつをもっと知りたいからだ」

リコ「舞台上の…ナツメ?」

エリク「……姉さん」

ネロ「さぁ、今日はもう解散しよう。台本は明日には用意出来てると思うから、稽古は明日からだ!頑張っていくぞ!」

リコ「は、はい、ネロ」

エリク「うん…」

ネロ「あ、二人とも。先に帰ってくれるか?私は舞台に使える物がないか、倉庫を見てから帰るよ」

エリク「俺も手伝うよ?」

ネロ「大丈夫。今日は私一人で…というか、一人で考えたくてな…」

エリク「そっか…分かったよ。じゃあ先に帰ろうリコ」

リコ「えぇ、あまり無理はしないでくださいね、ネロ」

ネロ「うん、気を付けて」

リコ「また明日です!」

エリク「じゃあね。お先に」

二人、出て行く。

ネロ「…はぁ」


倉庫。

ネロ「はぁぁ…。勢いに任せてあぁ言ってしまったが、やはりナツメを舞台に立たせるのは無理かな…?でも、あの演目はナツメにやって欲しい。……人形師フィルリアは人形と会話ができる不思議な力を持った天才人形師!でもその能力を理解されずに、気味悪がられて評判はどんどん落ちていく。心を病んだフィルリアは彼を慕う幼馴染と、彼の能力を信じる少年と共に人形ショーを行い、大成功を掴むというもの!あぁ、私の描いた物語が形になるなんて…!彼を慕う幼馴染、ミリーを演じるのはフィドルフィンショーの華、リコ!フィルリアの能力を信じる純粋な少年エンボルト役は我が弟、エリク!そして、主役のフィルリアの役は、ナツメしかいない……なんて、夢を描いても意味がないか…。念の為、別の台本も用意しないと……」

フィルア「そこまで考えてるのに、何で意味がないの?」

ネロ「え?……誰だ?ここはフィドルフィンショーの倉庫だぞ?他のみんなは帰っているはず。一体誰だ!?」

フィルア「ここだよ、ここ!」

ネロ「ん?ダンボールが山積みになっている所から声がする…。そこにいるのか?」

フィルア「んーーー、ばぁ!」

ネロ「うわぁ!?」

フィルア「にしし〜、驚いた?ねぇねぇ、驚いた?」

ネロ「お、驚きすぎて腰を抜かした…」

フィルア「あはは!大丈夫?ネロ〜」

ネロ「あ、あぁ……ん?待て、何故私の名前を知ってる!?」

フィルア「そんな細かい事いいじゃん。それより、このダンボールどかすの手伝ってくれない?そっちに出れないからさ」

ネロ「それより、君は何者なんだ?」

フィルア「私はフィルア。人形だよ」

ネロ「フィルア…人形!?何を馬鹿な…」

フィルア「体の継ぎ目でも見てみる?触ってみる?ほら、私ってばお人形さんだよ!」

ネロ「……これは、皮膚…じゃない。これは木製!?」

フィルア「木製のマリオネットなんて、フィルリアが作ったお人形みたいだね!」

ネロ「!」

フィルア「もう一度、私はフィルア。私を作ったのは、フィルリアという人形師の設定。どうぞ、よろしく!」

ネロ「フィルリアが初めて作った人形という設定の…。これは、夢か…?」

フィルア「夢ならそう思えばいい。でも、私はここにいる。どう?貴方が作った世界が現実になった感想は?」

ネロ「は、はは…。どうやら私は疲れているらしい…。今日は早い所休もう…」

フィルア「それより、このダンボールどかすの手伝って、ネロ!」

ネロ「……フィルアは、そういう口調なのか?」

フィルア「口調?」

ネロ「フィルアは舞台上にあるセットの一つとして登場し、フィルリアが一方的に話しかける人形だ。セリフはないから、フィルアがどう喋ってるかは、フィルリア役が解釈するんだ」

フィルア「フィルリアは優しく喋ってくれるよ。私と喋るのが楽しくて仕方ないって感じ」

ネロ「え?」

フィルア「そういうお芝居をしてるよ」

ネロ「どういう事だ…」

フィルア「そこのダンボール、退けてみたら?」

ネロ「……っ!」

ダンボールを退けるネロ。

フィルア「フィルリアは、たまにここに来て、私と喋ってくれるの」

ネロ「これは……、人形師、フィルリアの台本…。しかも、あの時の…!じゃあ、フィルリアは…」

フィルア「私はもう一度、舞台に立ちたい。人形役として」

ネロ「…お父様の舞台で使われなくなったセットや小道具もうちの倉庫に置かれてるとはいえ、人形フィルアがいたとはね…」

フィルア「舞台セットの私という人形がいて、キャストもいるんでしょ?」

ネロ「舞台が…出来る…?」

フィルア「出来る!ミリー役は?」

ネロ「リコ」

フィルア「エンボルト役は?」

ネロ「エリク!」

フィルア「フィルリアに手を貸す人形、ゼネクの役は?」

ネロ「私!」

フィルア「主役、フィルリアは!?」

ネロ「ナツメだ!」

フィルア「決定!」

ネロ「うん、…うん。やっぱり、これしかない…!」


翌日。

リコ「おはようございます」

フィルア「あ、おはよー!君がリコだね?」

リコ「きゃあ!?だ、誰ぇ?」

フィルア「私はフィルア!フィルリアに作られた木製のマリオネット!…っていう設定で、実際に私を作ってくれたのはドンドルフィン劇団の裏方さんなんだけどね〜」

リコ「フィルリア…って、今回やる台本と関係あったりするんですか?」

ネロ「そうだよ。驚かせてすまない、リコ」

リコ「ネロ!…エリクもおはようございます…」

エリク「おはよう、リコ…。朝来たらびっくりしたよね…。この人、人形らしくて…どういう原理で喋って動いてるのか全く分からないんだ…」

リコ「人形…?」

フィルア「腕を触らせてあげよう!」

リコ「皮膚が固い!?も、もも、木製!?」

フィルア「いえーい」

リコ「ど、どう動いてるの!?声帯は?脳みそは!?」

エリク「同じ反応してる」

ネロ「まぁ、仕方ないよ。リコ、これ台本」

リコ「え、あ…はい。ありがとうございます」

ネロ「後はナツメだな…」

ナツメ「何?」

ネロ「ナツメ!いつからいた!?」

ナツメ「たった今だよ。騒がしい声が廊下にまで聞こえてきた。…それは」

フィルア「フィルリアー!」

ナツメ「え!?」

ネロ「おはようナツメ!彼女はフィルア、何故か喋って動ける木製人形だ。見覚えはあるだろう?」

ナツメ「それは…え?でも、何で!?フィルアは人形だし、何で喋って…動いて…はぁ!?」

フィルア「みんな同じリアクションでつまんなーい」

エリク「いや、普通は誰だって驚くよ…。俺だって今だに夢だと思ってるんだから…」

フィルア「エンボルト役なんだから、エリクはもっと喜ばないと!人形師フィルリアを尊敬してるのよ?人形と喋れるって事は夢が叶ったくらいに嬉しいはずでしょ!」

エリク「エンボルトだったらね…。でも、今の俺はエリクだから」

フィルア「それもそっか」

リコ「…もう、役は決まってるんですか?」

ネロ「あぁ。エリクはフィルリアに憧れる少年エンボルト役。リコ、君はフィルリアの幼馴染ミリー役だ」

リコ「は、はい!」

ネロ「そして私がフィルリアを導く人形、ゼネクを演じる。…そして主役フィルリアは、ナツメだ」

リコ「え!?」

エリク「…姉さん、本気なの?ナツメは…」

ナツメ「やらないよ。絶対にやらない」

フィルア「何で?フィルリアは貴方だよ?」

ナツメ「っ、僕はやらない!舞台には立たないし、フィルリアも演じない!気分が悪い、今日は帰る…」

フィルア「待ってよ、フィルリア!」

ナツメ「僕をフィルリアと呼ぶな!」

フィルア「っ…」

ネロ「ナツメ、酷な事だとは分かっている。でも、フィルリアはナツメにしか演じて欲しくないんだ。練習やリハを見た時、私は…」

ナツメ「いやだ!その話をするな!」

フィルア「フィルリア…?」

エリク「ナツメ、外の空気吸いに行こう?俺が連れて行くから…良いよね?姉さん」

ネロ「あぁ…」

エリク「行こう、ナツメ…」

ナツメ「うぅ…」

出て行く二人。

リコ「ネロ、ナツメ…どうしちゃったんですか?」

ネロ「リコにもちゃんと話さないとね…ナツメの事…」

リコ「え?」

ネロ「リコ、フィルア。ソファに座ってくれる?ナツメの事、話すから…」


外。

ナツメ「何で、ネロは僕にフィルリアをやらせたいんだ?僕じゃなくていいだろう?そもそもあの台本じゃなくてもいいだろう?それに、あいつ…」

エリク「フィルアの事?」

ナツメ「あいつは、倉庫の奥の方にいたんだ。動かないただの人形だった。なのに、動いて喋って、僕をフィルリアって呼んで…」

エリク「やっぱり、舞台には立てない?」

ナツメ「立てる訳がないだろ!また…失敗しちゃったら……どうするんだよ…」

エリク「ナツメ…」

ナツメ「練習もリハも完璧だった…!でも、本番で…本番で、セリフが…飛んだんだ…。僕がセリフを…大事なセリフを飛ばした…。そのせいで、舞台の緊張感が崩れてしまった…!僕のせいで、…ネロの作品が駄作って…言われて……。僕が、僕のせいで…やっと手に入れた主役だったのに、大事な友達が描いた物語だったのに…、僕のせいで…。出来る訳ないんだよ!また失敗するよ!今度失敗したら、僕は、僕は…」

エリク「……」

ナツメ「僕はフィドルフィンショーで輝くみんなが大好きなんだ…。ドンドルフィン劇団では、君達の演技は霞んでしまう。そりゃあ成功は目に見えてるけど、リコの迫力ある演技もエリクの繊細な表現も、大好きなネロの演出も…見れなくなるのは嫌なんだ…。失敗が許されないのに、僕が失敗したら、僕のせいでフィドルフィンショーがなくなったら…僕は、正気でいられない…」

エリク「失敗なんて、今は考えない方が…」

ナツメ「どうせ失敗するんだ!」

ネロ「失敗なんかさせない!」

ナツメ「!」

エリク「姉さん…」

ネロ「失敗が怖いのはみんな同じだ。私達は失敗だらけなんだから」

ナツメ「…知ってるだろう。あの時の僕の舞台…、失敗は許されないドンドルフィン劇団の舞台を…」

リコ「ナツメ、私もさっき聞きました。…貴方が、セリフを飛ばして、演技に身が入らなくなってしまって、舞台が一度しか上演されなかったって…」

ナツメ「…そうだよ。リコは僕が舞台に上げて貰えなくなってから劇団に来たから、知らなかっただろうけど。あの日から、僕は劇団のお荷物となって、裏方…雑用に回された…。でも、それで良かったんだ、僕は舞台が大好きだから、少しでも舞台に関われたらそれで良かった…。それなのに、ネロが独立する時に僕を呼んだ。僕はお荷物だから、誰も反対しなかった。だけど、引き抜かれる時、条件をつけただろう?僕は舞台には立たないって」

ネロ「あぁ、でも、最後になるかもしれない公演だ。場所やスタッフは用意してくれるんだ。本気でやるしかないだろう!」

ナツメ「だから、また…失敗したらどうするんだよ!」

ネロ「失敗を先に考えるな!誰にだって失敗はある!トラブルはある!それを乗り越えてこそ、最高の舞台になるんだ!」

エリク「…やってみようよ、ナツメ。俺だって、もう一度ナツメの演技が見たいんだよ」

ナツメ「でも、僕…演技はもう…」

フィルア「フィルリア……ナツメは大丈夫だよ!だって、私とお喋りしてくれたでしょ?フィルリアとして」

ナツメ「…フィルア」

フィルア「何回も何回も私の前でセリフを読んでたでしょ?あの時言えなかったセリフ、ちゃんと言えてたよ?」

ナツメ「……」

ネロ「ナツメ、一緒に舞台を作ろう?」

ナツメ「僕に…出来るかなぁ?」

ネロ「やるんだよ。私達で、お父様に一泡吹かせてやるんだ!」

フィルア「ナツメ以外は新しいメンバーだ!楽しみ!」

ネロ「改めて、主役フィルリアは君だ、ナツメ!」

ナツメ「…はい、ネロ!」


レッスン室。

リコ「『フィルリア!私は信じてるわ、貴方が嘘を吐く筈がないんですもの!貴方は人形と心を繋ぐ天才人形師、周りの声なんて気にしなくていいのよ』」

エリク「『その通りだよ。あーぁ、僕もフィルリアみたいに人形と話せたら、フィルリアはこんなに凄いんだぞ!って胸を張って言えるのに』」

ナツメ「『ありがとう。ミリー、エンボルト。君達が居なければ、私はどうなっていたか分からない。なぁ、フィルア?私に協力してくれる人間がいるんだ…君と喋ってる時と同じくらい心が踊る!』、『あぁ、君も同じ気持ちで嬉しいよ、フィルア』」

フィルア「うーー、私も嬉しいーー!」

ナツメ「うわぁ!?」

ネロ「こら、フィルア!君はあくまで舞台セット!フィルリアが君と会話してるシーンだが、実際の君は喋らないんだぞ!」

フィルア「ごめんネロ〜、楽しくなっちゃって!」

ネロ「全く…。だが、順調だな。この調子なら完璧な舞台になる!」

リコ「良かったです…!」

エリク「やったね、ナツメ!」

ナツメ「う、うん…。…完璧…か」

エリク「ナツメ?」

ネロ「午前の練習はここまでにしよう。2時間後、またこのレッスン室に集まってくれ」

リコ「はい、ネロ!」

ネロ「私はちょっと用事があるから、各自解散してくれ。じゃあお疲れ様」

ネロ、出て行く。



エリク「俺達は昼ご飯でも食べに行こうか」

リコ「そうですね」

ナツメ「……」

フィルア「……ナツメ?」

ナツメ「え!?」

フィルア「元気なさそう。大丈夫?」

ナツメ「え、う…うん」

フィルア「嘘!演技してる時は瞳がキラキラしてたのに、今はすっごい濁ってる!」

ナツメ「…疲れてるだけだよ。先に行ってて。僕、演技の見直しをしたいんだ」

エリク「え、今から?」

ナツメ「やれる事は全部やらなきゃ…、僕の失敗で、足を引っ張りたくないんだ」

エリク「……」

リコ「ナツメ…」

フィルア「じゃあ、私が見ててあげる!練習付き合ってあげる!だって、倉庫でいつも練習手伝ってあげてたんだから!」

ナツメ「…!…それは、僕が一方的に練習してただけじゃないか」

フィルア「確かに!」

エリク「…ナツメ、君の熱意は素敵だけど、休むのも必要だよ」

リコ「そうですよ!私達は人間なんですから、疲れたまま演じたら、余計失敗しちゃうかもしれません」

エリク「だから、お昼一緒に行こう。そして、少し早く帰ってきて、みんなで練習しようよ」

ナツメ「…でも、僕…失敗しないためにもみんなよりいっぱい練習しないと…」

エリク「ナツメ、舞台はみんなで作り上げるものだ!下を向くな!」

ナツメ「!」

エリク「君は人一倍失敗を恐れてる。お父様の舞台で失敗しちゃったから…怖いのは分かる。あんな完璧な舞台でミスする事は恐怖以外にない…。…でも、ここはドンドルフィンの舞台じゃない。フィドルフィンショーの舞台で、君はフィドルフィンショーのキャスト。乗り越えるチャンスなんだぞ!」

ナツメ「……乗り越える」

フィルア「ぷぷ、何か今のエリク、ネロにそっくりー!」

リコ「確かに」

エリク「そ、そりゃあ兄弟だし…、姉さんと一緒の夢を持ってるんだから、同じ考えだよ。……それに俺、ナツメの演技が大好きだったからさ、間近で見れて、ましてや一緒に舞台に立てて、本当に嬉しいんだ」

ナツメ「え…」

エリク「エンボルトってこういう気持ちなのかもね。大好きな人の役に立つ事が出来る嬉しさ、楽しさ…すっごいしっくりくる!」

フィルア「エリクはエンボルトの役に適任だね!リコもミリーの強気な感じがしっかり伝わってくるし」

リコ「私、ドンドルフィン劇団ではお淑やかな役が多かったから、体全身で元気な役を演じれるのが新鮮でとても楽しいんです」

エリク「お転婆な役は別のキャストがよくやってたよね。まぁ、リコは立ってるだけで目を引く美しさだから、そういう役が多かったんだろうけど」

リコ「だから、ネロに誘われた時は嬉しかったんです。ネロはよく、リコはもっと色んな役が出来るって言ってくれたので」

エリク「実際、リコは色んな役を演じてきたよね。今のリコ、楽しそうで見てて気持ち良いよ」

リコ「えへへ、ネロのおかげです」

ナツメ「……」

エリク「ナツメ、君は俺らの演技も姉さんの演出も大好きだって言ってくれたろ?今の俺達は姉さんとフィドルフィンショーの為に頑張ってると言っても過言じゃない。それは君も同じ気持ちじゃないのか?」

ナツメ「それは…もちろん」

エリク「な?だから、1人で抱え込むなよ。俺達がいる。姉さん…ネロもいる!」

ナツメ「……うん!」

エリク「よし、じゃあお昼食べに行こう!」

リコ「何食べます?」

ナツメ「フィルア、また後で」

三人、出て行く。

フィルア「はーい!いってらっしゃ〜い……。あーぁ、1人になっちゃたぁ。つまんないからネロに遊んで貰お〜っと」


事務所。

ネロ「もしもし、お父様。ネロです」

フィルア「あ、事務所にいたー、ネロ〜……って、お電話中?…私に気付いてないっぽい…」

ネロ「はい、大丈夫です。準備も稽古も順調です。1週間後の舞台、必ずや成功させます。分かっております。この度は劇場、スタッフを貸していただいた事、チャンスを与えて頂いた事、感謝しております。はい、はい。…失敗したら、約束通り、私は二度と舞台に関わりません」

フィルア「え?」

ネロ「しかし、他の三人は彼らの意思を尊重してください。ナツメは舞台に立ちたがらないと思いますが、裏方でも良いので、舞台に関わらせて下さい。エリクもリコも…お願いします。……はい、それではまた…失礼します……はあ…」

フィルア「ネロ、舞台に立たなくなっちゃうの?」

ネロ「フィルア!?…いつからそこに」

フィルア「ごめん、聞くつもりは無かったんだけど、聞こえちゃって…。ねぇ、それより舞台に関わらないってどう言う事?」

ネロ「…お父様との約束さ。次の公演、一度でも失敗すればフィドルフィンショーは解散し、お父様の劇団のキャストに戻る。でも、それは私以外の三人の話だ。私は今後一切舞台に関わってはいけない。それが、お父様との約束…、いや、契約だ」

フィルア「でも、何でネロだけ…そんな目に」

ネロ「私はお父様の舞台に憧れていた。でも、自分には違った世界を描ける様になってから、お父様と反発する様になったんだ。だからフィドルフィンショーを作り上げた。そして、自分が描きたい舞台を表現出来るキャストを集めた。それが今のメンバーだ。私は、私が表現するものでお客さんを笑顔にさせられる、そんな舞台を作り上げたいんだ!お父様と同じ道を歩きながら、違う視点を目指したい。それをするには、私の劇団が必要だった。最高級の劇団じゃなくていい、最高を作り上げる劇団、それがフィドルフィンショーなんだ!……でも、私達はまだまだ弱小劇団で、お父様の支援がないと成り立たない。だから、これが最後のチャンス…。ここまで支援して貰って駄目だったら、それは私の実力不足…。だから、私は舞台には関わらないと言う条件を飲んだ」

フィルア「そんな…」

ネロ「フィルア、この事は黙っていてくれ。特にナツメには…」

フィルア「え?」

ネロ「あいつがこの話を知ったら、プレッシャーになるだろ?彼は私の演出を好いてくれてるしさ」

フィルア「……ネロ」

ネロ「返答は、はい、ネロ。だよ?」

フィルア「…はい、ネロ」



ネロ「よし、じゃあ今日の練習はここまで!各自、片付けをして解散!」

リコ「お疲れ様です」

エリク「お疲れ〜、今日も楽しかったぁ」

フィルア「……」

ナツメ「フィルア、何かあった?午後から元気なさそうだったけど」

フィルア「ナツメ…その…」

ナツメ「…君も僕らの仲間なんだから、悩みがあったら聞くよ?」

フィルア「で、でも…ネロがナツメには言うなって言ってて…」

ナツメ「僕に言えないことがあるのか?」

フィルア「あ、やば!」

ナツメ「ネロは君に何を言ったんだ?僕に言えないことって、何?」

フィルア「うぅ…、この舞台が失敗したら…ネロは…ネロは、舞台に関わらないって…」

ナツメ「………え?」

エリク「フィルア、ナツメ、何してるの?片付けするよ?」

ナツメ「ネロ!」

ネロ「ん?」

ナツメ「フィルアの話、本当か!?君、この公演が失敗したら…したら……」

ネロ「……!フィルア、まさか言ったのか!?」

フィルア「だってフィルリアが聞いて来たんだもん〜!」

ネロ「人形はお喋りなのか…?」

ナツメ「はぐらかすなネロ!本気か?」

ネロ「…本気さ。この舞台、失敗したら私は二度と舞台に関わらない」

エリク「え!?」

リコ「な、何を言ってるんですか!」

ネロ「お父様との契約さ。劇場もスタッフも全ての支援をしてくれる代わりに、失敗すれば私のキャスト人生は終わる」

ナツメ「何故、…黙ってた?」

ネロ「言ったら、君がまたプレッシャーに押し潰されるんじゃないかと思っただけだ。黙っておくつもりだったのに、全くフィルアは…」

フィルア「ごめんネロ〜」

ナツメ「やっぱり、僕がいるから…。僕が足を引っ張るかもしれないから、黙ってようとしたんだろう!?失敗するのは、僕のせいだ!」

ネロ「落ち着けナツメ!まだ失敗も成功もしていないのに、そんな事を言うな。稽古は順調だ、とても良い物になってる。今ここでマイナス思考に陥ると、本当に失敗してしまう。自分を信じろ。私達を信じろ!私達なら、きっと出来る!」

ナツメ「…ネロ」

ネロ「大丈夫、大丈夫だ。君の演技は素晴らしいよ」

ナツメ「…ネロ、僕……」

エリク「大丈夫だよ、ナツメ。俺達もついてる」

リコ「うん、この舞台、成功させましょう」

フィルア「ごめんね、ナツメ!私が余計な事言っちゃって…でもでも、ナツメのフィルリアはちゃんとフィルリアだから、私達人形の事が大好きって、ミリーやエンボルトが大切って、ゼネクを信頼してるって気持ちが伝わってる!だから、大丈夫だよ!」

ナツメ「フィルア…うん、ありがとう。ごめん、ネガティブになっちゃって…。僕、僕、頑張るから、足を引っ張らない様に頑張るから…」

エリク「あんまり気負いすぎんなよ」

リコ「そうですよ!」

ネロ「……」


数日後、劇場の楽屋。

ネロ「さぁ、今日は舞台の場当たりだ!楽屋に荷物を置いたら、舞台上に集合。キビキビ動くよ!」

リコ「…ネロ、ちょっと張り切り過ぎじゃありません?」

エリク「小さくてもお父様の劇場だもんね…本番まで後2日…。もう、失敗は許されない…」

ナツメ「……大丈夫、大丈夫…」

フィルア「はー、ドキドキしてきたぁ!」

ネロ「フィルア、君は人形なんだから、劇場のスタッフとぶつからない様に気を付けるんだよ」

フィルア「うん!私は大丈夫だよ。ネロは大丈夫?眉間にシワが寄ってる」

ネロ「っ、…すまない、少し気が立っているようだ。…よし、私は大丈夫だ!」

フィルア「うん、いつものネロの顔だ!」

ネロ「ありがとう、フィルア。…リーダーである私が焦っては、みんなを不安にさせてしまうな。ここは全員で乗り切る時だ!フィドルフィンショーをお父様に認めて貰い、お父様の劇団をいつか追い越す為の第一歩!必ず成功させるぞ!」

エリク「うん!」

リコ「はい、ネロ!」

フィルア「がんばろ、ね?ナツメ!」

ナツメ「う、うん…!」

ネロ「さぁ、舞台に行くぞ!」

①①
舞台。

リコ「『フィルリア!私は信じてるわ、貴方が嘘を吐く筈がないんですもの!貴方は人形と心を繋ぐ天才人形師、周りの声なんて気にしなくていいのよ』」

エリク「『その通りだよ。あーぁ、僕もフィルリアみたいに人形と話せたら、フィルリアはこんなに凄いんだぞ!って胸を張って言えるのに』」

ナツメ「『ありがとう。ミリー、エンボルト。君達が居なければ、私はどうなっていたか分からない。なぁ、フィルア?私に協力してくれる人間がいるんだ…君と喋ってる時と同じくらい心が踊る!』、『あぁ、君も同じ気持ちで嬉しいよ、フィルア』」

リコ「『また、フィルアとお喋りしてる』『私達も人形と喋れれば、きっと楽しいでしょうね』」

ネロ「照明、音響、問題はない。演技も乗っている。しかし……」

ナツメ「順調だ。次のセリフは…『きっとミリーとフィルアは気が合うさ。私が保証する』」

リコ「『ふふ、そう言ってくれて嬉しい。それじゃあ私達は先に行ってショーの準備をしてくるわ』」

エリク「『また後でね、フィルリア』」

ネロ「ミリーとエンボルトがはけ、フィルリアの独壇…」

ナツメ「『ねぇ、フィルア…私はあのまま心を病んで死んでしまおうかとも思ったよ。でも、ミリーとエンボルト、ゼネクのおかげでもう一度前を向こうと思えた。私の人形は、」

ネロ「ここで客席に体を向けてスポットが当たる…」

ナツメ「私の人形は……私の…」

ネロ「ナツメ…!」

ナツメ「あ、あぁ……」

リコ「ナツメ、どうしたんでしょう?」

エリク「……このシーン」

ナツメ「出て来ない。出て来ない。照明が、客が、僕を見てるのに。僕の次のセリフを待ってるのに…どうして、どうして出て来ないんだ…?このシーンになると体が震える。あの時と同じだ。言葉がつっかえて出て来ない。このセリフが終われば、暗転して次のシーンに行けるのに…どうして、どうして…『……っ、』」

リコ「え、ナツメがはけた?まだセリフはあるはずですよ!」

ネロ「あいつ…!」

エリク「俺様子見てくる!」

リコ「エリク!」

ネロ「舞台にフィルア一人取り残されてしまった…この後もフィルリアの出番はあるのに…!」

エリク「姉さん、ナツメがいなくなった!」

ネロ「何?」

エリク「反対側の舞台袖を見に行ったんだけど、ナツメ居なくて…近くにいたスタッフさんに聞いたら、走って何処かに行っちゃったって…」

ネロ「何だと!?」

リコ「あ、ネロ、エリク!ナツメは?」

エリク「分からない、何処かに行っちゃったらしい」

リコ「え!?」

ネロ「……フィルリアが居なければ舞台は続けられない…。しかし……。っ、エリク、リコ。ナツメを探して来い!私はスタッフと照明や音響の確認を行う。役者ありでの場当たりは一度中止だ。その代わり、リハまでに連れ戻して来い」

エリク「わ、分かったよ、姉さん」

リコ「すぐに探してきます!」

二人、去る。

ネロ「ナツメ…」

①②
舞台上。

フィルア「あ、ネロ?ナツメどうしちゃったの?みんなざわざわしてるよ。私、舞台セットだから動かないようにしてるんだけど、大丈夫なの?」

ネロ「フィルア、ナツメが居なくなった」

フィルア「え!?」

ネロ「ここは私一人でどうにかするから、君はナツメを探して来てくれ。エリクとリコはもう探しに出ている」

フィルア「…また、あそこでセリフが出て来なくなったから?」

ネロ「君はあの時も舞台にいたんだよね。彼の1番近くに…」

フィルア「あのシーンは誰も助けられない。私は人形だし、今も人形として座ってることしか出来ない。ナツメを助けてあげられない」

ネロ「あぁ、だから今から助けに行くんだ」

フィルア「え?」

ネロ「ここは私が引き受ける。だから、君はナツメを連れ戻せ!あいつはここで終わっていい奴じゃない!」

フィルア「う、うん、ネロ!」

ネロ「肌が見えない様に私の上着を着て行け、これでよし。さぁ、頼んだぞフィルア」

フィルア「うん!」

ネロ「……これが終わったら、私もすぐに向かう!」

①③
劇場内。

エリク「リコ、ナツメはいた?」

リコ「駄目です。何処にもいません」

エリク「何処に行ったんだ、ナツメの奴…」

フィルア「エリク、リコ!」

エリク「フィルア?何でここにいるの?」

フィルア「ネロにナツメを探して来てって頼まれたの。ナツメはいた?」

リコ「まだ、見つかってません。劇場内にはいないのでしょうか?」

フィルア「外は?」

エリク「…まさか、この状況で外に出るなんて、いや…」

リコ「エリク?」

エリク「この近くに海が見える公園があるんだ。俺と姉さんがお気に入りの場所で、そこにナツメを連れって行った事があるんだ」

リコ「海の見える公園って…確か、ネロに誘われる時、その公園に連れて行って貰った事があります…とても綺麗な場所でした」

フィルア「海の見える公園…フィルリアが好きな場所」

エリク「うん、人形師、フィルリアの台本は元は姉さんの考えた物語。姉さんの好きな事や好きな場所が入ってたりする。あの公園もその一つなんだ。台本内にもフィルリアが心身を病んでる時、公園でミリーとエンボルトに説得されるシーンあったでしょ?その場所の元があの公園なんだ」

リコ「行ってみる価値はありそうですね」

フィルア「何処?教えてエリク!」

エリク「うん、すぐに行こう」

①④
公園。

ナツメ「『ねぇ、フィルア…私はあのまま心を病んで死んでしまおうかとも思ったよ。でも、ミリーとエンボルト、ゼネクのおかげでもう一度前を向こうと思えた。私の人形は素晴らしい。私の友人は美しい。私は、ここで死んでしまいたくない。君や彼らがいれば、何だって出来る』…何で、ここで躓いてしまうんだ…。ここは、フィルリアが自分の作品と友人達の大切さを再確認して、決意を固めるシーン…。僕がネロの作品を壊した…。ネロの夢を…潰えさせた…。全部、全部僕が失敗したから…」

フィルア「まだ失敗したかなんて分かんないじゃん!」

ナツメ「!…フィルア、何でここに」

フィルア「エリクにナツメはここの公園に居るんじゃないかって教えてもらったの。やっぱりいた!良かった…」

ナツメ「それより、君は人間じゃないのに…うろついて、危ないじゃないか」

フィルア「ネロに上着貰ったから関節部分は見えてないよ。それより、ナツメを連れ戻してこいってネロに言われたの!」

ナツメ「…無理だよ。無理なんだ…僕には出来ない。どうしてもあのシーンで躓いてしまう…セリフが出て来ないんだ…。あのシーンはフィルリアの独壇。セリフが終わったら、フィルアを見て微笑み壇上からはける。一人になるとどうしても怖くて、セリフが出て来ないんだ」

フィルア「いつもは出来てるじゃん、ちょっと調子が悪かっただけでしょ?大丈夫、ナツメなら出来るよ!」

ナツメ「出来ないよ!板の上に立ったら、また失敗しちゃうんじゃないかって不安に押し潰されるんだ…。誰も助けられない。僕は、怖いんだ…」

フィルア「ナツメ…」

①⑤
少し離れたところ。

リコ「ねぇ、私達も説得に行きましょう?」

エリク「…今のナツメに俺達の言葉が届くか分からない。余計な事を言って更に落ち込んでしまったら…この舞台は勿論、二度と舞台に関わらないって言い出すかも…」

リコ「じゃあ、どうすれば」

エリク「…姉さんなら、こういう時、何て言うんだろう…」

①⑥

フィルア「で、でもいいの?このままじゃ舞台は出来ないよ?失敗になっちゃうよ?ネロが舞台に関われなくなっちゃうよ!?」

ナツメ「それは……でも、僕が失敗しちゃったら、どうにもならないじゃないか…!」

フィルア「何で失敗を考えるのよ!ナツメが諦めなければ良いだけじゃない!」

ナツメ「簡単に言うな!スポットが当たる、客の視線を一身に集める。次のセリフに注目する。次の行動に期待する。あの感覚が怖いんだ…。失敗は許されない舞台上で、失敗してしまったが故…。二度もあんな事を起こすくらいなら、僕は舞台に上がりたくない!あのシーン…僕はひとりぼっちなんだ…」

フィルア「フィルリアは一人じゃない!」

ナツメ「え…」

フィルア「確かに、あのシーンはフィルリアの独壇。でも、舞台には私がいるじゃない!今日もあの時も…倉庫での練習もレッスン室での練習も、あのシーンにはいつも私がいたじゃない!フィルリアが一人だった事はなかった!ミリーがいた、エンボルトがいた!ゼネクがいつも導いてくれた。ナツメにだって。エリクやリコがいる、ネロが支えてくれる。そして、私がいつでもそばにいる!ナツメのフィルリアをずっと見てきたのは私なんだよ。いつもナツメはあそこのシーン何を見てるの?お客さん?違うでしょ?あそこのフィルリアは大事な人達を思い浮かべてるんだよ!」

ナツメ「……」

フィルア「ナツメはいつも失敗ばかり考えてる。そんなんで良い演技が出来る訳ないじゃん。本番は緊張して練習通りに出来ないかもしれないけど、余計な事考えすぎ!舞台は一人でやるものじゃないってネロは言ってるでしょ!?もっとネロやみんなの言葉を信じなよ!」

ナツメ「っ、ネロを誰よりも信頼してるのは僕だ!エリクやリコを大切に思ってる!信じてる!でも、でも……」

ネロ「信じれないのは自分自身でしょ?ナツメ」

ナツメ「ネロ!?」

エリク「姉さん、何でここに」

リコ「舞台は、良いんですか?」

フィルア「エリク、リコ!」

ネロ「…心配だったから、頭下げて中断して来たよ。やっぱり、稽古はフルメンツでなきゃ」

ナツメ「ネロ…ごめん。僕…僕には出来ないよ…」

ネロ「分かってる。ナツメ、逃げたきゃ、また逃げれば良いさ」

フィルア「え!?」

ナツメ「…!」

ネロ「優しい言葉を期待したかい?悪いが、時間は待っちゃくれない。上演の日時は変えられないし、代役も立てられる日数じゃない。お前が出なければこの舞台は流れる。客はどう思うかな。お父様はどう思うかな?」

ナツメ「あ、…うぅ……」

ネロ「君は、自分の事が大嫌いなんだろう?自分の事が信じれないんだろう?…あのシーンの君はフィルリアではなく、不安を恐れるナツメだった。役に入れていなかった」

ナツメ「ごめん、ネロ…やっぱり僕は…出来ないんだよ」

ネロ「出来なくて良い。フィルリアになれ、ナツメ」

ナツメ「…は?」

ネロ「舞台上のお前はナツメじゃない。フィルリアだ。誰よりもフィルリアの気持ちが分かるお前が、舞台をせずに諦めても良いのか?フィルリアはそこで諦めたか?私がどんな気持ちでこの台本を選んだ分かるか?父さんが何故お前を主役にしたか分かるか!?」

ナツメ「え?」

ネロ「私の原案を誰よりも喜び、誰よりも楽しみにして、気持ちの良い演技をしてみせたからだ!父さんが失望したのは、あのフィルリアが二度と見れなくなってしまったからだ。だって、もう一度キャストを変えてやれば良いはずだったのに、やらなかった。フィルリアはナツメ以外に相応しい奴がいなかったんだ!」

ナツメ「団長が…」

ネロ「フィルリアはお前以外に出来ないんだよ!私の作品を完成させるにはお前しかいないんだよ!!」

リコ「ネロ…!」

ネロ「ナツメ、それでも出来ないなら今度こそ、この台本は陽の目を見ることはない。フィルアともここでお別れだ…」

ナツメ「そんなっ…」

ネロ「それが嫌なら、自分じゃなくて、お前の中のフィルリアを信じろ。一緒に舞台に立ってるフィルアを信じろ。近くにいる私達を信じろ。照明を音を信じろ!舞台を信じろ!お前が信じれば、舞台は応えてくれる。劇団員なら分かるだろう?」

ナツメ「僕じゃなく…フィルリアを…。フィルリアなら…」

ネロ「フィルリアは一人じゃない。侮蔑を受け、悲しみにくれ、心を病んだが、支えてくれた仲間達がいた。フィルリアの人形を、彼を信じてくれた仲間達だ。フィルリアは仲間や自分の作った人形の為、顔を上げるんだ。さぁ、フィルリアなら、なんて言う?」

フィルア「…ナツメ」

ナツメ「…フィルア……フィルリアはこういう時、フィルアに言うよね。みんなを好きだって、愛してるって…」

フィルア「うん、きっと言う!フィルリアはみんなの事大好きだもん!」

ナツメ「きっと、フィルアにしか溢さないんだ。あぁ見えてフィルリアって恥ずかしがり屋な所があるから、みんなには直接言えないんだ」

ネロ「その通りだ、ナツメ。分かってるじゃないか」

ナツメ「僕は僕を信じれない…でも、台本を、フィルリアを信じれば良いんだ。みんなを信じれば、いいんだ…!」

ネロ「舞台は作り上げる物。それが一人でも二人でも…、でも今ここにいるのはフィドルフィンショーのメンバーだ。誰を1番に信じる?決まっているだろ?私達、家族だ!」

ナツメ「…うん、そうだねネロ!」

リコ「はい!」

エリク「さぁ、戻ろう。みんなで頭下げて、場当たりの続きだ」

ナツメ「行こう、フィルア」

フィルア「……うん!」

①⑦
本番。

リコ「結構、席埋まってますね…流石、ドンドルフィン劇団のお膝元…」

エリク「まぁ、この国の人達は観劇が好きだからね…小さいハコでも満席近く埋まると、流石に緊張するね…」

ナツメ「でも、もうすぐ幕が開く…始まるんだ…!」

リコ「ナツメ、顔つきが変わりましたね」

ナツメ「うん。ネロの物語を、フィルリアを信じてるから」

フィルア「わー、楽しみ〜!私これからあの舞台に立つんだよね?ワクワクしてきた!」

リコ「そろそろ立ち位置の準備しませんと、あらネロは?」

エリク「まだ楽屋かな?俺呼んで来るから、先に行ってて」

フィルア「私も行く!」

ナツメ「え、フィルア、君は幕が上がる前から舞台にスタンバイしてないといけないんだよ!?」

フィルア「すぐ戻るからー!」

リコ「行っちゃいました…」

ナツメ「仕方ないな…」

①⑧
楽屋。

フィルア「あ、エリク!ネロ、楽屋にいたよ」

エリク「姉さん、椅子に座り込んで…大丈夫?」

ネロ「…さっき、お父様が来た」

エリク「え!?」

ネロ「……リハを見たって。良かったって。その調子で、本番にのぞみなさいって…笑ってくれた…」

エリク「…お父様が?僕らの舞台を…褒めてくれた?」

フィルア「え?え?それって、すごい事じゃない?だって、すんごい劇団の団長なんでしょ!?」

ネロ「エリク…これは夢かなぁ?私、私の舞台がお父様に褒められた…」

エリク「…夢じゃない。夢じゃないよ!でも、これからだ…」

ネロ「え?」

エリク「本番はこれからなんだ!お父様に認められたんなら、今度は観に来たお客さんを楽しませて、もっともっと沢山の人を笑顔にさせるんだ!ここで終わりじゃない!ここから始まるために始めるんだ!フィドルフィンの舞台を、俺達の夢を…!」

ネロ「うん。恐れることはない…!今日来たみんなを、私達自身も笑顔に出来る舞台を作り上げて見せる!」

①⑨

ナツメ「『ありがとう。ミリー、エンボルト。君達が居なければ、私はどうなっていたか分からない。なぁ、フィルア?私に協力してくれる人間がいるんだ…君と喋ってる時と同じくらい心が踊る!』、『あぁ、君も同じ気持ちで嬉しいよ、フィルア』」

リコ「『また、フィルアとお喋りしてる』『私達も人形と喋れれば、きっと楽しいでしょうね』」

ナツメ「『きっとミリーとフィルアは気が合うさ。私が保証する』」

リコ「『ふふ、そう言ってくれて嬉しい。それじゃあ私達は先に行ってショーの準備をしてくるわ』」

エリク「『また後でね、フィルリア』」

ネロ「ここで二人がはける。次のシーン…ナツメ…」

ナツメ「『ねぇ、フィルア…私はあのまま心を病んで死んでしまおうかとも思ったよ。でも、ミリーとエンボルト、ゼネクのおかげでもう一度前を向こうと思えた。私の人形は素晴らしい。』……」

ネロ「ナツメ…!いや、信じてるぞフィルリア」

ナツメ「僕は、…私は一人じゃない。だよね、フィルア」

フィルア「うん、フィルリア!」

ナツメ「『私の友人は美しい。私は、ここで死んでしまいたくない。君や彼らがいれば、何だって出来る!』『さて、私もショーの準備の為、人形達のメンテナンスをしなければ。さぁ、忙しくなるぞ!』」

ネロ「ナツメがはける。そして暗転。…やった…!」

ナツメ「ネロ!」

ネロ「ナツメ…やったな…やったなぁ」

ナツメ「まだ気は抜けないよ。でも、言えた。フィルリアならミリー達の大切さを、フィルアに大袈裟に伝えるだろうと思ったんだ。興奮した子供の様にフィルアに喋ってるんだ!」

ネロ「あぁ、素晴らしい演技だ。この調子で最後まで駆け抜けよう!」

ナツメ「…ところで、ずっと疑問に思ってるんだけど、フィルアって人間じゃないよね。この後、どうするんだろう?」

ネロ「…そう…だな。そもそもどういう原理で動いてるのかが分からんしな。神様の魔法なのかもな」

ナツメ「急に動かなくなっちゃうかもしれない?」

ネロ「可能性はある」

ナツメ「そうか……」

ネロ「…その時はその時だ。それまでは我がフィドルフィンショーの家族。それは決定事項だ!」

ナツメ「…そうだね!」

ネロ「さぁ、もうすぐ次の出番だ。行くぞ、ナツメ!」

ナツメ「はい、ネロ!」

②⓪
数日後。

リコ「先日行われたフィドルフィンショーの舞台は大成功を収め、次の舞台を楽しみにしている人が大勢いるらしい…って、新聞に書いてます!良かったですね、ネロ」

エリク「楽しかったよね、あの舞台。大きな失敗もなかったから、お父様もうちを存続させてくれるって言ってくれたし」

ナツメ「本当…、良かった」

ネロ「そうだな…」

フィルア「で、次の舞台はどうするの?私も出れる?何役ー?」

ネロ「…元気だな、フィルア」

フィルア「うん!」

ネロ「てっきり君は、人形師、フィルリアの舞台限定で神様が魔法をかけて動かしてくれてる物だと思っていたが、そうじゃないみたいだな」

フィルア「うーん。確かに?私どうやって動いてるんだろう?」

エリク「最後まで謎だったね」

リコ「でも、フィルアもいてくれたから、舞台は大成功です」

ネロ「そうだな…。フィルア、君が動かなくなるまで…いや、動かなくなっても、我がフィドルフィンショーの家族でいてくれるか?」

フィルア「…私、みんなの家族なの?」

ネロ「嫌か?」

フィルア「う、ううん!嬉しい…。みんな家族だぁ!ネロもナツメもエリクもリコも!私の家族…!私、もっとみんなと舞台に立ちたい!」

ネロ「当然だ!さぁ次の舞台に向けて動き出すぞ!我らが目指すのは皆を笑顔にする世界一、いや…宇宙一の劇団だからな!」

エリク「大きく出たね…でも、そうだね姉さん!」

リコ「もちろん、リコはネロに着いていきます!」

ナツメ「何処までも行こう!みんなで、家族で!」

フィルア「私達、フィドルフィンショーは家族だぁ!」

ネロ「あぁ、我らのショータイムは始まったばかりだ!」

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