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新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅Part1ロンドの旅 Chap2プサンの事件

2.知己

出張で帰りが翌晩になると、朝出掛けに使用人へ告げた。しかし、深夜になっても帰宅せず、携帯にかけても応答はない。予定変更は当然あるが、これまで自宅へ連絡を入れないことがなかったので不審に思った。秘書へ確認したところ、事務所には来ておらず、出張とは聞いていたが誰も行き先を知らされていなかった。その翌朝、ソウルの山で遺体で発見されたと警察から一報があったのだ。死因は絞殺で、何者かに殺されたと見られている。

手帳にその日の出来事を日記のように書き残す癖があった。発見の前日には、ソウルで登山をしたと記されていた。その際、なんらかのトラブルに巻き込まれたと警察は予測し、周辺を捜査中である。近くにあった盗難車で入山したようだが、自宅を出た後の経緯はいまだ定かではない。

やり手であったが、危ない橋を幾度となく渡ってきた。目的を果たすためには手段を選ばないタイプで、敵が多かった。おそらく、長い間常に身の危険を感じており、もしもの時のため、事件コンサルタントへ捜査を依頼していたのだろう。警察は、主人に恨みを持つ人物を洗い出しているが、対象者が多く時間がかかっているようだ。

伝統的な名家の一人息子として、代々の政治家一家として、数知れない重圧で押し潰されそうになった。親に決められた道以外に進みたいと強く思った時期もあったが、許されるわけがないと、飲み込んだまま青春時代を過ごした。一族の力で特別視されるうち、自分は何をしても許されると思い込み、次第に一般的な価値観を失っていく。国民のためではなく、自分のために仕事をするようになり、気付けばかつての仲間からも家族から完全に孤立していた。使用人だけがただ唯一の拠り所になり、主人はすべてを託してこの世を去った。彼女はそれに応えようと、専門家に協力し、事件の全容が明らかになることを望んだ。

ただ一つ、主人の仕事以外の功績を挙げるなら、2人の子どもを政治の道へ進ませなかったことかも知れない。両親からの絶大な妨害に合うも、これだけは譲らず、子供たちが好きなことをやらせた。きっと、自信の二の舞を演じさせたくないという親心であり、良心の呵責とも言える。

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