映画感想/『ぼくたちの哲学教室』

哲学とは、

相手の想いを受け入れて
自分の想いを言葉で示すこと

それが私がこの映画で感じたことです。


北アイルランド、ベルファストにあるホーリークロス男子小学校。ここでは「哲学」が主要料目になっている。エルヴィス・プレスリーを愛し、威厳と愛嬌を兼ね備えたケヴィン校長は言う。「どんな意見にも価値がある」と。彼の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの思考を整理し、言葉にしていく。授業に集中できない子や、喧嘩を繰り返す子には、先生たちが常に共感を示し、さりげなく対話を持ちかける。自らの内にある不安や怒り、衝動に気づき、コントロールすることが、生徒たちの身を守る何よりの武器となるとケヴィン校長は知っている。かって暴力で問題解決を図ってきた後悔と挫折から、新たな憎しみの連鎖を生み出さないために、彼が導き出した1つの答えが哲学の授業なのだ。

『ぼくたちの哲学教室』WEBより引用

実際の小学校で行われている「哲学」教育を映したドキュメンタリー。

場所は、北アイルランドのベルファスト。
ケネス・ブラナー監督の映画『ベルファスト』の印象が記憶に新しい。


「哲学」の教室では、まず、一つの問い、
例えば「不安とは何かな?」と先生から子供たちへ問いかける。

それに対して教室内の子供たちは、手を挙げ、答える。
「プレッシャーみたいなもの」「緊張すること」「気持ちの一種」「未来におこる何かに対して抱く恐怖心」

こうやっって子供たち自身で答えを導き出していく。
「言葉」を使って。


低学年への授業では、

上のように描いたものを見せて、

「何に見える?」と問う。

「三角」「とんがり」「やじるし」「サメ」

先生は「同じものを見ていても、みんな違うように感じるんだね」とその状況を整理して示す。


授業外で起きた問題も、対話で解決する。


AとBの間でケンカが起これば、
当人たちに「なぜそんなことが起こったのか」を「言葉」で語らせる。そして先生は決して子供たちの言葉を否定しない。

先生「友だちとはどんな人?」
A「とても大事な人」
先生「Bは君のとても大事な人?」
A「それほどでもない」
先生「ではAは友だちか?」
B「友だちじゃない」

こんな答えを言ってもいい。
こんな答えを言っても先生は怒らない。

けれども争い憎しみあうことを防ぐために、思考的な解決へのヒントを差し示していく。


一人で悩みを抱えている子がいる。

先生は、まず悩みを打ち明けてくれたことに「ありがとう」の言葉をかける。

何が辛いのか一緒に考えてみよう、とリストアップしていく。
「何が辛い?」「ぜんぶ」「ではそのなかで一番辛いことは?」

心配する他の先生が、時々この2人がいる部屋を訪ねてくる。
「ほら、みんなあなたのことを心配して来てくれる。あなたはみんなから愛されているね」


学校外で生徒が万引きをした。制服を着ていたので学校に連絡が入った。

先生は、万引きをした子と対話する。

ホワイトボードを使って、なぜそんなことをしてしまったのか、どう感じているのかを、言葉で文字にして書きながら、思考を一緒に整理していく。



私は、子供だからこそ、この授業ができるのだと深く感心した。

大人になると、こんな本質的な問いをされても、綺麗事を言ってごまかしてしまう。あるいは「不正解」と思われることが怖くて発言できないかもしれない。はたまた全く答えを考え出すことすらできないかもしれない。

小学生という時期にこの経験を積んだ生徒たちは、きっと強い。


正直、当人たちからすると説教くさく感じ、反発したくなることも多いだろう。

けれど無理やりにでも「本当に感じたままを言葉にする癖」を付けさせられる、というのはとても貴重な経験だと思う。

そして、どんな言葉だろうと、それを一旦受け入れてくれる大人がいるというのは、本当にとてもとても貴重だ。


この映画を観ながら、
私は、道徳の授業や、ディベートの授業を思い出していた。

あれらが意味あるものだったかどうかは、正直よく分からないが、

この映画でみた「哲学」の授業と違ったのは、
「何か正解がある」というような錯覚を持たされてしまったことかもしれない。

「正しいことを言わないといけない」という空気感がすでに漂っていた気がする。


大人になった今でも、世間で問題となったことなどに対して、「それは間違っているのでは」というような「正誤」の視点で見てしまうことが多い。

実際、正誤の観点から語る大人が多い。

自分と違う意見を持つ人に対して、意見が違うというだけで、その人格そのものを否定的に捉えてしまうこともある。

相手の意見を聞き入れず、頭ごなしに否定してしまう自分もいる。

そんなことを考えながら、上映時間の約2時間、涙が止まらなかった。

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監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
出演:ケヴィン・マカリーヴィーとホーリークロス男子小学校の子どもたち

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