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誕生日プレゼント、渡すのはモノかそれ以外か。

僕は友達の誕生日に何を渡すべきか迷っていた。
前回は発売されずに渡しそびれた。次回の誕生日のプレゼントは確実に渡したい。

いくつかの候補は思い浮かんでいたものの決め切らないでいた。




ある年末の日、ふと思い立ち彼を誘って雪の降る中、田舎の温泉と湧き水を目指して。

道中の車の中ではいつも色々な話をする。その中で悩んでいる候補を伝えてみた。

フラッシュライトとzippoライター

この二つで僕は悩んでいた。
ちなみに前回は酒好きの彼のためにロックグラスをあげた。


「フラッシュライト」はいわば懐中電灯だ。昔からあるでっかい取手がついていて明るさは豆電球クラスの物とは違って今では高性能LEDのお陰で明るく携帯性のいいものがたくさんある。ライトマニアの僕はiPhoneに懐中電灯の機能がつく前からライトの類が好きで好きでその便利さや、いざという時へ頼れる道具と知っていた。それになんだかんだたくさん持っていたので人より詳しい自信はあった。
田舎の暗い道を歩くにはいいし、最近は防災の面でもバックや車に入れておいて損はない。実際僕はカバンにフラッシュライト用のホルスターを自分で作って持ち歩くくらいだ。

カバンとライト



「Zippoライター」は言わずと知れたオイルライターで、その開閉音や形は誰でも一度は目や耳にした事があるだろう。映画で撒き散らしたガソリンに放り込んで爆発を起こすのは大体このライターだし、ベビースモーカーの相棒としてのイメージも強い。

zippoライター


なぜこの二つを候補にしたかと言うと共通の趣味としてキャンプがある。その時必ず持っていくのがこの二つだからである。
Zippoもフラッシュライトも小学生からの付き合いだ。比喩でもなんでもなく小学生の時に初めてのオイルライターを買った。1500円。zippoとよく似た...zippoではないオイルライター。親にはシッポーと呼ばれていた。

小学生にライターなんぞ持たせるなんてけしからんおじさんが出てきそうだが僕の家の教育方針は「何事も経験」であり、少しくらいは痛い目を見て覚えるのが人間という物でしょ。というスタンス。本当にまずいことや危ないことに関してはしっかりと注意する。

ちなみに今では家の中で火を焚いて喜んでいる。暖房だ。


話してみた

そんな二つの候補で迷っている事を彼に話すと

「ならフラッシュライトのほうが欲しい」
ときっぱり言い切った。


「zippoは?欲しくない?」

「マジで使わないと思うよ。」と。

「じゃあzippoにするか!」


と冗談で言ってみたところ、


「多分貰っても2、3回使ってみてホコリ被るだけだよ?マジで使わないと思うな。」と。

.....よっぽど要らないらしい。
使わずにホコリを被る宣言までされてしまった....。


実はこの時僕のポケットにはzippoが入っていた。雪のそぼふるなか灯油バーナースでお湯を沸かし、極寒の中カップ麺でもすすったら思い出に残るんじゃない?なんて考えていたからだ。

灯油バーナー


実際のところ出番が来るかもとワクワクはしていたものの寒すぎてそれどころではなかった。

ただ僕は車を運転しながら、彼の反応にすこし引っかかっていた。ひっかかりながも僕はzippoをあげようかなと考えていた。性格が悪いせいではない。


なぜそちらを選んだか

「ああ〜確かに悩むね。フラッシュライトって種類あるしどれ買ったらいいかわからないからいいやつあったらそういうのでもいいし、zippoってライターにしては高いから買うのに踏み切れないだよね〜」
ぼく予想

くらいの反応を想像してたので、正直なところこんなにzippoを否定されるとは思っていなかった。
ただびっくりと同時に彼が何でこんなに自信満々に使うかもしれない未来を否定するのか僕には疑問だった。

(自分で好きなの買いたいから買われたくないとか??)
(オイルライターで火事になりかけたトラウマが…??)
(実は使わなくてもオイルがなくなる極悪燃費のことを知って避けている…??)
(何とか自分の欲しい方のフラッシュライトを買わせるために猛反対??)

などと色々予想してはみたが彼の性格上欲しいものを買わせたいがためのもう一方を必死に拒否るような性格ではない。

むしろせっかく貰ったのに使わずに放置することを心配していた。

キャンプの時の着火器具にこも、特にこだわりは見られなかったし“人にもらったものの捨てにくさ問題”は小さいものなので無視してもらいたいところ。



当事者でもないのにいくら考えてもわかるはず無いので理由を聞いてみた。

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彼曰く

俺は現状予備知識とか何もなくて良さとかメリットを知らない。チャッカマンの方が優れていると思うし十分じゃない?」

うろ覚えだがこんな感じだった。
唯一にして最大の理由で僕の疑問への答えだった。つまりは「知らない」だけだった。

それを使う自分の姿や、使い心地、重量感、炎の高さ。全て知らずに想像が膨らまないのである程度知識のある方を選んだよう。

ある意味納得したし全く納得できなかった。

しらない状態でそこまで自信満々に判断できるのか…?
何でそんなに未来や可能性を閉じる方を選ぶんだ…??

チャッカマンと比べられて残念ながら敗北してしまったことよりも「先の可能性を完全に閉じてしまう姿勢」の方にやるせない気持ちになった。

ただ、他人が数千円のモノをくれるだけなのに何をそんなに恐れているんだ??と。


先入観や偏見は誰にでもある

子どの頃、よく食べ物の好き嫌いをした。
食べたことのない食べ物、みたこともない食べ物はなんでもマズそうに見えた。食べる前から僕は「いい!」と首を激しく横に振って断った。

ただ親は「いいから一回食べてみなさい。経験!食べられなかったら無理しなくていいから!」

こうやってイヤイヤ口にした食べ物だが、食べてみると美味しいし僕はもっと欲しがった。

それでも初めて見る食べ物は怖いしマズそうだ。首を横に振る僕に親はそのたびに言った「イヤイヤ言ってるけど一口食べたらもっとくれ!もっとくれ!って言うんだから。ほら、食べてみなさい!」

そしてその通りになる。

現実は直感、先入観に反する。食べ物の好き嫌いも、特殊相対性理論の話も直感に反した。
でもそれらを拒む理由は特に見当たらない。だってしらないんだから。

いつの間にか目の前に道があったらめんどくさそうだったり知らないことが多い方に進むようになった。振り返ると楽しかった事がよく分かる。そんな日々が僕を形作っている。


何を渡すか決めた

話しているうちに色々考え、魅力というものをとりとめもなく語ってみたが実際に手にするのが手っ取り早いと思った。

ただポケットの中のzippoはあえて渡さなかった。


今は“そんなもん要らんモード”だしその状態をちゃんと味わっていて欲しかった。

実のところ、この先彼がウキウキで着火する様子が思い浮かんでいた。ハマらない…ハマらない…と彼は繰り返してはいたものの、ハタから見る僕からした「お前がハマらないわけなくね??」と。
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チャッカマンだって???バカ言うなよ。あの便利で合理的で手軽な死ぬほどダサい着火器具で満足するのか??

学生時代“現代において全く合理的でない万年筆という筆記具”に一緒にハマり、の書き心地や他人からは判別不能なインクの色味の違いにまで楽しみを感じていた彼が。

日本国内で2%しか乗られておらず操作が複雑で大変なMT車を血まなこで探している彼が。

折れた札が当たり前に流通する世の中で、札を真っ直ぐに保つためだけにでかくて収納に気を使う長財布を使っている彼が。


zippo独特の開閉音やオイルの香り。タフで堅牢で簡素な作りからなる信頼感。長年持ち歩くことで所有者と刻む時と傷。キャンプに行く前に儀式的に満タンするオイル。たっぷり入れた割りに飛んでしまう極悪燃費こライターを楽しまないはずがない。

分かった上で渡す意味と伝えたい事

この文章のここまでは僕の勝手な思いつき、押し付けかもしれない。でも僕の中では確信に近い。

もし彼が僕の予想通りハマったとしよう。
良さ、面白さを共有できたとしよう。

その時に話したいのは
「最初の印象のまま物事を考えるクセがあるよ」
という事。

彼はモノを考える前にあった印象や一種の理想、想像を答えとしてそこに向かって後から理由付けをする事がよくある。

めちゃめちゃ反対している事に別の視点からの意見を述べてみると「確かに」とあっさり納得して考え方が180°変わるなんてことがよくある。

それが「間違っている事だから正せよ」というより、選択や行動に行き詰まったらそのくせの事を思い出してほしいと思う。

思考する事とは物事の本質を見ることや理解する事と同時に自分を知ることでもある。

その先どう感じるか。どう考えるかは彼次第。


彼と話すとよく僕の目には食わず嫌いをした少年が写る。

この先、今まで興味も関心も知識もなかったこと。やってみたら面白いと感じること、無意識のうちにハードルをあげて避けている本当はやりたいこと。

そんな事の多くを逃してはもったいない。


ほしいと思うものは自分で買えばいい。それをあげてしまったらただのモノをあげたに過ぎない。可能性や未知の経験、自分を知るきっかけをあげられるならそっちを選んだほうが粋だ。




フランスの劇作家、哲学者のガブリアルマルセル曰く  

「人が人にできる最大の贈り物は良い思い出だ。」



小旅行からハマるまで、その先まで。
一つのアイテムに良い思い出が蓄積されたら良いなと思う。

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