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名誉毀損 カルトのレッテル貼りに判決が出た

加藤文宏


カルトのレッテル貼りは名誉毀損

 カルトはキリスト教における分派を表す「セクト」とほぼ同じ意味の言葉だが、宗教用語にとどまらない否定的な色彩を与えられた蔑称だ。こうした否定的な意味合いから、マニアックな狂信ぶりをカルトと呼び、専門性が高いことや世の中の風潮と一線を画す点を自画自賛するときも使われるようになった。
 だが自称はともかく、他者への決めつけはモラルに抵触するだけでなく、違法性が強いと認識を改めなければならない判決が出た。
 2022年8月14日に愛知県一宮市の旧統一教会(家庭連合)の教会に、翌15日には名古屋市の同教会に、スプレーで「カルト」「売国奴」などと落書きされる事件があった。落書きをした男性は器物損壊罪および侮辱罪で罰金に処されただけでなく、民事裁判でも「カルト」「売国奴」が教団に対する名誉毀損に当たると認められた。
 この例に限らず、旧統一教会にむけられる「カルト」呼びは単なる分派の意味ではない。教団に向けられているのは、悪辣な、まがいものの、反社会的なといった意味が込められた「カルト」だ。そして、こうしたレッテル貼りが侮辱や名誉毀損に該当すると認定されたのである。

誰一人まともにカルトの意味を答えられない

 筆者は神学の入口をほんの少し学んでいたため、1980年代の半ばから1990年代の段階で「カルト」本来の定義について知っていた。
 しかしカルト呼びがあまりに一般化したため、世の中の認識に合わせて会話をしたり、文章を書いてきた。だが旧統一教会追及が激しさを増すなか、広く世の中で使われていたとしても、安易に使うべきではないと考えるようになった。なぜなら相手の言論を封じたり、相手を社会から排除する万能な言葉として使われているのがはっきりしたからだ。
 つまり、定義を強く意識してきわめて注意深く使わざるを得ない。ところが、カルトとレッテルを貼る人に「カルトとは何ですか?」と問うと、何も答えられないか、この人にとっての独自のカルト観が思いつきのまま語られる。
 独自のカルト観は「こんな話を聞いた。権威のある人が言っていた。とても不快で、とても悪いことだ」と、おおよそ伝聞そのものと言ってよい。関係者と信者以外の人々は、報道によって旧統一教会を知るほかないのだから、報道が伝えた情報によって価値観の根幹がかたちづくられている。
 だが旧統一教会をめぐる報道には、1990年代の合同結婚式スキャンダルと、安倍晋三元首相暗殺事件後の教団追及劇をつなぐものがない。このため教団のコンプライアンス宣言の成果は世の中に知られず、信者と信仰の実態も伝えられず、「何が悪いのか」「その結果、どのような影響を与えたか」の証拠を欠いたままカルトのレッテルが貼られてきた。しかもレッテル貼りに不利に働く信者などの証言を、「カルト」の一言で封殺した。
 「カルト」と言い出したのも、「カルト」とレッテルを貼り始めたのも、いわゆる「カルト問題の専門家」だ。

カルト問題の専門家とは

 「カルト問題の専門家」とは何だったのだろう。
 対象をカルト呼ばわりしているなら、これは相手を侮辱したり、名誉を貶めるためのレッテル貼りだったことになる。こうして決めつけて、相手から発言権を奪わなくては対象を批判できなかったともいえる。
 また、特定分野の用語として「カルト」を用いてきた欧米の宗教関係者や研究者が、20年ほどまえから使用に慎重な姿勢をとるようになっていたのを、“専門家”でありながら知らなかったか、あえて無視していたことになる。無視していたとすると、侮辱したり言論を封殺する手段として有効だったからにほかならない。
 いずれにしろ、「カルト問題の専門家」は特定集団を貶める専門家だったとしか言いようがない。
 日刊カルト新聞は旧統一教会が執り行った文鮮明氏追悼の様子を漫画にして、「アイゴー アイゴーの 泣き女文化圏の カルトですからね」「馬鹿チョンカルトの ボスに下げる 頭は持っていない!!」と書いた。ここに批評や批判と呼べるものは一切なく、あるのは民族蔑視の視線や揶揄と、読者の感情を煽り教団の名誉を貶めるレッテル貼り以外の何ものでもない。漫画はあまりに俗悪な例ではあるが、「カルト問題の専門家」とは何かを端的に(剥き出しと言える率直さで)表している。
 「カルト」「売国奴」とスプレーで書いた犯人が、この漫画を読んでいたかどうかわからない。だが、こういった“専門家”による印象操作と決めつけによって、犯人が感情を昂らせたのはまちがいない。
 彼らこそ、彼らが「カルト」と呼んできたもののボスになっていないか。

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