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信仰を暴露されたことで発生した被害と影響 ──Why Outing Can Be Deadly

日本でもっとも統一教会(世界平和統一家庭連合)に詳しいとされている鈴木エイト氏が、犯罪どころか倫理的にもおかしなことをしていない信者ばかりをターゲットにして信仰を暴露(アウティング)している。

これは霊感商法で壺を売っている人が存在せず、高額献金は2009年から確認書を取り交わす形式に変わって、晒し者にするにふさわしい信者がいないのを意味している。つまり被害を予防する効果も、社会に警告を発する効果も期待できない、教団と信者への不信感を刺激するだけの行為を続けていることになる。

信仰の暴露が恐ろしいのは、嘘や間違いで告発されたとき、信者ではない証明が不可能なことだ。私は反論が通用しなかった2例について取材済みである。

性的少数者へのアウティングが重大な人権侵害になると知られて久しいにもかかわらず、なぜか鈴木氏の信仰暴露は人権活動家からも報道機関からも問題視されていない。これは持ちつ持たれつで、人権侵害を利用しているからではないか。

加藤文宏


1 アウティングが日常化した問題

 過日、鈴木エイト氏は

いまだに自民党の国会議員の秘書の中に教団信者もいますからね。本人は信者じゃないって言い張ってるみたいですけど。(略)いろいろねまだ確実に裏は取れてないんですけど。

Arc Times配信より
Arc Times のYouTube配信番組で語る鈴木エイト氏

と発言した。
 彼が特定の人物を信者であると暴露したりほのめかしたのは、これが初めてではない。安倍晋三元首相暗殺事件のあと統一教会追及がはじまると、議員秘書の信仰に言及するだけでなく、アイドルグループを名指ししたり、ボランティア活動で社会貢献をしている男性信者の実名をあげたこともあった。

講演会で実名をあげて信仰を暴露する鈴木エイト氏 (掲載にあたり、プライパシー保護のためモザイク処理を施した。実際には氏名、地区名、団体名が表示されている)

 統一教会は有害な集団だから信者を社会から排除しなくてはいけない、というのだろう。だが献金被害と言われるもの、霊感商法とされるものは、教団改革によって一掃された状態になっているので、もし同教団を問題視するなら宗教に限らず他の団体、果ては献金集めに熱心な共産党も同じ扱いにしなければならない。なお遺贈(遺産を献金する行為)に書面で厳重な確認を行っているのが統一教会で、対策について説明されていないのが共産党だが、鈴木氏は同党の責任を追及したことがない。
 正体を隠して宗教に勧誘するから、信者の実名を暴露する必要があるとも言われる。だが暴露された人々は正体隠し伝道をしていた様子がない。
 正体隠し伝道とは何か。宗教の勧誘であるにもかかわらず、目的を偽って相手に接近し、宗教の信者にする行為を言う。勧誘の意図がない日常会話や相談事をきっかけに相手が宗教に接近した場合さえ、(ある段階で宗教名が知らされて勧誘が始まっても)正体隠しとされる。
 これは机上の空論としての想定ではなく、このままの経緯を経て納得のうえ某教に入信した人が、後に親族から叱責されて「正体を隠されたまま伝道された」「マインドコントロールされた」と言い出したケースがある。マインドコントロールによって、最後まで宗教と無縁な会話を続けて入信に至ったとか、いつの間にか教団の信者になったということにしたかったのだろう。
 マインドコントロールは未だ定義不能な概念で、定義できないためマインドコントロールされた状態か否かを判別する方法も確立されていない。それでも宗教は人々をマインドコントロールすると信じられている。
 このように何もかもが正体隠しと言われてもしかたないにもかかわらず、ボランティア活動の男性も、議員秘書も訴えられるような真似はしていない。これくらい模範的な人々に、ダビデの星のごときものをつけて宗教の信者と明らかにしておけと求められたことになる。ここまでされるなら信仰の暴露やプライバシーの侵害を恐れてまともな日常生活が送れなくなり、教団の殻に引きこもるほかなくなる。
 そもそも信仰の暴露は信教の自由を毀損する行為だ。
 性的少数者へのアウティングが否定されて久しいのだから、鈴木氏による信仰の暴露が許される事態を疑うべきである。
 東京都内の生命保険代理店に勤務する男性が、緊急連絡先としてパートナーの氏名を伝えるうえでゲイであることを上司に知らせると、この上司は男性の同意なく同性愛者であることを同僚に知らせた。まもなく男性は精神疾患を発症し退社。労働基準監督署に労災申請を行い、認定された。これが現代の、現実である。
 前述した正体隠し伝道についても、「性的少数者がいつストレートな性的志向の人物に接近するかわからないから、志向を暴露しておかなければならない」とする発想を例にあげれば異常さがわかるはずだ。
 鈴木氏が信仰の暴露をはじめてから統一教会信者のみならず、信者家庭の信仰を継承していない子弟にもアウティングにまつわる被害が出ている。しかも、ある子弟は「法務局の人権相談窓口に相談した。しかし、まったく話が噛み合わず、こちらの事情を理解しようとしないため、役に立たなかった」と語っている。

2 単純ではないアウティングの影響

 鈴木エイト氏が始めた統一教会信者へのアウティングの影響は単純ではない。
 まず鈴木氏本人が暴露やほのめかしを行った。
 暴露は文字通り個人情報を暴いて公表することだ。
 アイドルグループに対して信者であるかのようにほのめかしたケースでは、マネージメント事務所が信者ではないと否定したものの、当時の報道やブログ記事、掲示板(BBS)の書き込みだけでなく、これらで彼女たちの顔写真が残されたままになっている。
 ボランティア活動を行なっていた男性のケースでは、一般人であるにもかかわらず居住地を特定するに足る情報とともに氏名が公表され、しかもプロジェクターでスクリーンに投影された。
 議員秘書のケースでは、党名と議員名が公表され、政治関係者や報道関係者にとっては該当する秘書に当たりをつけたり、特定することが可能になった。
 ここまでが当事者にとっての被害だ。
 他の信者や信仰を継承していない子弟は、以下のように被害を被った。
 アウティングが公然と行われ、報道されたこともあり、統一教会信者を炙り出す行為への躊躇いが減って学校や職場などで信仰暴きが広がった。信仰を暴いて当然とする風潮は、個人対個人の関係を超えて、企業が興信所や探偵を使い信者探しや信仰暴きを行っているとしか思えない被害を発生させた。この余波で、他の宗教を信仰する人々にも影響が現れているとする声がある。
 また統一教会を含む宗教法人の職員らは、なんらかの書面に職業を書き込むとき恐怖を覚えるようになったとも言う。たとえば学校に保護者の職業を報告する際、具体的に勤務先を書く必要があるとき、子供への影響だけでなく個人情報が厳格に保護されるか心配する人がいる。
 信仰を継承していない子弟で学術界に身を置く人は、これまでも「統一教会の信者は大学入試で差別されてきた」と教えてくれた。中学入学と同時に韓国へ留学する信者家庭の子弟がいる。彼らが高校を卒業して帰国子女枠で国内の大学を受験すると、面接で「ある質問」をされ、答え次第で合否に影響が出る。この信者判別法が大学の教員に共有されているというのだ。「ある質問」は、信仰調査や思想信条調査とは違うものだった。信者に与えられがちで、隠しようのない特徴について質問される。この手法が外部にもたらされ、アウティングに利用される懸念がある。
 また帰国子女に限らず、大学入学後にゼミや大学院や学会で統一教会の信者であるのがわかると差別的な扱いを受け、冷遇され排除されるので、鈴木氏のアウティングに好意的な評価が集まるようになってからは、今まで以上に圧力と不安を感じるようになったと語る人がいる。
 信仰していない人々が信者と断定されたケースもあった。
 決めつけに対して反論すると鈴木氏が言う「信者ではないと言い張っている」状態になり、「そんなに否定するとは、ますます怪しい。間違いない」と信者の烙印を押された。信仰していない証明は不可能なため、中世の魔女狩りと何ら変わらない事態が発生したのだ。
 筆者は教団の力を借りずに、信者や信仰を継承しなかった子弟らを探し出して取材を行ってきた。こうした人々から話を聞けば、信仰へのアウティングがもたらした被害を自ずと知ることになる。凄まじい被害を知りながらほのめかしや暴露を続けるのは、害獣の熊を倒すため流れ弾にあたって傷ついたり死ぬ人が何人出ても構わないという姿勢にほかならない。そこまで非人道的な人間は珍しいだろうから、鈴木氏はいったい誰を取材してきたのかと首を捻らざるを得ない。

3 回復不可能な痛手

 統一教会信者は地方議会から排除宣言を出されたり、伝道と無関係な社会貢献の場から追放されただけでなく、商取引や入札から排除されたり、診療拒否、自動車購入やエレベーターの修繕拒否など多岐にわたる嫌がらせを受けたため、自殺者まで出た。
 信仰を親から継承しなかった非信者の地方公務員は、鈴木エイト氏のアウティングや、暴露されて当然とする報道から、勤務先で信仰調査が行われるようになるだろうと怯え、パニック発作を起こし2022年の夏から現在まで精神科に通院して治療を続けている。法務局の人権相談窓口が役立たずだったと証言したのは彼で、いくら担当者に背景を説明しても「信仰を継承しなかった非信者」はすべて親から虐待されていると誤解されたまま的外れな助言が続き、ついに「テレビが悪いと思うならBPO(放送倫理・番組向上機構)に、新聞が悪いと思うなら新聞社に意見を送るほかない」と言われた。彼は「こんなことで片がつくなら、とっくに偏向報道がなくなっている」と悔しさを隠そうともしなかった。
 いま鈴木エイト氏は、統一教会系の国連NGOが安倍晋三氏に5000万円の謝礼を送ったとしたのは事実と異なると訴えられていたり、信者が強制的に信仰を捨てさせるため拉致監禁されていた状態を引きこもりと揶揄したことでも訴えられているが、舌禍の被害側が名誉回復のため訴訟を起こさなければならないのは労力的にも精神的にも金銭的にもハードルが高い。
 しかも公的機関までまともに機能しないとあっては、人権を侵害された人々は泣き寝入りするほかなくなっている。
 かつては宗教上の姿勢として、教団や信者への嘘や攻撃を許してきたのかもしれない。未だに、こうした気持ちを信者から感じるときがある。だが安倍晋三元首相暗殺事件後の迫害はあまりに理不尽で苛烈だ。もし世の中に信じられているような悪辣な統一教会なら、名誉回復や復讐のためあるときは密かに、あるときは公然と破壊活動を行なっているはずだが、こんなことにはなっていないのだ。

4 萎縮ぶりと思考停止ぶりと怪文書

 報道機関に勤務する人物でさえ、マスメディアが偏向報道に気付きながら公平な報道をしていないと認めている。フリーランスのライターたちも例外ではない。
 悪徳商法追及やニセ科学ビジネス追及や陰謀論集団追及を看板にしていた人々は、鈴木エイト氏とやや日刊カルト新聞への関係だけでなく、紀藤正樹氏と消費者庁への関係から、統一教会追及の人権侵害に見ざる言わざる聞かざるを貫くか、同調圧力に身を任せて90年代から続くカビ臭い教団批判を口にしている。そして、必ずしも統一教会と信者を取材する必要はないとはいえ、彼らのなかに教団と信者を取材した者はいない。
 筆者を「統一教会の信奉者」とする怪文書の存在を教えてくれたのは、例示した分野に通じたAだった。怪文書は怪文書ゆえに出どころだけでなく存在の信憑性まで疑わしさに満ちているが、鈴木氏の言い回しで表現するなら「いろいろまだ確実に裏は取れてない」ものの小さな業界の萎縮ぶりと思考停止ぶりを語るAの証言を紹介する。



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