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放射線デマの現在

放射線を可視化するデマがなければ成り立たなかった反原発運動と、流言飛語の現在について。

加藤文宏


放射線デマとは何か

 この記事で扱う放射線デマは、福島第一原発事故にまつわる事実に反する扇動的で謀略的な宣伝だ。謀略的な宣伝と書くと組織が行うもののように思われるかもしれないが、個人がいいかげんな噂話を生み出したり拡散させる行為もあった。
 下掲のスクリーンショットは、Yahoo!知恵袋へ2011年3月14日に投稿された鼻血デマの初出または初出に近い噂話だ。
 「鼻血デマ」は、最初から「創作された伝聞(=旦那が聞いた知り合いの発言)」と「放射線の可視化(=鼻血を出してバッタバタ倒れる)」と「権威・権力批判または陰謀論(=避難させない、TVが嘘を言っている)」という特徴を持っていた。鼻血を流す人についての伝聞は、目に見えない放射線を可視化させ、国や東電を批判するため創作されたといえる。

 鼻血デマに限らず、放射線にまつわるデマは目に見えない放射線の可視化が重要な意味を持つ。目で見たように想像できなければ、危険や危機の度合いが伝わらないからだ。
 デマではないが、東海村JCO臨界事故が発生すると「バケツでウラン」という言葉で事故を言い表すようになった。ステンレスバケツでウラン溶液を扱っていたとき「青い光が出た」と作業員が証言し、行為と放射線の関係や危なっかしさの程度が可視化される証言だったので、事故を象徴するものとして人口に膾炙するところとなった。
 また重度の被曝をした作業員の写真が拡散され、現在までネット上に残っているのは、放射線の害を可視化させる効果があったからだ。
 オオサンショウウオを放射線によって奇形化した「カエルの幼虫」と言い出す人がいたのも、形が崩れたトマトや帯化して変形した花などの放射線と無関係な写真が原発事故と関連づけられたのも、放射線を可視化させるものとして期待されたからに他ならない。

汚染水という言葉にこだわり連呼する理由

 放射線は目に見えないので、水道水、汚染水、ALPS処理水の違いがわからない。もし汚染水が黒で、水道水やALPS処理水が透明と一目瞭然なら、ALPS処理水をいつまでも汚染水と言い張る人は登場しなかったかもしれない。
 たとえば、処理水を汚染水として報道する際に『人民中国』誌や、中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』が母体となっている『人民網』は、下掲のスクリーンショットのように排出される水を黒や紫で表現している。
 活動家や政治家や中国のプロパガンダメディアは、放射線を「汚染水」という言葉で黒や紫で塗りつぶしたくなるようなもの、魚が逃げたり死ぬようなものと可視化させたかったのだ。

 2004年から2024年8月までにGoogleで「汚染水」「処理水」を含むクエリが検索された件数(人々の興味)の推移を表したグラフを紹介する。

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