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公開シンポジウム 岸田政権1,000日を検証する で語られたこと

加藤文宏

公開シンポジウム『岸田政権1,000日を検証する 〜不透明な意思決定プロセス〜』が開催された。
「派閥解散、裏金処分の決定プロセスについて」
「特定団体との関係断絶・法人解散命令請求のプロセスについて」
「LGBT理解増進法制定のプロセスについて」
と3テーマをこなす欲張りなシンポジウムは、公式のまとめや映像が公開されるのではないかと思われるので、簡単に感想を書き留めようと思う。

派閥解散、裏金処分の決定プロセスについての検証

 当日は予定が押し、体調がすぐれず、ふらふら受付にたどり着くと、会場は既にほぼ満席の状態だった。なお、こうした事情で「派閥解散、裏金処分の決定プロセスについて」と「特定団体との関係断絶・法人解散命令請求のプロセスについて」のみの参加になったことを最初にお断りしておく。


 第一部「派閥解散、裏金処分の決定プロセスについて」では、若狭勝氏と田村重信氏が政界の実情に即して岸田政権および岸田文雄氏を検証した。
 田村氏は、派閥とは何かの定義と機能を説明し、自民党総裁選と国政選挙において派閥が必要とされていた理由を語った。
 まず、総裁選を戦おうとするなら派閥が必要だった。推薦人を20人集める必要があり、同じ主義主張を持つ人々が集まるため派閥が結成される。田村氏は、野田聖子氏の推薦人集めが難しかったことと、高市早苗氏が安倍晋三氏の応援によって推薦人を集めた例をあげて、派閥の機能を説明した。こうした背景があり派閥が維持されていたので、派閥解散後の次期総裁選の趨勢が読めなくなったという。
 派閥が存在した理由の2点めとして、中選挙区制度では自民党の候補同士が争う場面が多く、こうなると争点を明確にして他の同党議員に勝たなければならない背景があったとした。選挙のため同じ理想や政策を抱いた人々が集まり、派閥が結成され維持される必然性があったというのだ。しかし小選挙区制になったことで、自民党の候補が1選挙区1人になり派閥がなくてもよい状態になっていた。
 若狭氏は、政治資金規正法改正の問題点を、政治だけでなく法制度の側面から解説し、国会議員が政治資金規制法を理解していないうえに、薄々わかっていながら法律違反をしていると解説した。
 田村氏が派閥とは何か定義と機能を明確にしていたことで、トップになればお金を集めなくてはいけない事情と、若狭氏が語る政治資金規正法改正との関係もわかりやすくなったのではないだろうか。
 参加者からの質問に、若狭氏は派閥には悪い面もあるが、総裁の独走を抑止する良い面もあると答えた。田村氏は、人事や資金への要求からではなく、政策でまとまる新たなグループが再び生まれるのではないかと答えた。
 若狭氏は、岸田氏について総理としての重要な資質である「大きく包み込む気遣い」と「貫く姿勢」のうち、前者を欠くバランスの悪さがあるとした。岸田氏の派閥解散と裏金処分のあり方は「貫いた」とは言えても、精緻さに欠け、自己都合の独断に走った結果ではないかと考えさせられる。

特定団体との関係断絶・法人解散命令請求のプロセスについての検証

 第二部「特定団体との関係断絶・法人解散命令請求のプロセスについて」では、窪田順生氏と若狭勝氏が登壇し、浜田聡氏がビデオ出演した。
 浜田氏は、「関係断絶宣言を出したことが、他の自民党議員にも影響して、やるべきことができない、おかしなことをおかしいと言えなくなった」のではないかと指摘した。
 宗教法人解散請求の要件について、岸田氏は衆院予算委員会で刑法違反をあげて民法は含まないとの認識を示しておきながら、翌日の参院予算委員会で民法を含むと「だいじな法解釈を1日で」翻したのは「首相の権限を逸脱」しているとした。
 この判断に限らず、全国弁連の紀藤正樹弁護士側だけが政府の決定に関与しているおかしさを語った。
 窪田氏は、岸田氏を内閣総理大臣という立場を忠実にこなしている真面目な人と評したうえで、嫌われる勇気と思想がないと語った。「内閣がぶっ飛ぶ」という気配や、「国民からのフルボッコ」を恐れて、おかしな判断へ向かったのではないかという読みだ。
 若狭氏は、衆院予算委員会から参院予算委員会への1日で態度を翻した岸田氏の迷走が、小西洋之議員から受けた影響であったと指摘した。
 首相動静に、小西氏と岸田氏が2022年10月19日に会っていたと記録されている。首相動静とは「象徴的なできごと」が記録されるもので、岸田氏が小西氏とすれ違ったり、挨拶をしただけではないのがわかる。
 小西氏はYouTubeで、岸田氏が閣議決定に基づいて18日の衆議院予算委員会で行った答弁を、19日の参議院予算委員会で翻した経緯を説明している。岸田氏が民法を解散命令請求の要件にしても、態度を変えたことを国会で追及しないと小西氏がアドバイスしたというのだ。このことから若狭氏は、岸田氏が関係省庁と協議したとするのは事実ではなく、手続きの公正性が欠如しているとした。

 若狭氏の追及はこれで終わらなかった。
 「法律はひとつだけ見るのではなく、関係法を比較して解釈しなければならない」とし、会社法では解散命令は刑事的違反があったときと明文化されているのだから、憲法で保護されている宗教も刑事犯罪で解散命令に至ると解釈すべきであり、これが普通の解釈だと語った。
 また参加者との質疑応答では、不法行為に対して損害賠償で決着しているにもかかわらず、解決した事案まで持ち出して解散の根拠として取りあげられるのか、損害賠償で終結しているのではないかと答えた。
 司法は独立しているのかという問いには、裁判官が完全に独立している状態を10とするなら、「日本のランクは6から7程度ではないか」と評し、「残りの3割程度は政治や国民の影響を受ける」とした。

岸田政権とは何だろう

 田村氏による派閥の定義と、若狭氏の法と実態を突き合わせる態度が、シンポジウムの流れを決定づけ、岸田政権の問題点を浮き彫りにしたように思う。
 こうして浮き彫りにされた岸田政権像を額縁に入れてタイトルをつけるなら、窪田氏曰く「内閣総理大臣という立場を忠実にこなしている真面目な人」の政権、「嫌われる勇気がない」政権となるだろう。
 冒頭に記したように公式発表があるのではないかと思うので、あくまでも個人的に印象深かった点を書き留めてみた。体調が悪かったので印象にバイアスがかかっているかもしれないが、今回は正式な取材ではないのでご容赦願いたい。

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