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【短信】犬の介護から高齢者の貧困率と世代間対立へ


はじめに

 時事的で政治的な話題が続いたので、今回は視点を変えてみようと思います。大袈裟に言えば人生、控えめに言えば生活から「老い」を考えます。とはいえ、現代の老いは政治と無縁ではなく、とうぜん時事的な生ぐさい話題になってしまうのですが。

犬の介護からみえるもの

 16年前、私の髪は黒く、愛犬は生後半年のやんちゃ娘だった。
 いま、私の髪は灰色になり、彼女は専用の車椅子に乗っているものの歩行もままならない、後期高齢者に等しい「後期おばあワン」だ。
 人の1年が、犬の5年と言われる。
 昨年の今頃、彼女はてんかん発作を起こすようになったが、悪天候でなければフリースの冬服を着て散歩をしていた。しかし、初夏を迎えるや歩行が怪しくなり、夏になるとハーネスをつけて支えてやっても散歩が難しくなった。
 人で言えば、75歳から80歳の変化といえよう。
 おばあワンがてんかん発作をはじめて起こしたとき、獣医師から脳腫瘍の可能性を伝えられたが検査と手術を断ったのは、全身麻酔のダメージが心配だったからだけではない。脾臓摘出手術のときの入院だけでなく、病院にひと晩預けただけで精神的に追い詰められて激痩せするほどの下痢をした神経質な彼女が、手術や治療やなにもかもに耐えられるとは思えなかった。
 手術はしなかったが、毎月3種の錠剤と、抗けいれん薬ジアゼパムの点鼻シリンダー数本、夜泣きで寝付けないときのための鎮静剤も必要で、それなりに医療費がかかる。
 これだけではない。高齢犬に合わせて床に滑り止めと防水のためにクッションを貼ったりバリケードをつくった。妻はさまざまな紙おむつを試して、尻尾を通す細工は必要だが人間用のほうが吸収力があるのに気付いたり、餌の与え方を誤嚥防止もふくめ研究した。私はおろおろしながら、犬を抱き抱え、マッサージをしてやり、心細さで鳴く彼女を甘え放題にして寝かしつける。あげたらきりはないが、生活の内容をおばあワン中心に根底から変えたのだった。
 私たち夫婦の親も高齢者だ。
 私の母は心臓発作で倒れてペースメーカーを入れ、父は徘徊のすえ事故死した。妻の両親は健在だが、ケアマネージャーから電話がひっきりなしにかかってくる。
 親たちも、おばあワンも、少しでも安楽な時間を過ごしてもらいたい。いっぼうで、私もどのように老いて、病み、死ぬか考えないわけにはいかなくなっている。

高齢者が直面している貧困

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