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政治に弄ばれた教団 暗殺事件から解散請求まで

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加藤文宏


──安倍晋三元首相暗殺事件を発端として旧統一教会/現家庭連合追及がはじまった。宗教二世を救済するはずの議論は、すぐさま政治家と教団の関係を問うものばかりになり、共産党が「決着をつけるまでとことんやる」と言い出すまでになった。旧統一教会が政党や政治家を利用したとされた追及劇だったが、旧統一教会こそが政治に弄ばれたとは言えないだろうか。

論点がすり替わった教団追及

 10月12日、文部科学省は教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求した。ここに至るまで、旧統一教会追及には3つの転換点があった(図1)。

図1

 まず、安倍晋三元首相暗殺事件の直後は「宗教二世問題」が問われた。しかし問われただけで瞬く間に論点から消え、直後に政治家と教団の関係を問ういわゆる「ズブズブ政治家問題」に転じた。2022年7月半ばから安倍氏の国葬までを最盛期として、同年末まで報道は「政治家問題」に費やされ世論も大きく影響を受けた。
 その後、報道量が減った。2023年は4月に有田芳生氏の「下関は旧統一教会の聖地」とする選挙演説や、8月に鈴木エイト氏が講演会でボランティア活動をする信者の実名を暴露するなど、教団や信者を「市民生活から排除」するよう働きかける動きが顕著になった。
 「宗教二世問題」は12月10日に成立した被害者救済法へ結実したものの、これまでの旧統一教会追及のほぼすべてが政治の問題として扱われたことになる。

加熱する報道を利用した政治

 「ズブズブ政治家問題」は共産党、他党、自民党の関わりに違いがあった(図2)。

図2

 10月26日、しんぶん赤旗は「サンデー毎日」誌上での志位和夫委員長と田原総一朗氏の対談を取り上げ、田原氏の「共産党からすれば統一教会との最終戦争だ」とする発言に、志位氏が「長い闘いだった」と述べ「今度は決着つけるまでとことんやりますよ」と語ったことを伝えた。これは旧統一教会と関係深い「勝共連合」の反共産主義に勝利するところまでやるという意味だ。
 ただし田原氏の「解散命令か?」との問いに、志位氏は「自民党の責任において本気で調査しろ」「ここをクリアしないと問題は解決しない」と否定はしないが積極的に肯定もせず、共産党にとっての落とし所を歯切れ悪く答えている。
 このほか立憲民主党や社会民主党が、自民党の「ズブズブ政治家問題」で政局を左右しようとし、野党政治家と教団の関係があきらかになると紀藤正樹弁護士が「濃淡の違いによって自民党とは重大さが異なる」として擁護する一幕があった。
 かたや自民党岸田政権は、ワイドショーや報道からの突き上げと野党からの追及に対して特に対抗措置を講じなかった。
 2022年8月の内閣改造と本年9月の改造で、旧統一教会との関係が深いとされた安倍派は特に冷遇されていない。しかし最大派閥の安倍派を無視できないだけであって、追及に対処しないのは安倍派の弱体化を願っていると見る意見が党の関係者にあった。同時に岸田政権に何ができたのかとする声もあり、教団との決別が取りうる唯一の対処だろうという。
 産経新聞は、岸田政権が解散請求に動いた経緯を「宗教法人審議会の内部では、請求ありきの進め方に異論もあったとされ、文化庁側は『内閣が飛んでしまう』と訴えて合意形成を図った」と報じた。
 旧統一教会が罪を問われるいっぽうで、過去には悪質な刑事事件を起こした宗教法人が放置されている。
 2005年に、主管牧師が教義を用いて脅したうえで成人女性から小学生までを強姦していた聖神中央教会事件では、献金問題も発生していた。識者から宗教法人解散を求める声があがったものの、自民党小泉政権は質問権行使や解散請求へ動かなかった。そして現在も教会は存続し、信者たちは収監されている牧師の影響下に置かれている。
 この事例は、「内閣が飛んでしまう」と文化庁に言わしめた政権の姿勢とともに、岸田文雄首相が政治的意図のもと解散請求に至るまで決断を下してきたことを示している。

信者たちの視点

 「ズブズブ政治家問題」追及が激しかった時期に取材した信者たちから、再び話を聞いた。
 信者Bさんは、「共産党がつぶしにかかってくるのは当然だが、自民党には失望した。公明党にとっての創価学会とはちがうし、信者数も圧倒的に少ないが、選挙になれば協力した。さんざん言われた、自民党を支配するようなこともなかった。全力で守ってくれとは言わないが、トカゲの尻尾切りでは納得がいかない」と言う。

Bさん(本人の同意をもとに取材写真を加工して掲載)

 ──取材をしていると「他の宗教だけでなくいろいろなことに悪影響を与えてしまう」と言う人がいた。
 「考えは人それぞれだが、まず自分の信仰のことを考えたい。ただ他の宗教や団体の人たちには、私たちのことをよく見ておくほうがいいと言いたい。どんな団体でも政党を応援することがあるし、陳情することだってある。でも、私たちだけが異常で反社会的と言われた。いつ自分たちと同じように政治のおもちゃにされて、いまの自民党がやったように保身のために切り捨てられて突き落とされるかわからない」
 ──共産党は「最終戦争」だったと言う。
 「言うほど激しい戦いがあっただろうか。むしろテレビが騒いだ成果を、あとから拾いに行って共産党のおかげだと自慢している」
 ──これで共産党は漁夫の利を得たのか?
 「党員の自画自賛でしかない。勝共連合とは、何ひとつ戦っていないから勝っても負けてもいない。今年に入ってからは、汚染水の話ばかりしていた。汚染水の話も、どこかへいってしまった」
 ──立憲民主党も、ひと頃は「ズブズブ追及」が激しかった。
 「共産党よりいい加減だった。二つの党のいつもの様子が、そのまま現れている。揚げ足をとる材料にされてしまったように思う」
 ──報道と政治、どちらの影響が大きく感じられたか。
 「報道も左翼側について政治をやっていたので、報道か政治かの違いはなかった。いま頃になって信者の立場を伝えたり、解散はやりすぎではないかと報道している。社内にも政治勢力があって、弱いほうが今まで押さえつけられていたのではないか」

 同じく過去に取材した信者Cさんからも話を聞いた。

Cさん(本人の同意をもとに取材写真を加工して掲載)

 Cさんは「家庭連合はイメージだけが一人歩きして偏見まみれになっていた。安倍氏と関係があるとされたから、ますます絶好のおもちゃにされてしまった」と言う。
 ──いじられやすいという表現がある。家庭連合はいじられやすい宗教だったのか。
 「親たちの時代に世の中が信じた、実際とはちがう洗脳、壺、高額献金のイメージが『いじられやすさ』の原因だ。創価学会や幸福の科学は激しく抵抗した過去がある。家庭連合には、創価学会や幸福の科学がやったような強烈な行動がなかった。相手を脅したり暴力を振るう必要はないが、世の中に伝える姿勢くらいは必要だった」
 ──次のような図で状況を整理したことがある(図3)。

図3

 「鈴木エイト氏が、ボランティア活動をしている信者が地域に悪影響を与えていると実名を晒した。洗脳や壺のイメージがあるから、家庭連合と信者には何を言ってもやってもよくなっている。政治の世界でも、あそこなら何をやっても世論がついてくるとみられた」
 ──安倍元首相も、何を言ってもやってもよい扱いを受けた。
 「安倍氏は注意深く家庭連合と距離を保っていた。それでも『あべしね』の人たちは、安倍氏と家庭連合を同じものとして、暗殺事件のあと『あべしね』の続きをやった」
 ──安倍元首相からたまたま旧統一教会へつながったということか。
 「今まで安倍氏が権力で握りつぶしていたのではなく、亡くなってしまったから代わりのものとして扱いやすい家庭連合が持ち出された。鈴木エイト氏が追及してきたからはじまったと言われているが、これは違うと思う。『あべしね』の続きをやるのに、都合のよいことを言ってくれる人として祭りあげられただけだろう」
 ──自民党は特に抵抗しなかった。
「野党が『あべしね』なら、自民党は『あべしんだ』ではないのか。政治はよくわからないが、いま菅氏が総理だったら流れは違っていた気がする。岸田氏は『あべしんだ』と割り切って、あとは自分の立場をどう守るか考えたのではないか」

亡骸を蹴り続ける「あべしね」の続き

 「あべしね」を続けるために、旧統一教会が利用されたと見るCさんの視点は興味深い。
 安倍氏の祖父は、旧統一教会と深い関係にあったとされた岸信介氏で、アメリカとの安全保障条約の改訂と締結を実現した首相だ。このときの安保締結反対運動は、ソビエト連邦による工作の影響を受けて激化し60年安保闘争と呼ばれている。60年安保闘争で国内左派の活動は成功することなく、彼らは大きな挫折を経験した。
 1970年に期限満了を迎えることになった日米安保条約が自動延長するにあたり、再び左派によって反対闘争がはじまった。もともと世論の関心が低かったうえに、全共闘と共産党系団体や、新左翼党派の同一陣営内での暴力抗争が激化したことで、国民の左翼離れが進み活動は自滅した。安保延長が争点ともなった1969年の総選挙では、自民党が議席を伸ばし、反対を唱えた社会党が50議席減らして大敗している。
 70年安保闘争から生まれたのが、共産主義者同盟赤軍派だ。この組織から派生した日本赤軍の指導者で、テルアビブ空港乱射事件に参加した重信房子氏は、次のように安倍晋三元首相暗殺事件を評している。

この間の安倍暗殺事件は、驚かされました。この国の一人ひとり、特に安倍政権に成って以降の政策で報われない人々が生活のしづらさにマグマのような憤怒や激情を抱えている現実を実感する思いでした。この被疑者の行為の原因こそ裁かれるべき政治社会問題です。統一教会の今も続くあくどい現実と自民党の癒着と利権の宗教政策がはっきり社会へ伝わって欲しいです。安倍元首相の死によってさらに安倍路線が踏襲され、憲法改悪、軍事国家化、独占企業優遇と対米依存がさらに深まることを危惧します。

FUSAKO SHIGENOBU Fusako’s Blog オリーブの樹ジャーナル 2022年7月22日 より引用
オリーブの樹ジャーナル 2022年7月22日 スクリーンショット

 さらに続けて、

「民主主義国家でこんな殺人は許されない」とマスコミ政界はじめ全国民的規模で語られています。その中身が安倍元首相の讃歌、英雄化と一体に語られているところに疑問を感じます。「犯人は安倍元首相が宗教団体と関係があると思い込み」という表現ひとつに既に公平さを失った見方が振りまかれています。

オリーブの樹ジャーナル 2022年7月22日 より引用

と書いている。
 殺されてもしかたない。あるいは、どっちもどっち。だから安倍氏を許すな。安倍元首相は宗教団体と関係がある。──これらは暗殺犯賛美から旧統一教会追及まで、それぞの騒動に通底する本質だった。たとえば、重信氏の暗殺事件評と暗殺当日に公開された毎日新聞紙上での青木理氏の談話は論調が酷似している。
 左翼活動家のなかに、原子力村ならぬ「安保村あんぽむら」という耳慣れない造語を使う人たちがいる。安保村は岸氏への批判を前提にしていて、安倍氏の「戦後レジームからの脱却」批判へと展開される。そして自民党の政治家、外務省、防衛省だけでなく、安全保障の専門家や産業界を揶揄するのだ。むしろ70年安保以後に生まれた層が安保村と発言していることから、彼らにとって安保闘争の敗北と屈辱が過去のできごとではないのを表している。
 これは活動家たちに限らない。新左翼と犬猿の仲の共産党にとっても旧統一教会との「最終戦争」ではなく、左翼自滅の契機となった岸氏と孫の安倍氏への復讐だったとするほうが適切だ。
 では「あべしんだ」後の自民党はどうか。
 旧統一教会だけでなく暗殺事件までが政治利用されて、利用した政党は決着をつけないまま忘れたふりをした。混乱したままの難題を押し付けられ、落とし所を見つけざるを得なくなった岸田政権が、保身と手離れのよさを優先したのが解散請求だったのだろう。
 こうして旧統一教会は、政治の道具として徹頭徹尾翻弄されたのだ。

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