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宗教二世を救うには家族への国家の介入が不可欠になる【短信】

現在どうにもならないのなら、あらたに制度や法をつくらなくてはいけない。家族の問題を解決する制度や法をつくるのだから、家族はどうあるべきか考え、こうあるべきと定めることになる。

構成・タイトル写真
加藤文
(写真はタイトルおよび本文とは無関係なイメージ写真です)

宗教二世たちと対話してわかったこと

 旧統一教会/世界平和統一家庭連合をめぐるさまざまな問題追及の発端に宗教二世が抱えるとされる苦しみへの問いかけがあった。

 宗教二世(および三世)たちに話を聞くと、彼らの立場や考え方はさまざまだった。たとえば信仰を拒否する二世に対して疑問を抱く者もいれば、独自の生き方をすればよいと考えている者がいる。報道されている二世と同じ苦しさを感じる者がいるいっぽうで、立場は同じでも悩みや生きづらさのポイントがまったくちがうと言う者がいる。

 このような複雑さがあるものの、煎じ詰めれば信者ではない私たちの家族問題と構造は同じだ。宗教二世問題も他人が簡単に立ち入れない関係のなかで、縁を切ろうにも切れない親子ゆえに発生している問題なのだ。

 また旧統一教会が解散したとしても信仰が消滅しないどころか、解散した場合は法の網をかぶせる対象そのものが消えたまま活動が続く最悪の事態になりかねないのも、彼らの証言からあらためて確認できた。だから家族の関係にメスを入れなくてはならないのである。


国家の家族関係への介入

 統一教会の二世をめぐる問題を解決するには何者かが親子間に割って入らなくてはならない。しかも二世の願いをかなえるのが目的なので、両者を調停するのではなく強権的に子の意思を尊重しなければならない。これは児童相談所が親子を引き離すようなものだ。

 現在どうにもならないのなら、あらたに制度や法をつくらなくてはいけない。家族の問題を解決する制度や法をつくるのだから、家族はどうあるべきか考え、こうあるべきと定めることになる。これは国家が家族の関係しかも宗教をめぐる関係に介入するのを意味する。

 だが家族とは国家や公権力が口出しすべきではない国家以前の私的領域と見なされている。それでも家族はどうあるべきかを国家が規定しかねないのだから、この矛盾をどうするか、統一教会と二世をめぐる論議で真っ先に見通しを立てておかなければならなかった。

 また望ましい家族像と宗教の関係を問えば、これは統一教会にかぎったものでなくなりあらゆる宗教に関わりが出てくる。これまで家族や家庭の在り方に国が介入する動きを左派およびリベラルが警戒してきたが、彼らだけでなく宗教界からも懸念する声や意見が未だ登場していない。

 このように危惧を述べると「あれだけ二世が困っているのだ。なにをごちゃごちゃ言っているのだ」と言われるのが昨今の風潮だ。だが「あれだけ困っている」の内容は前章に書いたように単純ではない。そして現行法で解決できないのは何か整理さえできていないのではないか。


親は加害者だが

 統一教会や接点を持った政治家をせっかちに追及した安倍晋三暗殺事件後の3ヶ月だった。ようやく宗教二世問題に着手されたかのように見えるが、ここで真っ先に家族への国家の介入が話題にのぼらないのだから、やはりせっかちに結論を求めていると言ってよいだろう。

 宗教二世の親子関係を考えるとき、常に私は自主避難母子の問題を頭の片隅に置いている。

 私は原発事故にまつわる放射線デマに騙されて自主避難した人々の帰還支援を行なってきた。自主避難者の多くが母子のみで避難したが、こうなったのも夫婦間、家族間で意見が対立したからで、自主避難者問題は家族や親子の問題だったのである。

 このとき母子と分断された家族は、放射線デマへの考え方だけでなく親子や家族とは何か、どうあるべきかで対立していた。また避難した母子の間でも同様の対立が発生しているケースがあった。私は自主避難者の帰還支援で否応なく難題を解決しなくてはならなかった経験に基づいて、宗教二世を救うため家族に国家が介入する難しさを指摘しているのだ。

 最後に、難題中の難題について話をしよう。

 多くの人々にとって家族の問題は、被害者である子が救済されるなら親はどうなってもよいと思われているのではないか。どうなってもよいとは思わなくても、意識の外に放り出されたままになっていないだろうか。

 自主避難者母子の母もまた子に対して加害者だった。子を強引に連れ戻し、妻に対して離婚を強く迫った夫がいた。家族がどうあるべきかの衝突だった。子が経済的にも環境的にも元の鞘に収まっただけで、夫婦や他の家族の間で亀裂が深まり、妻であり母である女性は奇行を繰り返したあと自殺未遂をしている。これを自業自得と済ませてよいのだろうか。登場人物すべてが苦しみを味わったのである。

 宗教二世の悩みは人それぞれ複雑だった。国が家族や家族と宗教のありかたに口を挟む難しさがあった。親が加害者で子は被害者であるが、ことは単純ではないのだ。


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