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2014年11月 ローカル線の星空

 写真を始めてからしばらくして中井精也さんという鉄道写真家を知りました。私は「鉄ちゃん」ではないのですが、中井さんの影響で鉄道のある風景写真もいいな、と思うようになっていました。中井さんの鉄道写真はそのゆるい雰囲気から「ゆる鉄」と呼ばれていて、その代表作が撮られたのが、今回の撮影地である千葉県のいすみ鉄道「第二五之町踏切」という場所です。

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 そこには以前、秋に一度だけ訪れたことがありました。とてものどかな場所で、ここなら星がきれいに撮れるかもしれないなと思いました。線路は東西に走っています。冬も近づいているので南の空にオリオン座が見えるはず。そのオリオン座を背景に線路の標識を入れて撮ってみたい。そんなことを何となく考えていました。

 その2ヶ月後、横浜の自宅からクルマで1時間半。またいすみに戻ってきました。辺りは真っ暗。頭にヘッドライトを灯し、踏切まで向かいます。明かりを消すと、よく星が見えていました。

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Nikon D300s + 24mm f2.8
(f2.8、露光時間30秒、ISO1250)

 思い描いていた構図にしようと、南の空を何枚か撮ってみました。上の写真はその1枚ですが、24mmのレンズでは画角が狭く、踏切と高く登ったオリオン座を同時に収めるのは難しい状況でした。オリオン座はもう少し低い位置を想像していたのですが、この読みの甘さ。経験不足と言わざるを得ません。更に状況が悪いことに、2ヶ月前にはあった踏切のバツマークの片足がなくなっています。老朽化でしょうか。また、左下に嫌な光が映り込む事も分かり、当初想定していた構図は諦めることにしました。そこで作戦を変更し、反対側から北の空を撮ってみることにしました。

 年初のしぶんぎ座流星群撮影の後、どこを流れるかわからない流星を撮るにはもっと広角のレンズが欲しいと考え、10.5mmという魚眼レンズを導入していました。これで、これまで以上に夜空を広く切り取ることができます。

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Nikon D300s + 10.5mm f2.8
(f2.8、露光時間20秒、ISO1600)

 1枚撮ってみると北斗七星が右側にはっきり確認できました。北極星もカシオペア座も見えます。踏切に「とまれみよ」とありますが、このときは「立ち止まって夜空を見上げよ」という意味にも思えてしまえました。

 北の空が撮れるとなれば、あの「ぐるり写真」を作ってみたくなります。なるべく夜空が広く撮れる構図に調整し、インターバルタイマー機能を使い自動で撮影を開始しました。待っている間は車に戻り、お湯を準備します。深夜のカップラーメンはなぜあんなに美味しいのでしょうか。温かいスープも冷えた体を温めてくれます。撮影中のタイムラプス動画(8秒)はこちら

 下の写真は自動撮影中の写真。右側に流星のようなものが写っています。実際は3枚の写真を合成していて、30秒以上かけて移動した飛行体のようです。どうも、このように見えるのは、人工衛星の太陽光パネルの光が反射した場合が多く、流星と間違いやすいらしいです。

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Nikon D300s + 10.5mm f2.8
(f2.8、露光時間30秒、ISO1600)
比較明合成(3枚)

 インターバル撮影で大量に撮った写真の中には色々と「余計なもの」が写っています。雲や飛行機の軌跡、自動車のヘッドライトなどなど。撮った写真の中から余計なものが写っている写真をなるべく避けて、Photoshopで比較明合成という手法で作成したのが下の写真です。星の軌跡に濃淡を付け、反時計回りに星が動いている様子が表現できたのではないかと思います。よく見ると線路上にねこが写っていて、ゆる鉄な雰囲気になりました。カメラのシャッター音が気になったのか、こちらを向いています。かわいい。

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Nikon D300s + 10.5mm f2.8
(f2.8、露光時間30秒、ISO1600)
比較明合成(37枚)

 上の写真はこのnoteの記事のために再編集したものですが、撮影当時に作成したものが下の写真です。撮った写真のほとんどを合成しため、迫力はありますが、どことなく「うるさい写真」になっている気がします。踏切よりも大量の星の軌跡が目立ってしまい、現地のゆるい雰囲気が台無しになっています。色の好みもだいぶ今とは違ったようです。

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Nikon D300s + 10.5mm f2.8
(f2.8、露光時間30秒、ISO1600)
比較明合成(137枚)

 実はこの写真、中井精也さんが出演されていたNHKの「てつたび」という番組に投稿して、最後の4作品まで残して頂きました。番組内での紹介されるまでは及びませんでしたが、NHKの番組ホームページにも載せて頂きました。私にできる唯一の自慢です。中井さんが画廊を開かれた後、ご挨拶に行った際にこの写真のことを話すと、私の写真を覚えていて下さいました。他の応募作品と比べると確かにインパクトだけはあったと思います。

 今回の撮影で、やっと星景写真として作品と呼べるものが撮れたような気がしました。こうなると、次はもっと暗い場所で星を撮ってみたいと思うものです。というわけで、島での流星群撮影に挑戦することにしました。次回はそんな話です。

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