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難病をSURVIVEする。(ADPKD)

持病が悪化し、先日ついに指定難病医療費助成制度の対象となった。
つまり、難病患者となったということだ。

難病といって思い出すのは、子供の頃、近所の子供が難病患者であり、「あの子、難病なんだって」と聞いたときに差別的な忌避感情を抱いてしまった記憶だ。
その子とはその後、会うことは無かったので、難病とはいえどんな病気だったのかはわからない。なんとなく、難しい病という言葉の響きから、ネガティブな反応をしてしまったのだ。

この記事では、当事者として、難病という概念とそれをとりまく環境を簡単にまとめようと思う。

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ひとことに難病とはいっても、本当に色々な病気がある。
厚生労働省のHPに以下の記述がある。

指定難病の各要件(※1)

※1「発病の機構が明らかでない」、「治療方法が確立していない」、「長期の療養を 必要とする」、「患者数が人口の 0.1%程度に達しない」、「客観的な診断基準等が 確立している」の5要件

厚生労働省のHPより 001105267.pdf (mhlw.go.jp)

なかなか治りにくい病気=難病という解釈は間違いないが、この記事ではこの記述を根拠とする。
指定難病とは、国から医療費の助成を得られる疾患であり、難病法という法律で定められている。定義としてWikipediaから以下に引用する。

難病法の対象疾患として指定を受けた難病のことを指定難病と呼んで、従来の特定疾患56疾病と区別されている。

難病法のWikipediaより 難病の患者に対する医療等に関する法律 - Wikipedia

持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、難病の患者に対する医療費助成に関して、法定化によりその費用に消費税の収入を充てることができるようにするなど、公平かつ安定的な制度を確立するほか、基本方針の策定、調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施等の措置を講ずる。

難病法のWikipediaより 難病の患者に対する医療等に関する法律 - Wikipedia

この定義を満たしている疾患が指定難病として扱われるので、どの臓器がどう悪いとか、どういった症状であるとかは、関係ないのだ。

近所に住んでいた彼には、申し訳なかったと思う。浅い知識で差別的な感情を抱いたことを、反省している。


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私の疾患は、ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)と呼ばれるものだ。

簡単にいうと、先天的に、腎臓に無数の嚢胞(水が入った袋)が生成される病気で、これがだんだん増えていき、腎臓の機能が低下していくという疾患だ。
知らされていなかったのだが、遺伝なので、母親の家系は多くの人たちがこの疾患を抱えている。そして仮に所帯を持ったとしても、子供、引いては子孫にも遺伝する可能性があるという事でもある。
基本的に治癒することはなく、腎機能が致命的に低下する前に進行を遅らせる措置を取るのが一般的だ。あんまりにも低下した場合は、人工透析を行うか、腎移植をする措置が講じられる。腎移植をしても、移植した腎臓が一生持続するかは保証できず、またその腎臓にも嚢胞は発生するため、根本的な解決方法とは言えない。

透析は金銭面や、時間、身体的なダメージなど色々な面で代償が大きく、移植も身体的負担や提供者の少なさの問題、倫理的観点から容易に行うことができず、私にとって腎機能の低下は非常に恐ろしい。

腎機能が低下すると非常に苦しいらしい。海外の伝説のパンクロッカーであるシド・ヴィシャスの恋人は、腎疾患の苦しさから逃れるためにハードドラグを濫用していたという。そういう例は枚挙に暇がないだろう。


先日、指定難病の認定が通り、進行を遅らせるための薬であるサムスカを処方されるようになった。
サムスカは指定難病認定されるレベルの患者にしか処方してはいけない決まりがあり、つまり、副作用が強い薬だと言える。

主な副作用としては、強い利尿作用が挙げられる。
とにかくおしっこが出まくり、水を飲まないと普通に脱水症状になる。
なので一日に7Lは水を飲んでいる。水を飲まないと「本当の渇き」を実感する。7L飲むということは、7L出るということだ。
大体健康な人間の一度の尿の量が250ml程度で、一日の合計量は1L~1.5Lだと言われている。
つまりこの薬を服用している人達は、常人の7倍くらいはおしっこしている。
私の場合は大体1時間に1回トイレに行き、夜も尿意で一度は起きる。夜行バスとかはまだ乗ってないが、オムツを履いていなければやばいかもしれない。不意にエレベーターとかに閉じ込められて、数時間トイレにいけないような状況になれば、絶対に漏らす。今後に備えて、オムツは常備していた方が良いのかもしれない。


他にも副作用は色々と想定されるようなのだが、運よく私には出ていない。

今後、この薬の効果で腎機能の低下が緩やかになることが期待できるが、まだ飲み始めて日が浅く、どれくらい緩やかになるのかは、まだ不明だ。
一日7L飲むのはそれなりに苦痛だし、薬代なども毎月2万近く掛かっているので、目立った効果が見られなかったらと思うと不安だ。


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難病は、患者数が少ないため、研究者がその疾患の研究をするにあたって、金銭的利益が受けづらいという側面があり、治療法が確立しにくいという現実がある。
研究者や研究機関も、利益が無ければ活動をすることはできず、これはかなり難しい問題である。

先述のサムスカは、そういった環境の中で、使命のために研究した天才科学者達が生み出してくれた素晴らしい物質なので、私としてはもう、感謝しきりである。


臓器のドナーにしてもそうである。
私がたまたま当事者となったため、関心が向いたのだが、そうでなかったら一生無関心で過ごしていた可能性も高い。

つまり、難病の研究支援のための募金にはできるだけ皆に協力して欲しいし、臓器提供意思表示カードにも丸をつけて欲しい。(免許証の裏面にも記入欄がある)他でもない僕のためにね……


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話が前後するが、上述した厚労省のHPには、以下のような記載もあった。

また、「難病」というと、「寝たきりである」とか「生命の維持が困難である」というイメー ジがあるかもしれませんが、上述したように「根本的な治療は困難」であり「慢性的」であり、 かつ「経済的・身体的・肉体的負担が大きい」疾患なのです。自立生活が送れないことや生命 の維持が困難なことは難病の条件に含まれていません。実際、うまく病気と付き合いながら生 活を送っている人も多くいらっしゃるのです。

厚生労働省のHPより 06e_3_2.pdf (mhlw.go.jp)

これは、全くその通りであると思う。
もちろん、病気や症状の大小にもよるが、負担が大きく、また不安であるからといって腐っていても仕方ないので、私はあくまでポジティブにやっていこうと考えている。


たぶん同じ疾患を抱えている人もこの記事を読むことになると思うので、私なりの「逆に病気でよかったことランキング」を書いておく。

1位 水がウマい

ウマい。大量におしっこが出るため、本当に喉が渇くのだが、やはり喉が渇いている時に飲む水の美味しさといったらない。
熱い風呂上りに飲む、キンキンに冷えた麦茶。
たまらないあの美味しさを一日中体感できるので、これはかなりたまらない快楽である。大げさではなく、お酒とかたばこを遥かに上回る気持ちよさだと言って良い。事実、サムスカを飲み始めてから、飲酒量も喫煙量も激減した。

今が夏だからというのもあるが、麦茶が美味しい。
冷蔵庫に、麦茶ポットを二本用意しといて、交互に使うと良い感じだ。
それと、蛇口に付けるタイプの浄水器も良い。東レのトレビーノは、三千円くらいで買えるのでリーズナブルだし、明らかに水が美味しくなる。おすすめだ。
冬の季節は蛇口から冷たい水が出るので、浄水器で浄化した水を飲みまくれば、金銭的にも労力的にも省コストが見込める。

2位 生きてる感が湧く

あんまり健康体で、金銭的にも余裕があると、もうダラダラ生きてしまって、本来くそどうでもいい職場の人間関係に悩んだりとか、ネットのゴシップに一喜一憂したりして、漠然と死にてえな…とか思いがちだと思うが、やはり大病を患うと「死」にリアリティが湧くので、生死というより大きい問題に終始することになり、結果としてそういう些細な問題は結構どうでもよくなる。

放っておいたらほんとに早々に死ぬので、「死にたくねえ…」という気持ちが生まれる。
ダラダラと何十年も生きるよりはずっと有意義な生活を送れるだろう。

まあ、本当に死にかけたらそうもいかなくなるかもしれんけど。


3位 障害者手帳が貰える

私が貰っていないので、これは三位入賞だ。
かなり手厚い保証が得られるというが、体感していないので何とも言えない。美術館とかに安く入れるらしい。美術館に安く入りたいぜ。


あとは、企業に対して障がい者雇用として雇ってもらえたり、働けないレベルになれば年金がもらえたりするはずだ。働かなくて良いって、それはそれで良いことなんじゃないか。働けない、とも言えるが… それは言い方の問題だ。


まとめ

この記事で伝えたいのは、
・ひとくちに難病といっても色々ある
・治療のための研究が進みにくい分野であり、研究支援が重要である
・臓器移植ドナー数は常に足りなく、嫌でないなら臓器提供意思表示カード(免許証の裏)に丸を付けて欲しい
・当事者も、ポジティブに生きて行って良い

ということだ。
特に、私からすれば臓器移植の意思表示は是非にもお願いしたいばかりだ。
SNSで、死にたがっているような人たちをよく見かけるが、ひとりひとり全員に、死ぬ前に臓器移植に賛同の旨だけは示しておいてくれとリプライして回りたい。
もちろん、そうはいかないのが現実だが、どうしてもその臓器を必要としている人たちはたくさん居るから、少なくとも大事にして欲しいと思う。その上で、カードに丸だけ付けてくれたらね…



ぜひ、よろしくお願いいたします。

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