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切ないゲーム

コロナ禍の頃に、あまりに暇でゲームにどハマりしていたことがある。
広告が表示されるものは鬱陶しいし、課金は絶対したくないし、となると「Toon Blast」に行き着く。
一時期本当に暇さえあればプレイしていたので、私にしてはものすごいレベルにまで達してしまった。

昨日、広島に行く船で読もうと思っていた本を
持って行き忘れた。
それで、Wi-Fiが充実した船内て、このゲームのことを思い出し、3年ぶりくらいにダウンロードした。
プレイして仕様がいくつか変更になっていたことに気づいた。

私の記憶では、
①ここまで課金を求められなかったはず
②こんなに広告の視聴を求められなかったはず
だ。

しかし、やってみるとこれがよくできたシステムで、あと1ターンあればクリアできたのに!という絶妙なタイミングで万策尽き、お金か時間を要求されるのである。
「100円払え、嫌なら3つの広告を連続して見ろ」というわけだ。
ターンを追加でもらうには、お金の力を行使するしか手段がなかったはずなのに、選択肢が増えていた。
課金できない子どもも、これなら時間を溶かしまくりだ。
当然、私もお金は払いたくないので、広告を見る。

すると、あれはなんというジャンルなのか?
知らないので勝手に命名するが、「労働系アプリゲーム」の広告が流れてきて、お次はあなたの番ですよ、と体験プレイすることを求められるのである。

これが、流れてくるどのゲームもなんとも切ない。
人の営みの虚しさを、ひしひしと感じさせてくれる。
私が特に悲しくなったのは、ホテルを拡張していくゲームだ。
どんなものだか、書いてみる。

ゲームの中ではプレイヤーは私だけ、他はお客だ。
このホテルには、客室が一つしかない。
「なのに、なぜこんなに客が?」
というレベルの行列がフロントにできている。
行列の人々は待たされて、みんなプンスカ怒っている。
「そりゃ、あんたたちの判断ミスだろ。一室しか無いんだからどう見ても、もう入れないのに、なぜ並ぶ?」
と思うが、誰も他所へ行こうとしない。

客室を清掃して、客を一人通す。
その人は一瞬だけ部屋に入り、風のように去っていき、後には汚れた客室だけが残る。
2秒に満たない滞在で、満足も何もあったものではないと思うのだが、それでも分厚い札束を支払って帰っていく。
室内には緑色の毒霧が漂っている。
「掃除しろ!」
とゲームのシステムが私を呼ぶ。
あの毒霧は、掃除したくらいで消えるのか?

フロントには長蛇の列。
掃除しないと客が入れない。
掃除をする、客を入れる。

そこで気づく。
2列あるうちの右の列の人たちは、さっきから股間を抑えて怒っている。
「なになに?」
と彼らの意を汲めずにいると、ゲームのシステムが
「客が置いていった金で、ここにトイレを作れ」
と廊下の壁の前に私を呼んでいる。
驚いたことに、このホテルはトイレがない状態で開業していたのだ。
よく、開業許可がおりたものだ。
それよりも、あんた達。
こんなところに並んでないでコンビニに行け。

トイレも、作っただけでは使えない。
ここにも緑の毒霧が漂い、個室のドアが開かないように板で打ち付けられている。
掃除が必要なのかと思うとそうではなく、隣の部屋にトレペを取りに行き、3つある個室にセットしなくてはならないのだ。
フロント業務と客室清掃業務もあるというのに。

トレペをセットすると、右の列の客が股間を押さえてトイレに駆け込み、一瞬で出てきて札束を置いていった。
しかも、一瞬しか個室にいなかったくせに、トレペは1ロール使い切ったようで、すぐにトイレが使用不能になる。
「トレペを補充しろ」
とゲームのシステムが私を呼ぶ。

仕事は目まぐるしい。
掃除して、客を通し、トレペをとりに行って、セットし、客を通す。
それだけで、山のように札束が積み上がっていく。

なのに、ちっとも心が豊かにならない。
さっきから、フロントと客室とトイレとトレペ置き場をぐるぐる回っているだけだ。

これは、いったい、どんな目的で作られたゲームなのだろう?
子どもに
「お金のために生きるとは、かように切ないものである」
ということを体感させるため?
だとしたら大成功だ。
私はわずか1分の体験ゲームで
「人間って、こんなことの繰り返しで、老いて死んでいくんだな」
ととても虚しい気持ちになっている。

しかし、一番切ないのは、広告を見て時間を湯水のように使っている私だ。
ゲームは、虚しくなるからやめようと決めたはずなのに忘れていた。
唯一良かったのは、こうしてネタになってくれたことだろう。

**連続投稿842日目**

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