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水晶浜のイルカ騒動

滲出性中耳炎・仕事絡みのストレスによるメンタル不調・引きこもりによる体力低下と続き、せっかくの夏日にも海に入れないと悲しく思っていたところ、「美浜町の水晶浜海水浴場にイルカがやってきて人を噛んだ」とニュースになっていた。

水晶浜海水浴場は、私のシュノーケリングポイントの一つで、昨年、最もウミウシの撮影に通った場所である。
第一報を聞いた時に思ったのは、「しめしめ、このイルカのおかげで、今年も人がいない海を独占できるぞ」だった。
我ながら、何と心が狭い。
地元の皆さんの夏の貴重な収入源である海水浴場に、人が来ないことを望むなんて。
自分一人だけ、のんびりウミウシの写真が撮れることを期待するなど、あさましいにもほどがある。

しかし、事態は私が考えるほどお気楽でもないようだ。

文春オンライン「イルカのかみつき1日6件」2022.7.30

写真は昨年のものだが、人の足が十分つくほどの浅瀬にイルカがやってきて、足にかみつこうとしている。
「誰もいないぜ、ラッキー!」と海を堪能したい私自身にも危険は迫っているのである。

このイルカ、背びれの傷の様子から、先日地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市の沿岸で目撃された「すずちゃん」と同じ個体ではないかと言われている。
珠洲市の須須神社には、イルカ伝説が遺されており、「イルカは神の使い」とされている。
このため、能登半島全域の縄文時代の遺跡からもイルカの骨が出てくるほど、イルカ漁が盛んなところなのに、珠洲市のこの地区だけは「イルカを食べるなんてとんでもない。禁を犯せば重い病になる」と言い伝えられているのだそうだ。

すずちゃんの初登場は、2020年にさかのぼる。

近年では、珠洲市沿岸でイルカが最初に目撃されたのは20年8月1日だった。お盆時期は老若男女問わず、一緒に泳いだり、遊んだりして、同20日に一時、姿を消した。だが、近年は土日を選んだ開催になっているが、本来は中秋の名月に合わせて行っていた須須神社の例祭日の同年9月14日、鳥居前に再び出現。「神に導かれるように戻ってきた。伝説が現実になったと話題になった」。
(中略)
「100歳になる須須神社の氏子総代にお聞きしても『沖に行けばいるが、浅瀬で見たなんて聞いたことがない』とおっしゃるので、(20年のイルカの出現は)124年ぶりのイルカの三崎詣りだと思います」。須須神社は昨年9月から、神様がイルカに乗った様子を描いた「御朱印」の授与を開始。出村会長は「イルカ神話」を伝えるリーフレットや記念ポストカードなどを製作し、御朱印に添えて配布するなど、町おこしにも期待を寄せている。

日刊スポーツ 2022.10.9

太字は、私が気になったところだ。
すずちゃんは、最初はただの迷いイルカだったのだろう。
しかし、珠洲市での彼は「神のお使い」なのである。
「イルカで町おこし」の期待も担っている。
それはそれは、大事にされたのだろう。
もしかすると、神様へのお供えなんかも、用意されたのかもしれない。
また、何も知らない観光客が「まあ、かわいい」と餌付けした可能性だってある。
想像の域を出ないのだが、本来なら、人間に近寄ってこないはずの野生の生物が、こうも簡単に人のそばにやってくるのは、もしかすると、「過去に、この動く二本の棒(人間の足)に近づいたら餌が降ってきたことがあった」のではないかと推測する。
つまり、近づけばいいことがあると学習してしまったんじゃないのか、と思うのだ。

こうなってしまうと、誤学習を解くために、「動く二本の棒に近づくとひどい目に合う」という経験で、記憶を上書きしてやるしかないのだけれど、実際に、200㎏以上の巨体を持ち、時速40㎞で泳ぐ生き物に、そんなことを人間が教えるのは不可能だろう。
海では我々はあまりに無力だ。
もしも、水晶浜海水浴場が今年の営業を無事に乗り切りたいのなら、人に害をなすイルカの駆除に乗り出すのがよいと思うのだけれど、誰も「賢く愛くるしい哺乳類の殺戮」に手を染めた、と世間から叩かれたくないだろうなあ。

「あらいぐまラスカル」だって、どんなにかわいがっても、最終的には人と共存できず森に放たれる。
野生の生き物とは、よほどの覚悟と経験がない限り、共存できないものなのだ。

さて、今年はどうしよう。
どこならすずちゃんを気にせず、ウミウシの写真を撮れるだろうか。
共存が無理なら、来ないところを探すしかないのだけれど、イルカにかかれば、敦賀半島なんて一瞬で散策できる庭みたいなものだろう。
せっかくの日本海の夏なのに、ちょっと気が重い。

**連続投稿511日目**

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