水晶浜のイルカ騒動
滲出性中耳炎・仕事絡みのストレスによるメンタル不調・引きこもりによる体力低下と続き、せっかくの夏日にも海に入れないと悲しく思っていたところ、「美浜町の水晶浜海水浴場にイルカがやってきて人を噛んだ」とニュースになっていた。
水晶浜海水浴場は、私のシュノーケリングポイントの一つで、昨年、最もウミウシの撮影に通った場所である。
第一報を聞いた時に思ったのは、「しめしめ、このイルカのおかげで、今年も人がいない海を独占できるぞ」だった。
我ながら、何と心が狭い。
地元の皆さんの夏の貴重な収入源である海水浴場に、人が来ないことを望むなんて。
自分一人だけ、のんびりウミウシの写真が撮れることを期待するなど、あさましいにもほどがある。
しかし、事態は私が考えるほどお気楽でもないようだ。
写真は昨年のものだが、人の足が十分つくほどの浅瀬にイルカがやってきて、足にかみつこうとしている。
「誰もいないぜ、ラッキー!」と海を堪能したい私自身にも危険は迫っているのである。
このイルカ、背びれの傷の様子から、先日地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市の沿岸で目撃された「すずちゃん」と同じ個体ではないかと言われている。
珠洲市の須須神社には、イルカ伝説が遺されており、「イルカは神の使い」とされている。
このため、能登半島全域の縄文時代の遺跡からもイルカの骨が出てくるほど、イルカ漁が盛んなところなのに、珠洲市のこの地区だけは「イルカを食べるなんてとんでもない。禁を犯せば重い病になる」と言い伝えられているのだそうだ。
すずちゃんの初登場は、2020年にさかのぼる。
太字は、私が気になったところだ。
すずちゃんは、最初はただの迷いイルカだったのだろう。
しかし、珠洲市での彼は「神のお使い」なのである。
「イルカで町おこし」の期待も担っている。
それはそれは、大事にされたのだろう。
もしかすると、神様へのお供えなんかも、用意されたのかもしれない。
また、何も知らない観光客が「まあ、かわいい」と餌付けした可能性だってある。
想像の域を出ないのだが、本来なら、人間に近寄ってこないはずの野生の生物が、こうも簡単に人のそばにやってくるのは、もしかすると、「過去に、この動く二本の棒(人間の足)に近づいたら餌が降ってきたことがあった」のではないかと推測する。
つまり、近づけばいいことがあると学習してしまったんじゃないのか、と思うのだ。
こうなってしまうと、誤学習を解くために、「動く二本の棒に近づくとひどい目に合う」という経験で、記憶を上書きしてやるしかないのだけれど、実際に、200㎏以上の巨体を持ち、時速40㎞で泳ぐ生き物に、そんなことを人間が教えるのは不可能だろう。
海では我々はあまりに無力だ。
もしも、水晶浜海水浴場が今年の営業を無事に乗り切りたいのなら、人に害をなすイルカの駆除に乗り出すのがよいと思うのだけれど、誰も「賢く愛くるしい哺乳類の殺戮」に手を染めた、と世間から叩かれたくないだろうなあ。
「あらいぐまラスカル」だって、どんなにかわいがっても、最終的には人と共存できず森に放たれる。
野生の生き物とは、よほどの覚悟と経験がない限り、共存できないものなのだ。
さて、今年はどうしよう。
どこならすずちゃんを気にせず、ウミウシの写真を撮れるだろうか。
共存が無理なら、来ないところを探すしかないのだけれど、イルカにかかれば、敦賀半島なんて一瞬で散策できる庭みたいなものだろう。
せっかくの日本海の夏なのに、ちょっと気が重い。
**連続投稿511日目**
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