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こちらこそ?

今日は、敦賀で最後の病院通いの日だった。

大人になってから喘息になった私だが、この10年以上、呼吸ができないような大きな発作は起こしてない。
それでも、抗アレルギー剤と吸入薬を欠いてはならないらしく、通院は必須だ。

歳をとると、免疫の働きが落ちて、アレルギー疾患の症状が無くなることもあると何かで読み、それを待っている。
時々、先生と相談しながら薬をやめるチャレンジをしてみるのだが、途端にぜいぜいと喘鳴が聞こえる。
気道の炎症がぶり返すらしい。

そんなわけで、結局、3年間、近所のクリニックに月一で通った。

先程、診察の最後に引っ越すことを告げ、先生に
「長いことお世話になりました」
と挨拶した。
すると先生は、改まって
「こちらこそ」
と返してこられた。
ちょっと面白い。
私は何もお世話などしていないし、何しろ先生のお名前すら存じ上げない。
そんな、うっすい関係に「こちらこそ」はありえないだろう。
定型フォームで返してくださっただけだと思うが、何が「こちらこそ」だったのかと、しばらく考えてしまった。

1番は、「いつも当院をご贔屓にしてくださり、ありがとうございます。おかげで経営が成り立ちました」的な意味あいだろうか。
持病のある人というのは、確実なリピーターであるため、次年度予算を考える時など、収入として見込める良い客ではあろう。
いわゆる「太客」ではないけれど、地味に経営を下支えしてきた自負がある。
……かというとまるでそんなことはない。
これではないな。

重大な医療ミスを、追求することなく示談で済ませ、病院の未来を庇った、……なんていうドラマみたいなことも、していない。

では、あれかな?
症例を提供してくれたことに対するお礼だろうか。
いや、でも、喘息なんて珍しくない病気だし、症状も安定している。
医学の発展に貢献しそうな要素は、何も無かった。
先生も特に、私の病気を論文にしたりはしてないだろう。
これも違う。

だとすると、やはり
「お世話になりました」
「こちらこそ」
という、常識的な大人のやり取りをなぞったことになる。

せっかくなので、「こちらこそ」と返せるほどお世話されてない相手に対して、なんと答えるのが適切か考えてみようと、待合室で没頭していたら、名前を呼ばれたことに気づかず、会計の順番を飛ばされてしまった。
その甲斐あって、相応しい返答はこれだというものを、見つけられたら良かったのだけれど、特に何も思いつかない。

良い返しは、やはり「こちらこそ」しかないのだろう。
「こちらこそ」に大した意味はないのだと、スルーできるのが大人のスキルなのだろう。

**連続投稿625日目**

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