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植木市

植木市と瀬戸物市が好きになったら、おばあちゃん一直線(偏見!)だと思っていたのに、このひと月以内に両方制覇してしまった。
行ってみたらどちらも面白くて、ばばくさい趣味と言われようが何だろうが、もっと早く行けばよかったと後悔した。

植木市に行ってみようと思ったのは、何かの苗を買いたかったからではない。
開催情報のアナウンスの中に、「全国の刑務所で受刑者の方によって作られた製品が販売されています」の文言があり、心を惹かれたのである。
ちょうどうちのまな板が買い替え時期でもあり、木工製品が販売されていればぜひ購入したい。
確実に市価よりお安く手に入る。

受刑者の方が作られた製品というのは、安価で高品質なものが多い。
何しろ、人件費がとんでもなく安いうえ、設備管理費は国持ち、生産管理もばっちりだ。
そりゃ、安価にもなるだろう。

監獄人権センター(CPR)サイトより

これまでにも、木工製品や革製品の展示販売を見たことがあるが、寄木細工などは、職人さんが作られたのかと思うほど美しい仕上がりだった。
もしこの先、私が刑務所で過ごさざるを得ないことがあったら、仕事はぜひ寄木細工を回してほしい。
ずぶの素人にここまでの技術を叩き込んでくれるなんて、素晴らしいことだ。

植木市の会場は、山の中腹にある公園の駐車場ということもあり、そこに至る道は一本しかない。
駐車できずにあふれた車が渋滞するほど、人気のイベントのようだ。
夫が先に出向いてまな板をゲットしてくれていたため、私は買い物を気にせずじっくりと会場を見て歩くことができた。
当初の目的は受刑者さんの作った木工製品だったものの、予想通り人気コーナーだったらしく、私が到着したころにはかなり品薄になっており、まな板はお寿司屋さんが使いそうな分厚くて立派な一枚だけが売れ残っていた。
それ以外には、木製プランター、ボックス、キーホルダー、コースター、布製品などが並んでいる。
若いカップルが、購入したイチゴの苗を植えるためにプランターを選んでおり、この色は合わないだろうかと、真剣に悩んでいたのがほほえましかった。

会場は春先ということもあり花であふれている。
ラベンダー、スイセン、パンジー、ハーブなど、庭に植えて放置しても増えそうな、ポピュラーな価格帯のものが目立つ。
愛媛のイベントらしい柑橘の苗木も販売されている。
女の子を連れたお母さんがしゃがみ込んで、2人でどれがいいかとヒヤシンスを見比べている。
手をつないで歩く老夫婦は、特に買い物がしたいわけではなく、2人とも植物が好きで見て回っているようだ。
鋭い目で苗と値札を見比べているプロっぽいお兄さんがいるかと思えば、女の子数人が電卓をたたきながら、買い物かごに苗のポットを入れている。
この子たちは、どこかの高校の園芸部だろうか。
いろんな人が苗を見ている。
とてもいい。
何も考えずに地植えしても、ちゃんと植物が育つところに住んでいるんだなあ、としみじみうれしくなってしまった。

「見たら買っちゃうから見ない」と決意していた多肉植物の苗も、当然のように並んでいる。
ふらふらと棚に近寄り、誰よりも時間をかけて至近距離で元気そうな苗を物色する。
初心者向けの育てやすい春秋型の多肉植物ばかりを置いていたので、きっと良心的な植木屋さんだったのだろうことは間違いない。
高価なレア植物をここぞとばかりに売りつけて、枯れてしまっても「管理が不十分だったから」と言い張る業者さんも多いというのに。
「こんないい人が売ってる多肉はきっとよく育つはずだ」と手に取ってふらふらレジに向かいそうになったが、「いやいや、待て待て。近所のホームセンターの方が安かったらあとから後悔する」と理性で押しとどめて、結局買わずに帰ってきた。

私の予想は正しく、帰りに寄ったホームセンターで同じ苗が100円安かった時にはガッツポーズが出たが、同時にこれは間違えた、と思った。
あの「みんなが春を喜んでいる雰囲気」の中で買うのが正解だったのだ。
だって、ここで100円安く買えてもうれしくないんだもの。
植木市は、春を喜ぶお祭りのようなものだったのだ。
たくさんの人に交じってラベンダーを買えばよかった。
来年はそうする。

**連続投稿778日目**

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