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シナリオは常に斜め上方に向かって修正される(難易度の超高いパズルを解こうとした話)

プロダクトレビューを、請け負っている。

今回の依頼は、金属製のパズルだった。
菊の花の形で、真ん中の花芯パーツに、花びらを14枚差し込んで完成させるようになっている。

ところがこの花びらが、ぱっと見にはぜんぶ同じ形なのに、全てが微妙に違う。
14枚の順番を、完璧に正解しないと、完成できないのだ。
しかも、花びらは、表裏がわからないデザインになっている。
その組み合わせの、理論上の数は(14×2)! 。

電卓に計算させてみたら、もはや、なんと読むのかわからない数字が出てきた。

運だけを信じて適当にトライしても、完成できるような確率ではなさそうだ。
宝くじより手強い。
とっかかりがどこなのか、まずはそれがわからないことには、完成は不可能だろう。

しかし、この手のパズルならば、絶対にパズル本体にヒントが隠されているはずなのだ。
どこだ?
ヒントはどこにある?

あらゆるパーツをくまなく観察したが、花芯の方のヒントは見つけたものの、花びらの方が全くわからない。
ぜんぶ同じでしょ、これ?

そこで私は、こういうパズルが、大変得意な夫を頼ることにした。
何しろレビューには、完成写真が必要だ。
私にできないなら、できる人にやってもらうしかないではないか。

しかし、彼は天邪鬼。
普通に頼んでも絶対やってくれるわけがない。
どう言えば、その気になるだろう。

私は頭の中に、プライドの高い夫をその気にさせるシナリオを作った。
こんな感じの。

「ねえ、科学者に必要なものってなに?」

「そりゃ、観察眼だろ。お前には全く足りないものだな」

「だよねえ。やっぱり、観察眼って優秀な科学者はみんな持ってるものなの?」

「もちろんだ。俺様は優秀だからな。どんな細かい差異も見逃さないぞ」

「あのさ、今、すっごい難しいパズルに挑戦してて、私が見ても微妙な違いがわからないんだよね。ちょっと見てくれないかなー?」

「おう、どれどれ?」

「お前は観察眼が足りない」というのは、常日頃から言われていることだし、夫は乗せられればどこまでも飛んでいく人だ。

うん、これなら、うまくいきそうじゃない?
シミュレーションは完璧だ。
夫が帰宅した。

「ねえ、科学者に必要なものってなに?」
勢いこんだ私が、尋ねる。

「お前の質問は相変わらず、ざっくりしてるなぁ。その科学者というのは、どういう科学者なんだ?」

「へ? どういう、って?」

「新しい法則を発見したい科学者なのか、新しいものを生み出したい科学者なのか。
大雑把に理学系か工学系かだけでも、全然タイプは異なるし、大事なポイントも変わってくる」

「う……。えーと、法則性を見つけ出したい人の方かな?」

「それなら、知りたい、と強く思う探究心だな」

「へー、そっかー。ありがと」

……結局、パズルは自分でやった。

**連続投稿401日目**

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