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【敦賀便り8】「釣りは伝承遊びだから」

このお話は、2020年11月に30年近く暮らした神奈川県相模原市から福井県敦賀市に引っ越した私の備忘録として記録しています。
敦賀のことはまだよく知らないので、あてずっぽうに書いてるところもあるかもしれません。
小さな町だけれど住みやすくていいところだなあと思っています。

敦賀に来て海が身近になった。
歩いても行けるし、バイクなら5分だ。

海釣り公園も整備されている。
敦賀半島を走れば、筏釣りができる施設もある。
海釣り旅館もたくさんある。

「釣りを趣味にしないで何を楽しむの?」
と言われているような環境だ。

越してきた頃は物珍しさが勝り、あちこち出かけることに熱中していたため、身近な存在である釣りのシーズンを逃した。

それでも

「もしかしたら今からでも釣れる魚がいないかなー? 冬の晴れた日にちょこっと釣れる気軽な釣りができないかなー?」

と思って釣具屋さんに行ってみた。

敦賀市民病院のすぐそばにある「三水釣具店」。

大手のチェーン店ではない、個人経営の釣具屋さんだ。

この日の店番は店長お一人。

「あのー。海釣りはまったくの素人なんですが、どんな道具を揃えたら良いですか?」

と聞くと

「これから? うーん。

もうね、一回雪が降っちゃうとね、冷たい雪解け水が海に流れ込んじゃって水温が下がってるからね、釣れる魚がいなくなるんだよ」

と、とても申し訳無さそうに言う。
店長のせいではないのに。

「そうなんですか。。この前、海釣り公園でおばちゃん3人がキャーキャー言いながらバンバン釣ってたので、私でもできるかな、と思ったんですが、やっぱり難しいですか」

ちょっとしょんぼりしながら言ってみると、店長はかわいそうに思ったのかいろいろ聞いてくれる。

「まだ何も持ってないの?」

「自称名人のおじさんが自作した釣竿だけ持ってます」

「それはどんなの? 組み立てるやつ?」

「そうです。3本組み合わせるんですけど、でも糸を通す輪っかがついてるからたぶん、リールをつけられるようになってるんだと思います」

「一回持ってきて見せてごらんよ」

「はい」(心のなかでは「かかった!」とガッツポーズ。笑)

店長は続ける。

「あのね、釣りって誰かと一緒に行って教えてもらうのが一番良いんだよ。
最近はね、YouTubeとかでさ、釣れた釣れたって言ってるのを見て、じゃあ俺も、つって始める人が多いんだけどね、それだと釣れないのよ。
同じ場所でも、潮の流れ、波の高さ、引き潮なのか、満ち潮なのか、魚の活性はどうかで全然やり方が変わってくるのね。
上手い人と一緒に行って、最初から釣れた経験をすれば、面白さに目覚めてどんどん自分で工夫してみようと思うもんだけど、一回やって釣れないと楽しくないから二度と行かないじゃない?
大手のチェーン店はさ、サビキが釣れるってサビキのセットばっかり売るけどさ、それで釣れなかった人がうちに来て『釣れません』って言われてもその場にいないから教えてあげられないしねぇ」

「そうなんですか。
でも私、引っ越してきたばっかりで友達もいないし、釣りを教えてくれる人なんていないです」

さらにしょんぼり言ってみると店長はキッパリ言った。

「釣りはね、伝承遊びだからさ。
やっぱり、誰か教えてくれる友達を作ってその人と行くのをおススメするよ。
ぼくたちのちょっと下の世代まではさ、家のおじいさんとかが暇な時に孫連れて海で釣りを教えてくれたもんなのよ。
それが途絶えて、ネットや動画で何が伝わるのかと思うしね」

私もそう思う。

一旦途絶えた伝承は復活させるのかとてもとても大変なのだ。
そのことはよく知っている。
子どもの遊びの群れを復活させるのもかなり難しかった。

だから今ある「伝承」の形態を残していかなきゃと思う店長の気持ちもすごくよくわかるのだ。

そこで一旦引いてみる。

「そうですね。あったかくなったら海釣り公園で釣りの師匠を見つけます。
それまでに道具をちょっとずつ揃えたいので、また来て良いですか?」

「いつでもどうぞ! ぼくでわかることならなんでも教えるよ」

やっぱりこの人いい人だ。

「私、敦賀に越してきてから魚の美味しさに目覚めた気がしていて、よく相木さんでお魚買って自分で料理するようになったんです」

「ふふ。あのね。自分で釣った魚はそんなもんじゃないくらい美味しいよ。地引き網でガーッと捕まえた魚はさ、どうしても魚同士でぶつかって打ち身になってたりして、そこから傷むんだよ。自分で釣るとそれがないからね。美味しさが全然違うよ」

「そうなんですねー! 楽しみ! また来ます」

冬の間に、バイクで持ち運べる最低限のセットや便利グッズをいろいろ教えてもらおうと思った。

また行こう、三水釣具店。




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