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なんでも3つ

引っ越しは魔法だ。
消えたものが現れる。

荷物を箱詰めしていると、「あれ?」が頻発する。
たとえば、あちこちの引き出しから出てくる「酔い止めの薬」。
たとえば、洗面台やシンクの下から出てくる複数の「カビキラー」。
たとえば、開封されたいくつかの「固めるテンプル」の箱。

どれも、整理が悪くて、家にあるはずなのに見つからず、買ってしまったものたちだ。

船酔いするたちなので、今日は船に乗るぞという時は、絶対欠かせないのが「酔い止めの薬」。
前日から荷造りをはじめ、リュックの一番わかりやすいところに入れておこうと、薬箱をひっくり返して探すのだが、ない。
仕方なく、薬局に走り、購入し、船に乗る前2錠だけ飲んで、「あー楽しかった」と薬の存在を忘れる。

またある時は、風呂掃除をしようと、カビキラーを探すが見つからない。
今の「やる気」を逃したら、次に風呂掃除をしようと思うのは、数か月後かもしれないと思うと、ドラッグストアに走らざるを得ない。
こうして、半分くらい使われたカビキラーが、あちこちから現れる。

固めるテンプルも、塩昆部長も、重曹も、ゼラチンも、大体そんなような経緯で、必ず3個ずつ見つかるのである。
我ながら、どうかしてると思うのだが、必死で探しているその時は、本当にこの世から消えてしまったかのように、見つからないのだから仕方がない。

夫はこの手のミスが許せない。
家に同じものが3つもあるのが、そもそも信じられないようで、買い置きは1つと決めているらしい。
「今日、片栗粉が安かったから!」
と10袋も買って帰ると、袋にナンバーを書かされる。
そして、この場合だと「10」と書かれた片栗粉から使い始め「1」が半分なくなるまで、次の片栗粉を買うことを禁じられる。

そんな夫なので、ちょっとずつ使った形跡のある数々の製品が見つかると、絶対怒られるに決まっている。
そこで、今日の私は、半日を費やして隠蔽工作を決行した。
酔い止めの薬は、一番新しそうな箱に、すべての薬のシートをぎゅうぎゅう押し込む。
固めるテンプルも、ゼラチンも個包装なので、同じ手で乗り切る。
カビキラーは、詰め替えて1本にまとめる。
お風呂マジックリンも、台所用マジックリンも同様に一本のボトルにまとめ、あふれそうな分は、しょうがないので今、掃除に使う。

こうして、それぞれ3つずつあったものたちを、見事ひとつにまとめ上げることができた。
やらなくていい掃除もしてしまったが、まあ、いいだろう。
グッジョブ、わたし。
やり切った。
これで夫の追及を免れることができる。

ところが、夕方帰ってきた夫に
「また開封したのものを、あちこちに隠していたのが、出てきたんだろ?」
と詰められた。
「お前の脳みそはリス並なのか?なんでそう、置いた場所を覚えていられないんだ?」
なぜバレたのだろう?といぶかしがる私に、夫が言う。
「敦賀に来てから、お前がゴミを出したことって、たぶん10回もないよな?全部俺がまとめて出しているんだよ。ゴミを見れば、お前が何を隠そうとしたのかなんて、バレバレなんだよ」

そうか、詰めが甘かったのか。
空き容器や、空箱を自分で捨てに行って、ようやく隠蔽作業は完成だったのだ。
そういえば、先日、「ザ・セカンド」で大活躍したマシンガンズの西沢さんも、「ごみを見れば、その人の暮らしがわかる」というようなことをおっしゃっていた。
ゴミからわかる私の暮らしとは、リスのように何でも忘れ、ごまかし方が甘い、ということだろうか。
しかし、これは、暮らしというより、性格だ。
ゴミによって、性格がバレている。

けれど、いまさら気にしても仕方ないじゃないか。
そんなことは、もう何十年も前から、夫にはバレている。
隠したところで、他人にもバレているだろう。
だとしたら、そもそも、隠蔽工作などせずに、堂々と怒られればよかったのではないか?
夫にそう言ってみると、
「その『そもそも』は間違っている。正しいそもそもは『2つ以上買わない』ことだ。置き場所を決めろ」
と、ど正論が返ってきたのであった。

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