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ケモノ道

私がせっせと通う近所の山は、元みかん山・現雑木林の山であり、登山道などという素敵なものはほぼない。

唯一便利に使えるのが、送電線の鉄塔を管理する人たちが開いた「送電線巡視路」だ。
こんな案内標識が山にあれば、超ラッキーだと、矢印を辿って進む。

しかし、そんなに頻繁にメンテナンスに入るようなところでもないのだろう、案内標識通りに歩いても、ところどころで踏み跡が消えている。

代わりに見つかるのが、これ。
イノシシくんたちが作ったケモノ道である。

よーく見ると、チョキの形の蹄の跡があり、ここを通ってタケノコを掘りに行ったり、ぬた場に向かったりしているのだな、とわかる。

一応、熊鈴をつけて、急に出くわさないよう気をつけているのだが、時々、藪の中で重量級の生き物が走り去る、ものすごい音が聞こえることがある。
「夜行性だから、昼間は会わない」というのは思い込みだ。
時間帯に関係なく、イノシシたちは、動き回っているに違いない。

ケモノ道の厄介なところは、人にとってもその道が魅力的なところだ。
というのも、私たちはなんとなく、野生動物というのは「人間のようにめんどくさがったりしない」「労を厭わない」「パワーに任せて、最短距離を進もうとする」生き物だと思っている。

ところがどっこい。
野生動物だって、楽したいのである。

だから彼らも、歩きやすいところを選んで通る。
歩きやすいところとは、どんなところかというと、障害物がなく、傾斜が緩く、他の動物も通っていて踏み跡ができているところ、だ。
これすなわち、ケモノ道なり。
つまり、彼らの作った道は、私たち人間にとっても歩きやすい道なのだ。

目の前から踏み跡が消え「こっちが楽そう」と選んで進んだ山の斜面に、なんとなーく踏み跡らしきものが見つかる。
「お!道だ!こっちでよかったんだ」と思うと、これがケモノ道で、目的地とはまるで違う所に連れて行かれたりする。
迷子は私の趣味の一つではあるのだが、山の中ではさすがに怖い。

なので最近は、自分が歩いたルートを残してくれるアプリを入れるようにした。
これを見ると「大した距離歩いてないじゃん?」と思うでしょ?
しかし、この距離でも迷うことができるのが、プロの迷子ってものなのだ。

もうケモノ道には引っかからない。
今のところ、文明が私を守ってくれている。

**連続投稿833日目*

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