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なんでも人権で語る架空人生相談

竹槍一本で戦車に向かうが如く、持ってる武器は「人権」一本という、根本玄里先生のラジオ人生相談のお時間です。

今日のご相談者は、子育てに悩む新米母さん。

人権は相談者さんを、救えるのでしょうか?

相談者:
「はじめまして。26歳主婦です。恋愛結婚して5年目に男の子を授かりました。今4ヶ月で外を歩けば可愛い盛りだねえと言われます。けれども、産んでみてわかったんですが、わたし、本当に子育てに向いてなくて。毎日辛くて辛くて、もう、この子を殺すか、私が死ぬかって考えてるんですが、殺す勇気も死ぬ勇気も無くて、毎日ただぼーーっと泣く子どもを見てるだけなんです。こんな母親失格な私なんて死んだ方がいいんでしょうか?どうやったら楽に死ねますか?」

回答者:
「あなた、人権ってご存知ですか?」

相談者:
「は?」

回答者:
「ほら、中学の社会科の公民とかでやったでしょ?日本国憲法の三つの大きな柱って。なんだか言えますか?」

相談者:
「いえ……」

回答者:
「ダメだなー、やっぱり暗記中心で本質を教えない教育システムに問題があるんだなあ。あのね、憲法ではね、国民主権と基本的人権の尊重と、平和主義を謳ってるんです」

相談者:
「……そんなことも知らないなんて、やっぱり私、ダメな人間なんですね……」

回答者:
「いやいや、そんな話はしてないですよ。あのね、憲法ではね、全ての国民に生存権っていうのが保障されててね、あなたもお子さんも生きてる権利があるんですよ」

相談者:
「こんなに辛いなら、そんな権利いりません」

回答者:
「あらら。せっかくの権利を放棄なさるんですか?人類が苦労して獲得してきたものすごく大事な権利なんですけどねえ。そんなにお辛いんですねえ。ちなみに何が辛いんですか?」

相談者:
「自分が産んだ子なのに、全然可愛いと思えないんです。憎たらしくて、ほんとに殺してしまいたいと思うことがあるんです。母親なのに」

回答者:
「ははー、あなたは自分のお子さんを可愛く思わないといけない、と思ってるわけですね?」

相談者:
「いけないっていうより、普通の母親ならそう思うものじゃないですか?わたしは子供に対する愛情がないんです。こんなわたしに育てられる子がかわいそうでかわいそうで」

回答者:
「まずそこですね。」

相談者:
「は?」

回答者:
「基本的人権の中には【思想信条の自由】ってのがあるんですよ。基本的に心の中で何を思ってても、別にあなたの自由ですよ?あなたが例えば会社の上司とソリが合わなくて、きらいだ!と思った時に、そこまで自分を責めますか?」

相談者:
「いえ。でもそれはいつでも関係を切ることができる他人だからですよね。嫌いなら離れればいいだけじゃないですか。子供は、わたしが育てなくちゃいけないのに、そのわたしに愛されないなんて不幸ですよね」

回答者:
「二つの点で間違ってます。
一つはあなただけが育てなきゃいけない義務はないですよ?国民の命を守るのは国家の義務でもありますから、あなたが無理なら、乳児院もありますし。あなたとお子様の【生存権】を守ることを最優先に考えて、人に預かってもらうことを考えてもいいと思うんです。
二つ目。愛されないと不幸というのはあなたの主観ですね。親に愛されなくても、ちゃんと大人になって楽しく生きてる人だっています。愛情なんてくれる人から貰っときゃいいんですよ。枯れた井戸をいくら掘っても水は出ません。あなたの愛情が今枯渇しているなら、湧くまでお隣の井戸から水をもらったらいいじゃないですか。あなたのお子さんにどんな未来が待っているか、誰にもわからないですよね。
あなたのお子さんにも幸福になる権利【幸福追求権】があるのに、あなたはそれを侵害しようとなさっている。親に愛されるかどうかは、単なるアドバンテージです。
アドバンテージ、わかります?優位性とか訳しますけどね。
あればあったでちょっとお得なもの、くらいの感じですよ。アドバンテージが与えられないから殺す、というのは、貧乏でいい暮らしがさせてやれないから殺すとか、片親で子供の肩身が狭いから殺す、という事例と全く同じで、奇妙な理屈です。貧乏でも片親でも楽しく生きてる人はいます」

相談者:
「でも、それじゃわたしの責任が果たせないです。自分で産むことを選んだのに、結局は出来なくて可愛いとすら思えなくて、投げ出すなんて」

回答者:
「ははは!何言ってんですか、子どもと死のうと思ってた人が責任だなんて。そんな責任、まるめてポーイのプーですよ。やってみたら思ってたのと違ったー、なんてことは、誰にでもよくあることですよ。何しろ初めてのことなんだから。無理だった!と気づいた人のために、受け皿として制度があるんですから、遠慮なく使えばいいんです。困った時には国に助けてもらうのも権利ですよ。この場合、一番に考えるのは、お二人の生存権を保障することですよね。世間体のために親子で死のうなんて本末転倒じゃないですか?」

相談者:
「でも、知らない人に迷惑かけられませんし」

回答者:
「あなたが親子で無理心中することは知らない人もなにも、まずご家族にも多大な迷惑をかけることだと思いますが?」

相談者:
「でもきっと、わたしとこの子がいない方が夫も幸せになれると思うんです」

回答者:
「どうしてそう思うんですか?」

相談者:
「この子、夜泣きがひどくて、夫は夜勤もある仕事だから、とにかく睡眠には気を遣ってあげないといけないのに、わたしが泣かせてしまうからちっとも眠れなくて、いつもイライラしてるんです」

回答者:
「ほうほう。ではご主人はあなたとお子様がいなくなれば、存分に眠れて幸せになれると思うわけですね?」

相談者:
「ええ」

回答者:
「ご主人はその後の一生『自分のせいで嫁と子どもが死んだ』と思って自分を責めるんじゃないですかねえ?少なくともわたしならそう感じますよ。それは私なら幸せではないですね」

相談者:
「主人はきっとそんなこと思いません」

回答者:
「どうしてそう思われるんですか?」

相談者:
「あの人は、わたしがこれだけしんどい思いをしていても、助けてあげようなんて思ったことがないんです。いつも不機嫌そうにして、泣かすなって言うだけで。」

回答者:
「じゃあますます変ですよね。あなたとお子様を大切にしてくれない方を幸せにしてあげるために、親子で死のうとしてるんですか?」

相談者:
「それくらいしたら、俺が悪かったって思ってくれるかもしれないじゃないですか?」

回答者:
「でも、ご主人がそう思った時には、あなた方は死んでるんですよ?ご主人が改心してもなんの恩恵もないですよね?それにもしかしたら、本当になんとも思わないかもしれない。そうしたら、ただの死に損ですよ?」

相談者:
「………」

回答者:
「当てつけに死ぬことを考えるより、あなたとお子様が、幸せに生きるためにできることを考えましょうよ」

相談者:
「幸せになんてなっていいんですか?こんな、子どもを愛せない親が」

回答者:
「あなた、もしかして憲法読んだことないんですか?うわ、そりゃ問題だなぁ。
あのね、あったりまえに幸せになれますよ。だって全ての国民は【健康で文化的な生活を送る権利】があるんですもの。使える資源を全部使って、あなたとお子様の幸福を追求しましょうよ?」

相談者:
「具体的には、どうしたら?」

回答者:
「それは話すと長くなりますので、LINEします」

リスナー:
(そこ、LINEなんかーい?!)

根本先生、今週も原理原則に基づいたご回答ありがとうございました。それではまた来週のこの時間に。

「根本玄里の人生相談」でした。

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