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必要は発明の母

「穴釣り」という釣りがある。
テトラポッドの隙間の「穴」に餌つきの針を落として、根魚と言われる「泳ぎ回らずじっとしている魚」を釣る方法だ。
そこに魚がいれば釣れるし、いなければ釣れないというわかりやすい釣りで、さほど腕が無くても釣れるため、場所さえ選べば初めての子どもでも楽しめる。
もちろん、私も大好きだ。

今日は午後から、松山の「釣り公園」を偵察に行ってみた。
上手い人たちなら、冬でも魚が釣れるのかを見に行ったのだ。
風が強く陽射しも無く、釣り人は少なかったが、こんな日にやってくる筋金入りの釣り師たちでも軒並み釣れておらず、なんだか安心した。
魚がいなければ釣れるはずがない。
一昨日のボウズは私のせいではなかった。

さて、その釣り人たちの中に、1人不思議な行動をとっているおじいちゃんがいた。
どう見ても魚がいるとは思えない、排水口のようなところに、糸を垂らしているのだ。
ご覧あれ、ここですよ、ここ。

おじいちゃんは、この構造物の上面に被せてあるグレーチングの隙間から糸を垂らしていた。
グレーチングはボルトで固定されており、持ち上げられないようになっている。

近くで見ると、グレーチングの隙間の狭さがよくわかる。

さらに近づいてよく見ると、底に丸い穴が複数開いている。

写真ではわからないが、この直方体構造物の手前5メートルのところは、もう岸壁だ。
つまり、この穴は海と繋がっている。
おじいちゃんは、ここで文字通り「穴釣り」をしていたのであった!

「えっ?!こんなところで釣れるんですか?」
びっくりして、いきなり声をかけてしまう私。
「釣れますよ」
「何が釣れるんです?」
「メバルとか、カサゴとか」
「でも、釣れても、こんな狭い隙間からは、取り出せないんじゃないですか?」

おじいちゃんは、ニヤッと笑って自作の魚掴みを取り出して見せてくれた。
(真似されると困るから、撮影はNGとのこと)
魚を掴む部分が硬い金属製で、グレーチングの隙間にもするりと入る。
入れたら金属部分で、針にかかった魚の頭を挟み、骨を潰して平たくして隙間から取り出すのだそうだ。
天才?!

おじいちゃんが、なぜ、これを発明したのかというと、高齢になり足元が怪しくなって、テトラポッド上での釣りを「危険だから」と家族に禁じられたためだという。
大好きな穴釣りを、危なくない場所でやろうとして、思いついのだそうだ。

「必要は発明の母」ということわざがあるが、人は「必要」だけでは、ここまでしないだろう。
「好き+必要」だからこそ、なんとかしたいと工夫するのだ。

「これ、いいですね。特許取れますよ!」
と興奮する私に、おじいちゃんは言った。
「こんなところで釣りしてる人、日本に何人いると思う?誰も買わないよ」
そうは言いつつ、撮影はNG。
きっとまんざらでもないのだろう。

好きなことにここまでのめり込める気持ちを、私もずっと持っていたいと思った、松山の初めての冬だった。

**連続投稿730日目**

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