僕らのMaison book girl
時は令和3年 5月30日 千葉県、舞浜アンフィシアター
晴れわたる青空と真っ白な入道雲をよそめに、僕らの物語は突如の雨と共に、最後のページを告げた。
Maison book girl は僕にとって、深夜の月の光に照らされる海面のような美しさを持つ存在だった。それは唯一無二で、普段はキラキラと反射しながらひっそりと佇んでいるが、時に荒波に揉まれて形を失ったり、静かに近付いてきてこちら側まで包み込んでくれるような優しさを纏ったりする。
彼女らもまた、そんなことを6年間繰り返した。
初めて目にしたのは3年前
音楽を習っていた僕にとって変拍子は少しばかり難しいイメージがあって最初こそとっつきにくかったが、彼女達はそんなリズムを次々と操り僕の心の寂しさを見透かしたかのようにそっと
寄り添ってくれた。気付いたら隣にいた
アイドルを推す、ということは偶像崇拝であり、ある意味実体は虚像である。
しかし彼女らは虚像のみならずプライベートな姿を見せる機会をたくさん与えてくれた。そして憂いを帯びた彼女ら自身の闇にまで気持ちを巡らせ、人生そのものを、彼女達一人一人のそのあり方を尊重したいと思わせてくれるような人たちだった。そんなアイドルだった。
だからこそ僕たちにとって解散という響きは胸に痛く、失った過去や痛みは倍増された。それはきっと僕だけの痛みではなく彼女ら4人分の痛みも一緒に背負わせてくれたからだろう
公演中、時計の針のリズムで繰り返され、だんだん速さを増すようなHOTELの崩壊していく音を耳にした。その乱れる脈拍は僕の心臓の音と同期して、一体化したよう。そして呼吸がとまった瞬間
蝉のおびただしい程の生命力と共に、いっぺんに夏が押し寄せた。銀テープのフィルムをなびかせた走馬灯を、僕らは同時に視た。
雨は止んで空には、灰色の雲が傘を刺していた。
最後のような彼女達の姿を、いつのまにか見失ってしまった そんな日が終わった
長い長い,6年間の美しい雨が明けた。おかえりさよなら、またどこかでね。Maison book girl
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