2024.8.14 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 静岡・浜松アリーナ Bブロック最終戦 試合雑感

◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs HENARE

決勝トーナメント進出がかかった勝ちしか許されない状況。今年の後藤の爆発力を見ると優勝を願わずにはいられず、そういう意味でも個人的に一番緊張した一戦でした。

パワーファイターかつストライカーでもあるHENAREは後藤は相手としてはわりかし得意とする部類であるとは思うのですが、HENAREの躍進もまた素晴らしく、王者としては絶対に負けられない一戦なわけです。手探りのような攻防でもショルダータックル一つ取ってもかなり激しく、ハードな打撃戦が繰り広げられます。

ラリアットはほぼ互角であったものの、HENAREがミドルキックを解禁してからは押される後藤。HENAREのミドルは本当にヤバいですね。これをなんとかリバースGTRで返すとすかさずラリアットで薙ぎ倒す後藤。切り返し一本に絞ってラリアットとのコンボ技にしたリバースGTRはかなり使い勝手のいい技になってると思います。

昇天・改を狙うもすんでの所でかわされ、ラグビーボールキックを被弾するも後藤は柴田ばりのスリーパー。そしてサッカーボールキック。ここで一連の流れの総称であるPKを使うのは熱すぎます。そして印ミドルを放つもランペイジで反撃するHENARE。そして昇天・改は決められず、ヘッドバットの撃ち合いに。互いに得意とする技でありながら、この技にプライドを持ち、そして生還したHENAREの意地。ランニングヘッドバットを決めてのStreets of Rageで HENAREが勝利。いやはや……手に汗握る一戦でした。

ここまで夢を見せてもらっただけに後藤の敗戦は悔しいし呆然としましたが、ヘッドバットとミドルキックという相手の得意領域で紙一重の差で負けた印象があります。それでもベテラン選手参加でも全敗に終わるどころか、むしろ強豪竹下を倒し、ほぼ全ての試合が好試合だった後藤はまだまだやれますよ。最年長優勝こそ成し遂げられませんでしたが、欲しいのはIWGP世界ヘビーへの挑戦権のみ。G1優勝ですらその片道切符に過ぎません。毎回言ってる気もしますが、大事なことなのでもう一度。NJCもG1もすでに得た栄冠である以上、後藤の本懐はIWGPヘビーの戴冠のみです。それによって後藤洋央紀というレスラーは完成するのです。成し遂げるまで後藤の戦いはまだまだ続きますよ。未来に投資し続ける新日の選択肢を間違ってるとは思いませんし、そこに身体一つと戦いのみで抗っていく後藤もまた素晴らしいんですよ。いつかその長い雌伏の時が実を結ぶ日を楽しみにしています。

◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs デビッド・フィンレー

独力で這い上がってきたファンタズモに、苛烈な場外攻撃と負傷した背中を攻めまくるフィンレー。アイリッシュカースもいつもよりエグく決まっている気がします。ファンタズモのスイングDDTを抱えて止めて強引にIN TO OBLIVIONを決めたシーンは持ち前のパワーを感じました。

ファンタズモもアイリッシュカースを二度被弾しつつも、このG1で研ぎ澄まされた押さえ込み連発でフィンレーを揺さぶると、さらに掟破りのIN TO OBLIVIONで反撃。こんな風に攻め手で曲者感を出すのは上手いですね。

投げ捨てパワーボムをCRⅡで切り返し、サンダーキス'86を決めるも、外道のレフェリー妨害からシレイリ一撃。そしてオーバーキルでフィンレーの勝利。やはりフィンレーは対外国人相手の戦績はかなり良く、ここはやはりバレクラのリーダーとしての面目躍如という感じですね。フィンレーは仕上がりは凄まじいものの、IWGP世界ヘビーもNJCもG1も、所謂新日におけるビッグタイトルを一つも戴冠していないのが泣き所で、GLOBAL王座は創設しての歴史が浅い関係上、実力や扱いに反して格が備わってないんですよね。AJスタイルズやケニー、ジェイ・ホワイトと比較するとインパクトの面で弱いのはまさにそこに尽きるわけで、逆説的に王座に対する「飢え」は歴代の中で一番強く感じます。ある意味では裏主人公のようなもので、この野心は応援したい所ですね。G1優勝かIWGP世界ヘビー級王者。せめてどちらかでいいのでそれが成し得たときこそ、フィンレーの覚醒になるでしょう。


◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
KONOSUKE TAKESHITA vs 成田 蓮

HOT全面支援で竹下捕獲から試合スタート。今の成田なら竹下相手でも十分やれるだろうと思う反面、竹下の規格外の化物ぶりを見るとこれも納得してしまう不思議。何より決勝トーナメント進出がかかっていますものね。

痛めつけた竹下をリングに放り込んで一旦戻るHOT。成田はすかさず膝十字を極めてダメージを継続させます。竹下は河津落としで何とか返すも、竹下のペースはチョークでタイミングを潰し、鉄柱も使って足攻めを続けます。足攻めはどちらかというと「わかりやすい」キャッチーな上手さとねちっこさなのですが、個人的にはチョークやガウジングを仕掛けるタイミングの上手さが素晴らしく、完全に相手の出足を止めているんですよね。この潰しっぷりは凄いですよ。

ここまで見た竹下の個人的評価なのですが、恵まれた身体ポテンシャルに見合うだけのリアリティのある強さを押し付ける俺様主義でありながらも、相手の攻めに対する献身を超えた過干渉が若干目立つ側面がある印象を受けます。盛り上がるパターンがすでに頭の中にできあがっていて、相手の動き含めてのコントロールや位置調整等のセットアップがやや強引だなと思う時がありながらも、結果として試合が恐ろしくハネて、アイディアがあって面白いので納得してしまう感じというか。ハリウッド脚本術の三幕構成のようにガッチリとプロットポイントが決められているような感じですかね。単純な勝ち負け星勘定の部分を超えて、より深い部分で手綱を握らされたなと思うシーンが少なく、転じてそれは竹下の怪物性を証明するものではあったのですが、この試合はそうしたペースを少しずつ狂わせて間を外し、しっかりグダらずに攻めて表と裏でちゃんと「強さ」を示した成田にストロングスタイルの息吹を感じてしまいました。

竹下もテクニック面では競わず、逆に受け身が上手いとはいえ体格的には細身の成田を雪崩式ブレーンバスターに人でなしドライバーといった許容量を超える大技を放つことで追い込みにかかりますが、それでもねちっこくすり抜けてペースを握らせない成田。さらにダメ押しとばかりにHOTまで乱入してきて竹下を孤立無援の状況へと誘いますが、竹下は孤軍奮闘して椅子攻撃はエルボーごと弾き飛ばす快挙。しかしながら断頭台に地獄の断頭台と二発連続で上書きする成田!いや、これは凄いですね。ここまでしっかり張り合うとは。お見それしました。

成田は顔を覆ったレフェリーの隙をついてのローブローから膝蹴り、ダブルクロスを仕掛けますが、これをド迫力のラストライドで叩きつける竹下。完全に身体ポテンシャル面でゴリ押しにかかる竹下はいいですね。成田は前転飛びつき式の裏膝十字を見せますが、これをギリギリで堪えて立ち上がると、そこからのスタイナーばりの投げっぱなしジャーマン。そして渾身のエルボーで成田を沈黙させてどうにか勝ちをもぎ取りました。普段のレイジングファイヤーではないフィニッシャーだけで追い込まれたのが伝わってきますし、反則連発の荒れ模様の試合をたったこの一発の制裁めいた打撃技でビシッと攻める説得力。このチョイスも見事ですよ。

いやはや……竹下決勝トーナメント進出はホッとしましたが、しかし今までで一番追い込まれましたね。茶番茶番と言われがちなHOTの乱入劇の中で、ひと匙のスパイスのように紛れ込ませたストロングスタイルのリアリティとテクニシャンぶりで説得力を担保してるのが凄すぎますよ。これは確かに成田にしかできません。異なって別の世界線を歩み始めた新日の過去と現在の中で、成田だけが特異点にいるような、そんな気さえしてきます。そしてヒールとはいえ所属選手相手に大・竹下コールを巻き起こしたヒーローぶりと無限のアイディアに規格外の身体能力。やや危ぶまれはしたものの、誰もが納得の決勝トーナメント進出であり、あともう少しだけ竹下を楽しめるのが今はただただ嬉しいですね。

◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
辻 陽太 vs ジェフ・コブ

今大会のメインであり、また辻にとっては絶対に負けられない一戦です。辻も膂力はありつつもやはりコブのパワーは脅威であり、そこにベテランらしいどっしりとした土台のある攻めをやってくるわけで、勝ったことはあるとはいえ、これはかなりの強敵ですね。この辻vsコブは昔の三銃士vsノートンのような空気感があって僕は好きです。

コブのパワーを真正面から受けつつも、ルチャ殺法で撹乱しつつ隙間を通すように持ち前の膂力を刺しにいく辻。ジーンブラスターを後転して威力を殺したコブのアイディアもさることながら、無理やりに零距離ジーンブラスターを仕掛けた辻も面白いですね。

しかしながらマーロウクラッシュはラリアットで迎撃され、F5000で宙を舞う辻。振りかぶってのヘッドバットとバイシクルニーで攻めるも、ジーンブラスターはラリアットで迎撃。得意とする技が真正面から弾き返される脅威。それでもロープワークからのジーンブラスターで薙ぎ倒すと、たっぷり助走距離をとってのジーンブラスターでコブをフッ飛ばしてからくも勝利。まさに執念の一本槍かつ、無理やりコジ開けにいくだけの絶対的フィニッシャーの信頼もある。新日にしては珍しくフィニッシャー連発でしたが、今回はどれもパターンと仕掛け方が違いますし、これが逆にカタルシスを生んだ気がしますね。

試合後のマイクで志半ばで欠場した上村の思いを背負う宣言。そしてトーナメントの最初の試合は敗北を喫した竹下幸之介相手。シチュエーションは完全に整っていますね。新世代の筆頭株かつ、新日を背負うものとして外敵に二度の敗北は許されません。辻にとっては正念場かつ、春夏連覇がかかってるこのG1。どうなるか見ものです。

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