2022.11.5 新日本プロレス バトル・オータム '22 試合雑感

◼️ 第1試合 60分1本勝負 
IWGPジュニアタッグ選手権試合
BUSHI&ティタン vs  TJP&フランシスコ・アキラ

 TJPの試合を見るたびに TJP素晴らしいbotになってしまうんですよ(笑)いや本当にレベルが違うというかモノが違うというか、単純な技術面だけ言うなら、今のJr.だと一番は間違いなくTJPだと思います。

 TJPの動きは洗練されていながら一切の無駄がなく、その視野の広さもさることながら、局面局面においての動きに違和がまるでないんですよね。最初から答えを知っているかのような感じというか……毎回惚れ惚れしてしまいます。
 
TJPのことばかりになるので他のことも書きますが、BUSHI&ティタンのタッグはかなりいいですね。マスクマンコンビというビジュアルのインパクトもいいですし、KUSHIDA離脱以降は未亡人のようになってたBUSHIが、いきなり新パートナーを連れたというのも面白いです(笑)BUSHIは他者(特にヒロム)あたりと組むと否応なしにサポートに回ってしまい、ややバランスが悪くなってたわけなのですが、同じマスクマンであるティタンと組むことで自身も能動的に試合を動かせて注目を集めることができるようになったのが大きいんですよ。今回は王者チームが盤石すぎて惜しくも戴冠とはなりませんでしたが、Jr.のタッグ戦線に駒が増えたのは本当にデカいことだと思います。

◼️ 第3試合 20分1本勝負 
スペシャルシングルマッチ
ヒクレオ vs 高橋裕二郎

絵に描いたようなスカッシュマッチでしたね。アンダーソンのWWEとの契約は色々叩かれはしましたが、どうにも新日の転がし方が悪いというか……。普通に表面上だけ見れば契約問題で迂闊だったのは新日ですし、その責をアンダーソンが負うというのは理不尽です。そしてそれを面白く転がせないやっつけ仕事のようなストーリーの脆弱性というのも厳しく、何よりアンダーソンの帰還ってかなりのビッグサプライズなのに、その格も扱いもアンダーソンが新日にいたころと変わりないNo.2ポジというのはどうなんですかね?自分がアンダーソンでも他所にいくと思います。まあそれはともかく、それらも込みで単純にストーリーをもっと面白くしてくれ!と叫んでしまいましたね。

そうした混乱ぶりから、その帰結点として何かしらのサプライズを期待された試合ではありましたが、蓋を開けて見ればヒクレオのモンスターぶりのプロモーションという形で終わってしまいました。一試合丸々ヒクレオに使った振り切りぶりはヤケクソ感はありつつもその勇気は買いますし、巨漢レスラーの怪物性を如何なく発揮しつつ、それでいてベビー的な振る舞いを同居させるということを成し遂げたのでヒクレオは中々のものだと思いますよ。惜しむらくはそれを後押しするストーリー面の弱さ。これをどうにかして欲しいですね。

◼️第4試合 15分1本勝負 
『NJPW WORLD認定TV王座決定トーナメント』準決勝
成田蓮 vs SANADA

SANADA、意外としっかり先輩やってるな……というのがこの試合を通して見て最初に浮かんだ感想でした。世代闘争を掲げた成田に対して「じゃあ俺は何世代だ?」という返しは見事であり、聞きようによっては○○世代として一つの時代を未だ作れていない一種の自虐のようにも聞こえるわけで、焦燥や嫉妬、個人でなく世代として括られたことによゆ苛立ちなど、この言葉には様々な感情が込められていたと思います。TV王座特有の短いアピールながら、因縁のない二人にわかりやすい買い言葉で対立軸を作ったSANADAはもう少し評価されてもいいですし、こうした感情の発露への期待は常に大きく、もっとこういう面を見せてくれたらなと思いましたね。

「打撃」と「痛み」という単純かつ伝わりやすい好勝負となった石井戦と比較すると、成田の対SANADA戦はどちらかといえば凡戦寄りのそこそこの試合という感じで、胸を借りた文脈のほうが強く、試合全体を通してSANADAに呑まれてしまった印象があります。個人的にはいまいち煮え切らず、G-1のリーグ戦もムラっけが強かったSANADAこそ成田に期待が集まるこの現状に本来はもっと焦って然るべきなのですが、こうした試合でもソツなくこなせて圧倒してしまう所が、かえってSANADAの瑕疵を目立たせなくしてしまっているような気もします。

それを感じた一番のポイントはやはりパラダイスロックであり、この技を選ぶ嗅覚は流石のものなのですよ「魅せ技」の印象の強いこの技を二度も仕掛けたメッセージ性は大きく、柴田の系譜かつ軽薄な脚色を嫌いそうな成田に一番刺さる技を選んだセンスがいいですよね。ある意味真っ向勝負で潰しにきた石井よりもえげつないというか、サナやん、意外とドSですだなと思いました(笑)ただ、このシーンを見てもわかるとおり、SANADAって嫌味がないんですよ。普通はもう少し煽ってもいいわけですが、そうした下品さのないお坊ちゃんなのが彼の魅力かつ長所であると同時に、そうした振る舞いができない振り切れなさが煮え切らなさに繋がってる気もして、ここはとにかく複雑なシーンでした。SANADAは上手く、器用で、普通ならとっくにIWGPを巻いててもおかしくない逸材であるだけに、どんな試合パターンでも相手でも合わせられる器用さが仇となっているんですよね。SANADAの悩みはできる人間特有のモノというか、俊才であるが故に生じる類の悩みであり、これは本当に難しいですね。

こんな感じで狭義のレスリングというより「広義」のレスリングに成田は翻弄されていましたし、こうした辺りはまだ若さを感じますね。SANADAという一連の清流に流されつつ、時折顔を出して息継ぎしている印象が強く、人によっては石井戦で得た貯金が切れてしまったかもしれません。ただ、残り時間1分で出したブリザードホールドは素晴らしかったですし、単発ではありましたが隙を逃さず喰らいつくようなスリーパーも良かったです。

最後はカウンターのローリングエルボーを差しての一発逆転の成田スペシャル4号。相変わらずブリッジが素晴らしいです。欲を言えばこれはワトのジャーマンとかもそうなのですが、スープレックスのときはカメラを変にズームしたり切り替えたりせずに、足先も収まる形でしっかり映して欲しいですね。ベタ足なのか爪先立ちなのか。途中で爪先を伸ばすのかブリッジで固めたあとに伸ばすのか。スープレックスの使い手による細かい違いはこういう足先にもありますので、ここを見たいんですよね。現地で見ろって言われたら返す言葉もないですが、毎回綺麗なスープレックスを見るたびにここをチェックしてしまいます。

成田蓮、最後の大番狂わせによる歓声が一応の評価を物語っているでしょう。師匠が柴田ですし、ストロングスタイルを継いでいる以上仕方ないかもしれませんが、柴田を評価軸として比較しすぎるのもどうかとは思っていて、はっきり言うなら成田は柴田ではありません。

レスラーのタイプも現時点ではかなり異なっており、成田はキレがあって高角度かつ、しなやかなテクニシャンタイプのスープレックスの使い手なんですよね。パワーではなくテクニカル寄りのスープレックス主体のレスラーというのは今までいそうでいなかったタイプであり、確かに今の新日ではほとんどいませんし空き家であります。こうした七色のスープレックスに加えて、断頭台やコブラツイストなど、オールドファッションなプロレス技がいいアクセントになっていて、こうした特異性を楽しみに成田を見守っていきたいですね。ある意味既存の新日スタイルを変革しようとしているわけで、現時点での判断はまだ時期尚早ですよ。

◼️ 第5試合 15分1本勝負 
『NJPW WORLD認定TV王座決定トーナメント』準決勝
ザック・セイバーJr. vs EVIL

徹頭徹尾「NJPW」な試合でしたね。事前の煽りからオチに至るまでの動線が完璧かつ一貫しており、文脈に齟齬が一切ないです。箸休めではありつつも出された素材は最高級であり、こういう試合をサラッと挟めるのは本当に凄いですよ。

TV王座恒例の自己アピールでまず仕掛けたのはザック。当人は登場せず代役を立てての挑発です。ささやき女将を思い出してめちゃくちゃ笑いました(笑)そこからキャップを目深に被っての代役入場(笑)試合前のPVから画面を飛び出してシームレスに現場へと繋がるのが本当に素晴らしい!余談ですが、このキャップ姿はレッスルマニア25のシナを思い出してしまいました。

試合は15分ワンマッチらしい高速の切り返し合戦で、セコンドの偽ザック含めての狂乱ぶりが最高でしたね。EVILの愛すべきチープさってこうしたコミカル寄りの場面でこそ輝くわけで、これは以前も書きましたが2020年に頭角を表したときは、仕方ないとはいえ緩急の「緩」が足りず、またベビーフェイスの逆襲のカタルシスが絶対的に足りてなかったことが、この試合を見ればよく分かります。別にコミカルに堕とせばいいというわけではなく、大事なのは善と悪のバランスなのですよ。スターウォーズのフォースと同じです(笑)

一見するとやや過剰なまでにザックが振り回しており完全に先手を取り続けていたわけなのですが、互いの剛と柔。ザックとEVILの体格差と、EVIL側の反則・介入による一撃KOがある文脈上、ザックが動けば動くほど「捕まったら終わり」という緊張感が高まるわけです。それをコミカルなベビーとしてこなしつつサブミッションと押さえ込みという自身のスタイルと掛け合わせて、EVILに呼応する形でザック側も一撃必殺を狙っていったのは素晴らしいですね。EVILの受けっぷりも光りましたが、ザック側のベビー適性の意外な高さももっと注目されて然るべきだなと思いました。最後はEVILに合わせてのグラウンドコブラで快勝。ザックvs成田は一転してシリアスな雰囲気になりそうで、そういう意味でも差別化できた試合となっててよかったように思います。

◼️ 第6試合 30分1本勝負 インクレディブルタッグマッチ
マスター・ワト&エル・デスペラード vs 高橋ヒロム&石森太二

これもまたNJPW「らしい」試合展開となりました。ユニットの枠を越えての越境タッグ。デスペが喝破した通り、メキシコのテクニコとルードの混合であるレレーボス・インクレイーブレスが元になっているのですが、青春狂想曲とでも言うべき今の新日Jr.の世界観があるからこその試合形式だと思います。

実のところ自分は最初のほうはあまりノレておらず、その理由としては目的が一致していなかったように感じたからなんですよね。たとえば打倒・石森を目指して仲の悪い二人が互いを出し抜きつつ組むとかなら、方向性が明確なので乗り安いのですが、こうも人間関係の「矢印」がぐるりと円を描いてるとややとっ散らかるというか……皆の矢印の先に石森がいるのは明白ではあるのですが、それよりもパートナーへの憎悪が勝るというのは勝負論を度外視していて試合の「ハリ」がなくなってしまうように感じます。良くも悪くも新日Jr.の濃密な関係性とそれによるワンパッケージの世界観。それを見せるのに特化していた試合形式と言えるでしょう。

険悪vs無関心といった感じの試合運びではあったのですが、デスペとワトの内輪揉めがヒリついていましたね。ヒロムやデスペの後輩に対する檄って、彼ら視点で見ると拙いながらも今が二人の時代のトップランナーであることの「自覚」と「先輩」としての振る舞いが微笑ましく映るわけですが、逆にワト視点で見るとかなりうざったいというか、どれだけ檄を飛ばしていても、その行為の裏に相手の感情を引き出してやろうという「親心」を感じちゃうんですよね。目線が対等ではなく、それこそ「先輩面してんじゃねえ」というか。そういう意味では一応ここに4強として並んだのはワトではあるのですが、ヒロムやデスペが大事にする価値観を率先してブッ壊そうとしたSHOのほうが対立概念をちゃんと構築できているなと思います。

しかしながらそうしたモヤモヤが単なる杞憂に終わったのは中盤から後半にかけてで、特にクライマックスのアイディアの詰め込みぶりは素晴らしかったですね。まるで小学生同士がやってる同士討ちありのプロレスゲームを見ているかのような、今にも破綻しそうな危ういバランスが試合時間の経過に従って極まっていったわけですよ。

最初の小競り合いが嘘のように苛立ちが憎悪へと変わり、感情がどんどんヒートしていく。この辺りでようやく前述の感想を改めましたね。再三書きますが、これは今の新日Jr.だからこそです。ギスギス感MAXのデスペ&ワトと比較してヒロムサイドのはしゃぎぶりが目立ちましたが、それを嘲笑う形で石森の「意図的な誤爆」から、ワトが押さえ込む形でヒロムに勝利。破綻しそうなタッグだからこそ反則によるノーコンテストや全員リングアウトの結末こそチラついたわけですが、そのさらに一歩先を行く裏切りでありながら妥当な結末です。本来シングル勝利したワトにこそ権利があるわけで、あらためて王者権限でそれを明確化したとも言えますし、単にヒロムに勝たせたくなかったという意地悪さとも見えますし、解釈が幅広いのがいいですね。終わってみれば人間関係さえ周知されていれば面白い試合形式で、Jr.だけでなくヘビーでも見てみたいと思いました。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 スペシャルタッグマッチ
オカダ・カズチカ&タマ・トンガ vs KENTA&ジェイ・ホワイト

試合自体は普通に良試合の前哨戦といった感じであまり語ることはないのですが、オカダvsジェイには色々と思う所があります。カードのバリューとしては試合のクオリティも両者のストーリー性もオカダvsオスプレイのほうが一枚上であり、オカダのライバルとして考えるとその扱いの良さに反してやや後塵を拝している印象があります。オカダvsオスプと比較してオカダvsジェイのブランドをどう高めていくか?というのが個人的な注目ポイントですかね。両者のスタイルが全然違うので単純比較するわけにはいかず、さらに言うなら僕自身はジェイのスタイルのほうが好きなのでアレなのですが、それを差し引いても下馬評の悪さを一気に覆した今年のG-1決勝戦のオカダvsオスプレイを超えられるか否か?というのは一つのターニングポイントになるでしょう。

ただ、オカダvsジェイの恐るべきところって、新日の歴史の節目節目で何度か肌を合わせているわりには、評価の基準点となる試合がいまだに存在しないことで、そこがクオリティを上書きし続けてきたオカダvsオスプレイとの差異でもあります。ストーリーが違うので当然ではあるのですが、二人の試合って未だに両者ともに完全にポテンシャルを引き出したとは言い難いんですよね。現在進行形の名勝負とでもいうべき奇妙さというか、語り継がれることを前提にした名勝負数え歌ではないんですよね。常に「今」しかない面白さと期待感。オカダvsジェイの節目による戦いという丁寧なセッティングと、ジェイの世界戦略に向けた地道な下積みのようなブランディングに相反して、この奇妙さは癖になります。オカダvsジェイは段階的なエスカレーションを踏むことで進化していく。そんなカードだと思います。それをリアルタイムで追える幸運をもっと噛み締めたいですね。

◼️第8試合 60分1本勝負 
IWGPタッグ選手権試合
キャッシュ・ウィーラー&ダックス・ハーウッド vs グレート-O-カーン&ジェフ・コブ

これが噂のFTR……!とでも言うべき盤石の試合運びでした。ニューカマーが現れたとき、特異な技や変わったムーブが期待されがちで、ひょっとするとFTRが刺さらなかった人もいるかもしれませんが、そういう感覚とは少しだけ異なり、真骨頂は久しぶりのタッグチームらしいタッグチームなんですよね。何よりタッグとしての完成度が頭抜けたチームが来たなと思ってしまいましたよ。強すぎます。

最初の軽い衝突から、少しだけギアを上げたのが素人目にも伝わってきて、FTRはテンポがとにかく良かったです。それでいながら常に二人をまとめて相手にしているような感覚で、忘れかけていた「強い」タッグチームというものを思い出させてくれました。これでいて実力はまだ「お披露目」レベルというのが恐ろしく、まだまだその真価は完全に明らかになってはいないんですよ。ありえないですね。

オーカーンはタフに耐えつつ、対抗戦の意識バリバリでしきりにテンポの「崩し」を狙って分断を図っていましたし、コブはコブで持ち前のパワーで突破を図りましたが、上手く封殺されてしまいました。二人のタッグの完成度も高いのですが、ことチームワークにおいてはまだ上には上がいるという印象で、良タッグチームは多くとも、これに勝つには名タッグを出すしかなく、そうなると現新日で勝てるチームを出すほうが困難に感じてしまいます。タッグ戦線の強化は以前からずっと言い続けていたのでふが、ここにきて一気にレベルを上げてきましたね。文字通りの世界最強のタッグチーム。誰が倒すか見ものであります。

◼️第9試合 60分1本勝負 
IWGP USヘビー級選手権試合
内藤哲也 vs ウィル・オスプレイ 


内藤のドームメインは最初からわりと絶望的に見ていたというか、言葉こそ悪いですがあまり期待はしていなかったんですよね。中邑はNOAHに奪われましたが、もし今回戴冠したとして、相手に中邑が来てもケニーが来てもIWGP世界ヘビーを押しのけてのメイン簒奪は難しかったと思います。USヘビーの格と内藤の格。その二つを合わせてたとしてもせいぜいダブルメイン扱いのセミが落とし所としては無難であり、ややメタな話になりますが、そこに内藤が文句を言う「余地」を残しておくのかなと。仮にファン投票を持ち出して無理やりメインを強奪したとしたら、ファンが決めたこととは言えロスインゴファン以外からは反感を買うでしょうし、内藤でも批判は免れなかったと思います。そんなファンを分断するようなことを新日がするわけはなく、また内藤にそんな危うい橋は渡らせないだろうなと思っていたため、今回は静観していました。

ただそれは裏を返せば、ほぼ実現可能性のない夢と厳しい現実に対し「逆転の内藤哲也」というストーリーを打ち出してまで現実化しようとした「足掻き」であり、これはたまらなく切実で、そして何より「リアル」でしたね。そうした個人の物語を切り売りしてまでこの試合に賭けた思いは大きく、オカダとの2連戦を含めての新日への貢献ぶりには頭が下がる思いです。夢を見続けることで生きている男が、今回は自ら夢を売ったわけですから。これは結構重い試合なんですよ。

内藤vsオスプレイは年単位で寝かせてきた夢のカードの一つであり、G-1ではオスプレイが空中技を温存したままで完敗を喫したわけで、内藤からすると久しぶりの「格上」との戦いになります。過去の実績ではG-1の二度の優勝に二冠王と内藤が上回ってはいるのですが、直近で頂点であるIWGP世界ヘビーを巻いたことがあるのはオスプレイなわけであり、そうした意味では追いかける内藤の試合は近年だとわりとレアな印象すらあります。

試合自体はハードの一語に尽き、クオリティもG-1より高かったです。オスプレイのポテンシャルの高さは怪物級で、はっきり言えば内藤より上であり、体幹の強さで内藤を封じていましたね。それと比較すると内藤のコンディションはお世辞にもいいとは言えなかったのですが、それが逆に良かったというか、動きやポテンシャルでは勝てないからこそ、徹底したねちっこい首攻めやロスインゴ初期のような荒々しさを見せたのはなりふり構わない感じが出ていて非常に良かったです。今現在持っている手札での最高のプレイでしたし、晩年が近づきつつある悲哀と哀愁。それが当人の持つ刹那性とシンクロして今年の内藤の試合の中ではトップクラスにエモーショナルでした。

白眉なのは内藤お得意の腕を掴んでのバックエルボーで、正直に白状すると試合の流れが止まるような感じで個人的にはあまり好きな技ではなかったのですが、今回は全然受ける印象が違いました。いつもより乱打数と回転数が多く、ハードでありつつも文脈がまるで違うというか……。いつにも増して必死に喰らい付いてる感じがあって「情感」がありましたね。立体的な首への畳み掛けと激しいバックエルボーの乱打。体格差で圧倒しつつ、華麗さを忘れないオスプレイに対して、意地を感じる内藤の切り返しの妙。残った技はシンプルかつ内藤の原点のようなものばかりで、最後に残ったものこそが本質だとはよく言ったものです。

最後は正面と背後のサンドイッチ式のヒドゥンブレードから、一度は切り返したものの再びのストームブレイカーでピンフォール負け。文句なく名勝負でありながら、オスプレイ相手の2連敗。昨年から数えるとシングルタイトルでは5連敗で、明けない夜に突き落とされた感じがあります。ただ、ファンの人には申し訳ないのですが、変な話ホッとしたのも事実で、今の内藤にとって「まだ目指せるものがある」のは一つの救いなんですよね。レスラーとしての最高潮は間違いなくドームメインでのオカダ戦勝利のあの瞬間であり、あれを今後超えることができるのか……KENTAが乱入したことで、エンドマークがつかずに続いてしまった夢はどこに向かうのか。個人的に内藤哲也は「終わらない少年漫画」だと思います。それに思うところがありつつも「続いて良かった」と言える日が来るかどうかの不安もある……。ただ間違いなく言えるのは、この日、この試合の内藤哲也は、今年見た中で僕は間違いなくベストでした。負けこそしましたが、感動しましたよ。今回またしてもエンドマークがつかなかったからこそ、来年こそは逆転の年となる。気が早いかもですが、内藤哲也の三度目のG-1優勝。期待しちゃいますよ。

そして試合後の注目といえばオスプレイの次期挑戦者でしょう。海野翔太は予想外で、僕はケニー•.オメガを期待していたんですよね。ムタvs中邑のメガカードに対抗するドリームマッチがあるならば、それはオスプレイvsケニーぐらいだろうと。いやいや、まだ1.4はわからないんですけどね。

それはそれとして、海野翔太、かなり垢抜けて帰ってきましたね。モクスリー由来のジャケットと技。そして退場シーンは最高で、久しぶりに本格的に世代交代の予感を覚えたというか、時代の変わり目を見た気もします。風貌からして棚橋の後継エース候補であることは疑いの余地はなく、それでいて師匠がジョン・モクスリーってワクワク感がハンパないですね。まるで孫悟飯のような感じというか、いつもそうなのですが、僕は定番の主人公が大好きです。一足先に帰国した成田とのライバルストーリーも気になりますし、オスプレイvs海野は期待できますね。内藤を二度に渡って退けたオスプレイに勝てるとは思えませんが、それでも期待しちゃうのが人の性。ここで効いてくるのはG-1でのデビッド・フィンレーがオスプレイに勝ったという事実であり、それを考えると海野にもチャンスはありますよ!世代交代はとっくに始まってんだよ!







今回の新日の興行、神興行でしたね。ドームに向けてのサプライズや大物ゲスト参戦が期待される中、新世代とその未来にBETした新日は軸がブレてなくて好感が持てます。どちらがいい、どちらが悪いという話でなく、実際に興行を見れば満足感は高く、そしてあくまで新日は未来に賭け続ける。それでいいと僕は思います。ではでは。いつもより長くなりましたが今日はここまで。年内に書くかどうかはわかりませんが、1.4は確実に書きますし、またそのときにお会いしましょう。ありがとうございました。

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