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2022.8.10 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY15 試合雑感

◼️ 第5試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Dブロック公式戦
デビッド・フィンレー vs エル・ファンタズモ

ロープをすり抜けて腕を極めるフィンレーでまず「おおっ」となりました。こうした小技は本当に上手いですね。しかしながら局所での攻防は張り合えても、ファンタズモは試合の大枠でのデザインセンスが圧倒的に優れており、手拍子含めて何度か仕切り直すことでわかりやすい形でコントロールしていましたね。フィンレーの集中力とここ一番の切り返しのセンスは素晴らしい反面、短期集中型で視野狭窄になりがちな部分もあり、まだ俯瞰視点だとファンタズモに一日の長があるという感じでしょうか。

最後は切り返し合戦から十字架固めでファンタズモの勝利。蓋を開けてみればフィンレーのセンスは光ったもののファンタズモの横綱相撲といった塩梅で、かつフィンレーは得意分野で負けたわけなので普通に完敗といった感じですかね。波に乗ったフィンレーが曲者の壁にブチ当たるというのも、成長物語としては実に王道的で面白いなと思いました。

◼️ 第6試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Bブロック公式戦
タマ・トンガ vs グレート-O-カーン

オーカーンの小技&パワーとタマの躍動感のある動きが噛み合った良試合でしたね。オーカーンのアイアンクローの使い方がオタクっぽい細やかさがあるというか、動きを止めたり逆手で掴んだり、スリーパーやアルゼンチンバックブリーカーと組み合わせたりと、中々に面白かったです。ガンスタンを一本背負いで返したのもよかったですね。

対するタマはオーカーンの挑発含めての激昂がスーパーサイヤ人みたいで、これはやはりベビーターンしてからのタマの一番の魅力でしょう。これは選手じゃなくカメラワークに関してなのですが、串刺しのボディアタックは変に寄せずに、タマの飛距離をピックアップする意味でも引きで撮って欲しいなと思いましたね。大空スバル式羊殺しからのエリミネーターは今のオーカーンの出せる最上級のコンボではありますが、それをドンピシャのタイミングでガンスタンで切って捨ててタマの勝利。このまま対ジェイ戦はの気運を高めることとなりました。オーカーンはこれで脱落なのが驚きというか、意外と勝ち切れなかったですね。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Cブロック公式戦
ザック・セイバーJr. vs "キング・オブ・ダークネス"EVIL

替え玉からの秒殺!EVILファンにとっては残念ではありますが、こうした一瞬の秒殺劇を楽しめるのはこの二人ならではですよ。それにしてもこうした試合のときのザックの笑顔は悪ガキっぽさがあって最高です。

◼️ 第8試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Aブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs トム・ローラー

対オカダ相手だとトム・ローラーの異質さがより際立ちますね。トム・ローラーの真価がわからない人も多そうですが、やはりより謎は深まった気もします(笑)リアルガチの強さである総合格闘技のバックボーンと、それに混じるアメプロ的なエンタメ性が恐らく戸惑う一番の要因というか、それの極北がクラッチを切るのに合わせての手拍子だと思います。

この試合はオモプラッタによるコントロールや関節技も存分に解禁しつつ、オカダの腕を一旦集中で攻撃するというオーソドックスさも見せましたね。左腕をきっちり攻めるのは教科書通りでありつつ、レインメーカー 封じならセオリーは崩れるけれど右腕では?と思っていたら、腕攻めで引き手が使えないという場面が生まれて、これには膝を打ちましたね。

レインメーカーが封じられ、マネークリップは総合格闘技経験者相手に出すにはまだ心許なく、オカダの攻め手はないかと思いきや、最後に火を吹いたのは押さえ込み式のエビ固め。その前のオカダにしては珍しい押さえ込み連発もそうですが、対総合格闘技相手への解答としてはこれ以上ないプロレスの技であり、納得感はありつつも、レインメーカーもマネクリもダメとしたらまあこれしかないよなという模範解答のような気もあって、当初期待されていたような二人の激突による特別感は少し薄まってしまった気もします。オカダが綺麗すぎるだけに、かえってトム・ローラーの方向性が自由奔放すぎたというか、ある意味今の新日だとちょっと珍しいタイプの試合だったなと思いました。

◼️ 第9試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Cブロック公式戦
棚橋弘至 vs 後藤洋央紀

棚橋にとっての後藤戦の特別性は語ると長くなりますが、2007年の伝説の試合から15年も経つとそれはもう懐メロに等しく、今となってはメモリアルですね。とはいえやはり当時を知るファンからするとブランドとなった試合であり、現役最前線にいる二人からしてもリバイバルではなく試合内容そのものを更新しようという気概を感じます。

かつては血気盛んな大技ラッシュによる畳み掛けの後藤とそれを全て受け止める頑強な棚橋という構図であったのですが、今回は棚橋が攻めるパターンという変調で、それを耐える後藤となりましたね。久しぶりの雪崩式回天を狙った後藤を、これまた棚橋にしては珍しい雪崩式ブレーンバスターで返すなど、かつての試合を知っていればこそのアレンジが随所に見られたのが面白かったです。対する後藤もテキサスを切り返してのゆりかもめ式の昇竜結界での揺さぶりは見事で、こうした小技の進化があることで切り返しに幅が生まれていますよね。

エルボーラリーから棚橋を一撃で昏倒させたことのある頭突きと、後藤の顎を砕いたことのある棚橋の張り手の交錯。棚橋ダウンから不意の急所へのヘッドバッド。これは実にダーティーで、若さだけではない老獪さがあっていいですね。棚橋はゴリゴリのベビーでありますが、こうしたヒールっぽい技は本当に似合うんですよ。

後藤が張り手で流血し口の中を切ったことで、前述の急所攻撃のえげつなさも相まって、どこか郷愁を感じる戦いが一転して死闘の雰囲気を帯びてきました。ここで一気に棚橋がハイフライアタックからハイフライフローと攻めますが、これはすんでの所で後藤が回避し、この土壇場で後藤参式で揺さぶりをかけます。そこからの一人消灯は以前はなかった技のオンパレードであり、このリズムの急激な変化はまさに現代アレンジの懐メロですよ。

そして念ミドルからGTWは棚橋が起死回生の首固めへ。これも対後藤では因縁の技で、2007年は最初の王座戦では、下馬評ではどうせこれで決まるんだろ……と揶揄されていた技であり、それだけに後藤相手の押さえ込みは他とは違う意味の重さがあるのです。それを何とか返すものの、絡み合ったままツイスト&シャウトを被弾。これも晩年の棚橋の技ですね。しかしそれをここ大一番で繰り出す昇天・改で叩きつけると、そのままGTRで首を粉砕し、後藤が血染めの勝利。

太陽が棚橋なら後藤は雨と実況で言われていましたが、個人的に後藤は肥沃の大地であり、陽の光も雨も受け止め、作物を育ててきた印象があります。ブレイクしそうでしきれないまま時間こそ経ちましたが、それでも大地という土台でいたからこそ新日が発展してきたわけで、後藤がいなかった場合のIFを想像することができません。

試合後のマイクで後藤が息子に一言「お父さんは本当は強いんだ」これは泣かせます。ファンのために頑張るのは基本かつ当たり前で、そう語るレスラーは多いのですが、そうした中でこうしたドメスティックな方向性はかなり新鮮味がありますし、何よりそうした家族愛を出すことに後藤は全く違和感がないんですよ。なんだかんだで家族愛って今のご時世ではトレンドであり、それこそ鬼滅にしろスパイファミリーにしろ、結局のところ家族の物語だからこそあれだけヒットしたように思うのです。こうした要素を出せるのは後藤だけであり、また家族を守るのは成熟した大人にしかできません。変わらないことを尊ばれ、いつまでも子供でいることが半ば許された時代なだけに、こうした最小のコミュニティを守る責任感を堂々と打ち出せるのは他の何よりもカッコいいのですよ。

僕は後藤優勝を信じています。







シメはやはり後藤で一安心しましたが、棚橋と後藤の敗北が逆転の内藤哲也に近づくのもあって、まだまだ読めないですよね。G-1、ここからは本当に悲喜こもごもの死闘になりますよ。今日はここまで。

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