2024.6.9 新日本プロレス レック Presents DOMINION 6.9 in OSAKA-JO HALL ~BEST OF THE SUPER Jr.31 決勝戦~ 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。私事で忙しく、仕事中の負傷もあってなかなか更新できなくてすみません。その休みを上手く利用して更新に繋げられたので悪いことばかりではないのですが、怪我には気をつけていきたいものですね。前置きもこのぐらいにして、さっそくやっていきましょう。


◼️第3試合 15分1本勝負
『KOPW 2024』争奪戦 ストームキャッチルール
上村 優也 vs グレート-O-カーン

結論から言うと当初イメージした試合とはかなり異なる試合になったというか、一言で言うなら「軽薄」でしたね。個人的には道場スパーのようなカタい試合が観れると思っただけにこの落胆は大きく、蓋を開けてみれば良くも悪くもKOPWらしい特殊ルールの試合に過ぎなかったというか……。そのルールを提示することには明確な意味があり、その名前を出したからにはもっとガチガチにやると思っていただけに、肩透かしな印象があったというのが正直なところです。同様な思いを抱いた人は僕以外にもいるでしょうが、KOPWの試合としてそれなりに盛り上がったのであればアリなのかな、と悶々としている感じですかね。

上村の提唱したキャッチルールによる対戦。以前の試合でも上村はキャッチルール61分3本勝負というかなりクラシカルなアイディアを提案しており、どうしてもオーカーンとその手の試合がやりたいという執念を感じました。それを踏まえると前回の返礼もあって今回はそれに合わせる形でオーカーンが折れた格好となり、それだけにかなり期待していたわけです。前回は「これ、メッセージだから」と意味深な言葉も残していましたものね。

試合開始早々、上村が飛びついてのアームロックから腕ひしぎでエスケープポイントを奪うと、オーカーンも肩固めで奪い返す流れに。極まるか極まらないかのヒリついた攻防、というよりはルール内にあった「それ以外は通常のプロレスルール」という一文の影響力の強さを思い知りましたね。鍔迫り合いではなくキャッチボール。両者の間合いも、テンポも、打撃禁止になったプロレスでしかないという印象で、本来打撃にいく局面でいけないというのは両者ともかなりやりにくそうに感じましたね。良く言えばやっていいことダメなこと、その中間のグレーゾーンをちゃんと試合の中で示したと言えますし、悪く言えば下手に制限を付けたおかげで通常ルールのプロレス以上に散漫になってしまったとも思えます。ルール明示のためにはそれによる動きの制約も可視化してマット上に折り込まなければいけないというのは理解できる反面、些か視聴者に優しすぎる気もするのですよ。もっと尖っても良かったように思います。

個人的には途中にあった噛みつきが受け入れ難いというか、打撃禁止という厳格に守るルールがある一方で、本来反則である噛みつきは5カウント以内ならOKというのはグレーゾーンとはいえ微妙に感じましたね。それならレフェリーの目を盗んで見えないように打撃をやればいい話で、根底に揺蕩うはずのリアリティはあれで完全に薄れてしまったように思います。

最後は両手で頭部をクラッチしての変形エリミネーターでオーカーンの勝利。成田のダブルクロスの逆バージョンというか、ネックハンギングボムならぬクローハンギングボムという感じですね。エリミネーター、リストクラッチ版があるだけでなくこうした方向にも進化するというのはちょっと目を引くポイントでした。あとは裏肩固めで本田多聞を思い出したぐらいでしたかね。

キャッチルールと銘打ちながらも、それは名目に過ぎず、単なる特殊ルールとして捉えるなら"それなり"に盛り上がった試合であるとも思います。これなら通常ルールのほうが試合クオリティはもっと上になったでしょうし、普通の試合のほうがこの二人の試合は面白かったでしょう。胃腸炎の影響があるとはいえ、格闘十冠のオーカーンがあまり奮わなかったというのは隠し持った刃の手入れを疑いますし、あれだけルールに固執した上村がそのルールに徹底して準じなかったというのも印象はあまり良くなく、結論としてはKOPWらしい"ハネ"はなく、両者ともに恩恵は薄かったように思います。同じKOPWという領域内で比較しても、オーカーンvs矢野のアマレスマッチほどにはガチ感がなかったのが個人的にはかなりのマイナスポイントでしたね。オーカーンは以前の鷹木との異種格闘技戦の出来の悪さもそうなのですが、コミカル方面は十分でも素養を活かしたシリアス方面の試合はかなりムラがあって、vs矢野戦やvsザック戦は抜群に良かったものの、それと同じぐらいダメな試合もあるのが悩ましいところです。変にプロレスに落とし込もうとしてかえって軽薄になるパターンが多いんですね。両方できるが故の苦労というか、この辺のセンスが今後問われてくるとは思います。

上村のKOPW、短命政権に終わってしまいましたね。方向性が明確になった海野、辻、成田に比べて苦労が目立つというか、ポテンシャルは随一ですしファイトスタイルもきっちり定まっているだけに、今の迷走ぶりがもどかしいですね。やりたいことは十分に分かるのに、思想も含めてそれを明確に打ち出せていない。打ち出す機会をモノにできていない。結局何がやりたいのかチグハグなんですよね。令和闘魂三銃士と比較してG1未経験というのは思った以上に尾を引いているのかもしれません。機会と経験。欲しいのはその二つです。上村は硬派にいきましょう。それが現時点での僕の願いです。



◼️第4試合 60分1本勝負 NEVER無差別級6人タッグ選手権試合
ボルチン・オレッグ&矢野通&棚橋弘至 vs BUSHI&高橋ヒロム&辻陽太


ボルチンの躍動ぶりが素晴らしいですね。未完の怪物というポジションもすっかり定着しましたが、かなりじっくり基礎から固めている印象があります。やはりパワーは凄まじいものがありますね。

試合内容としては棚橋ー辻ーボルチンで一つのラインが構築されているのが素晴らしく、怪物・辻と向こうを張ることでボルチンの怪物性を際立たせつつ、レジェンド棚橋を喰おうと辻が気炎を吐く。この流れが最後まできっちり繋がっていたのが面白いです。最後はハイフライ自爆の隙をついて一瞬のジーンブラスターで棚橋から辻がピンフォール勝ち。減量と足トレの成果なのか棚橋の動きは悪くなく、ジーンブラスターの受けも綺麗でしたね。

そして試合後は棚橋にシングル戦の要求。ベルトの価値を上げると言いつつダイレクトリマッチはどうなんだとマッチメイク権限のない棚橋にチクリと言っていましたが、その裏にはやはり辻の「焦り」を感じてしまうのですよ。

辻は新世代トップの大関ポジションに君臨しつつも、明確に越えるべき壁の不在がフラストレーションになっている気もします。現新日における上の世代の不在はわりと深刻な問題であり、棚橋は社長業との二足の草鞋もあってかIWGP世界ヘビーのトップ戦線からは現状距離がありますし、同ユニットの内藤哲也もベルトに絡み続けているトップではありつつも、現役バリバリというよりはギリギリで戦ってる印象がありコンディション面には不安があります。オカダの抜けた穴は想像以上に大きく、それ以外の新日の顔役である棚橋内藤の二人とも賞味期限が近いんですよね。世代交代を示すには時間が足りないのです。

だとするなら壁になるのは直近の上の世代しかなく、それだと凱旋帰国の相手でシングルで2連敗しているSANADAが適任になりますね。ただ、IWGPは獲っていてもG1は優勝未経験のままなのが引っ掛かるポイントで、あとはEVILもタッグや元同門の因縁もあってストーリーは作りやすいものの、こちらもまたG1優勝未経験という。この両者に時代を移行しつつ、今以上に箔をつけて壁にするしか道はないように思います。それもあって今年のG1はこの二人のどちらかだと思うのですが、理想的なのは辻vsSANADAでSANADAの優勝。翌年に辻優勝でリベンジあたりが収まりがいいですかね。もしくは辻優勝でドームは内藤へのリベンジと世代交代を狙うか。個人的にはザック・セイバーJr.優勝が見たいのですが。

おっと、話が逸れてしまいました。棚橋vs辻の合間にボルチンが割って入り、辻にリベンジの要求をするものの、辻は意に介さず。ボルチンからするとヤングライオンで初戴冠のベルトが自分に関わりのない形で陥落した悔しさがあるので行動がリアルですし、辻はあくまで棚橋戦の片道切符としてしか捉えてないので、ベルトへの愛着も争点にしやすいです。棚橋、辻、ボルチンのどの視点で見ても面白く、試合はあっさりしつつもストーリーは濃厚な試合でした。



◼️第5試合 15分1本勝負
NJPW WORLD認定TV選手権試合
石井智宏 vs ジェフ・コブ

石井のいる場所、実質NEVERとでもいうべき壮絶な試合でありながら、NEVERと違ってTV王座は時間制限があるだけに、よりハードかつ凄まじい削りあいになりましたね。

ほぼ片手で振り回した絶技、F5000に石井のフランケンシュタイナーと互いに惜しみなくフルスロットルで技を繰り出し、突貫スタイルとスープレックススタイルのどちらが先にガス欠になるかの壮絶なチキンレースとなりました。

最後はホイップして抱えてのツアーオブジアイランド。終わった後は両者ともに疲労困憊で崩れ落ちるほどでありながら、この死闘がカジュアルにYouTubeで流される贅沢!ザックと石井という強者をしっかり倒したことで、コブ政権はかなり安定の兆しを見せてきた気がします。TV王座は思った以上に15分の制約がプラスに働いており、この躍動感はこの王座戦ならではですよね。加えて、現状だと王者コブを15分以内に倒さなければならないの、あまりにもハードなミッションですよ。素晴らしい試合でした。

◼️第7試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権試合
鷹木信悟 vs HENARE

先にド迫力の石井戦があったせいか脳がバグりかけましたが、本当のNEVER戦はこちらであり、また先の試合に負けず劣らずの削り合いの死闘になりましたね。

HENAREは伝説化したオスプレイラストマッチの金網戦による頭部裂傷で欠場しており、一時は引退すら危ぶまれたのもあってか復活がただただ嬉しいですね。それ以前のゲイブとの両者KOの衝撃や気管支炎を患いながら駆け抜けた鷹木とのトライアドマッチの死闘もあり、相手に恵まれたのもあってか支持率は一気に伸びたように思います。今まではオスプレイやコブと比較しても格はやや後塵を拝していた印象もありますが、戦いだけでその道を切り拓きた戦士としての生き様のリアルがそこにはあり、確実にステップアップしているのが伝わってきますよね。

試合は大方の予想通りのフルスロットルの乱打戦。HENAREは蹴りを使うレスラーにしては珍しくシューターのような香りがあまりなく、もちろんバックボーンに格闘技の素養はあるのは承知の上なのですが、総合格闘芸術としてそれらの素養をプロレスに昇華させているというか、格闘技をプロレスナイズしたというよりはプロレスナイズした格闘技という感じがあるのですよ。プロレスと格闘技に隔たりがなく、プロレスが全ての格闘技の頂点であった時代の空気感があるというか……。格闘家がやるプロレスのようなある種のぎこちなさがなく、格闘技として存分にプロレス技を使用している……これ伝わりますかね?

それでいながら蹴りの重さは随一で、特にミドルはかなりやばいです。あのゲイブや鷹木ですら怯むほどで、何より音が「鈍い」のと、相手の崩れ落ち方がリアルなのですよ。ハードヒットに若干の制約のある新日の中ではかなり目立ちますね。

勿論、蹴りだけではなく撃ち合いのエルボーも重いですし、蹴りと同様に多用するヘッドバットもいいですね。当人のマオリのイメージにも合いつつ、プロレスは頭突きが許される格闘技だからこそ当然のように使ってる印象もあり、新日内でも使い手は多くよもすれば単純に見えるこの技も、頭部裂傷という背景があるせいかHENAREがやるとその神通力は凄まじいものがあります。

鷹木も負けじと真っ向勝負。元よりこの手の相手が得意というのもあるのですが、逆水平、エルボー、ショルダータックル、パンピングボンバーと持ち技でしっかり応戦できるのがいいですよね。鷹木の長所は受け攻め関わらず自身のリズムが一切崩れないことで、ここは本当に現新日の中でもトップクラスの風格がありますね。

互いにStreets of Rageと速射式のラストオブザドラゴンと試合中盤でフィニッシャーを繰り出したのがポイントで、それによって後半の死闘の如き削り合いが一段回上にいったように思います。そして壮絶な乱打戦から10カウントで立てず両者KO。引き分けは引き分けでも無理に帳尻を合わせた感は微塵もなく、納得しかないというか……。HENAREからすると悔しいですが、立ち上がったのはHENAREが先で、終わってなお咆哮一閃と鬼気迫る表情には震えが来ましたね。NJCやG1の公式戦で鷹木に勝ってはいるものの、いまだ鷹木超えの印象はなく、しかしながらもはや喉元に牙がかかった状態という……立てなかった鷹木の姿が印象深く、HENAREの真の意味での鷹木超えの可能性がより濃厚になっただけで個人的には嬉しかったですね。即リマッチでも違和感はなく、決着戦を期待したいです。

◼️第8試合 時間無制限1本勝負
ダブルメインイベントⅠ
IWGP世界ヘビー級選手権試合 ランバージャックデスマッチ
ジョン・モクスリー  vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL

今大会のベストバウトですね。当初、第三世代がセコンドにつくと言ったときはモノも言いようでバカ負けしちゃったというのが本音ではあるのですが、モクスリーのリスペクトが嘘ではないのと、第三世代はレジェンドではあるのは間違いないので、ガッカリ感はさほどなかったです。当初しきりに喧伝してた他団体流出、外敵王者という路線ではなく、新日本の歴史にリスペクトを持つ外資の大物という感じに落ち着いたように思います。そんな中、所属であるHOTがヒールのまま外敵と戦うという構図がかなり捻くれているのは確かなのですが、外来種の侵略より内部の腐敗のほうが深刻というのは分かる話で、裏を返せばヒールとしての面目を保ったともいえますね。

それを補強するような形で、棚橋社長の半年会見で今後乱入や介入の阻止=HOTに対しての取締りを強めるという趣旨の発言があり、そのことに若干賛否があったようですね。いい機会なのでこのことについても私見を述べておきたいと思います。これ、noteに別件でまとめようかと思っていたのですが、旬が過ぎてしまったのもあって供養がてら少し書いておきたいと思います。長くなるのはご容赦ください。

まず前提条件として、フロント(最近の言い方に倣うなら運営)が率先してプロレスのストーリーテリングに関わることへの拒否感がまだ日本では強いのだと思います。HOTの狼藉を許しているのは当然の話、運営がそうした試合を組んでいるからであり、だからこそ団体側がそれに拒否反応を明確にするのは茶番めいているという見方が強いのでしょう。かといって、そこに「ガチ感」があればそれはそれで運営の不手際かつコントロールできていないことの証左にもなり、この辺りの線引きは各々のプロレス観に委ねられるものだと思います。

よくTwitter上で話題になりやすいストロングスタイル信奉者による現代新日本プロレスへの批判や、HOTへの拒否反応などは、介入や反則を主として語られがちですが、実際のところは格闘技やスポーツの延長線上にプロレスを位置付けているからこその批判であり、そう考えると審判の目を盗んだり暗転やゴング鳴らし、過度な凶器使用等、ルールに対してのハッキングに重点を置くHOTのやり方はプロレスに抱くリアリティラインを超えているから許せないわけなんですよね。

逆にエンターテインメントとしてプロレスを捉えている層はそれらはエンタメとしての括りで許せたとしても、団体側がリアリティラインの境目を意図的に曖昧する旧来のプロレスの手法は、プロレスの世界観を損なうものだとして急激に冷めてしまう。プロレスはあくまでプロレスとして明確に区切っているからこそ、現実を飲み込んで続いていくものということをいまいち受け入れられず、プロレスに現実味のような要素は必要ない、と。個人的にここらへんの反応はわりと表裏一体なのではないかと思います。

今回の件はオーナーが同席していたのもあり、BOSJの決勝戦メインに対する発言などもあってか、現場に目立つ形で介入しようとするオーナーへの風当たりは強かったように思いますが、あれはどちらかといえば「社長」としての棚橋の立場や言葉を補強するためというか、リアリティラインを担保したに過ぎないと僕は捉えたため、今回は周囲ほどにはオーナーに嫌悪感は抱きませんでした。

もう一つ、当然の話を前提条件として共有しておこうと思うのですが、本当にHOTの介入・反則によって新日の客入りにダメージがあるのであれば、ああした形で表には出さず、それとなく干すと思うんですよ。もしくはマッチメイクで王座戦に絡ませないなどして観客の見方を変えたりとか、調整する手段はいくらでもあると思います。加えてあのオーナーの性格なら本気で問題だと思っているならわざわざ「警告」などという回りくどいことはせず、即断即決独断専行の人なのでああした会見抜きにもっとばっさりやったと思います。

ではあの会見は結局はフリに過ぎず茶番なのか?答えはNOであり、ああした会見があると逆に「裏」を読んじゃうのが古のプヲタの悪い性というか、ここがあの会見の面白いところなのですね。HOTの介入や反則は公式のリプ欄を見れば分かるとおり、それなりに「問題化」はしていますし、だからこそあれは単なるフリと思いつつもそれなりに批判を呼んだのは、対応することに一定のリアリティがあるからこそなんですよ。オーナーはそこにひと匙足したリアリティのスパイスのようなもので、HOTの狼藉は団体側を動かした。これは事実でありヒール冥利につきる話でもあるのです。単なる茶番と切り捨てるのはもったいないと思いますし、あれを表に出して言えたことのほうに本来の意味があると思うのです。つまりはプロレスに落とし込む算段がようやくついたと。そういうことだと思います。

HOTの悪行は今までわりと「プロレス」だからこそ見逃されていた部分が多く、それは良く言えばプロレスの持つ大らかさであると言えなくもないですが、悪く言えば都合の悪い部分に対しての「言い訳」でもあったんですよね。レフェリーバンプも明らかに協力したとしか思えない場面や、素人目に見てもおかしいミスはちょいちょいあったわけで、あの会見が今後はそうした部分を潰すという宣言なら、逆により反則が洗練されて狡猾になるという証なわけで、団体側が対応を「公式に」約束したということは、団体からすると逃げ道を敢えてなくして本気でHOTの悪行に向かい合う決意表明のようなものなのですよ。プロレスのルールをハッキングすることで成り立ってきた集団に対しての対抗策は、当然の如く秩序側によるルールの強化になるのは自明の理で、本格的にHOTvs新日本プロレスの開戦の狼煙が上がったということでもあるのです。

対応次第によっては棚橋社長に対する批判は今後強まりそうで、そこは危惧はしていますが、棚橋ファンからするとわりと嬉しいなというのが個人的な本音ですかね。今までは二足のわらじと言いつつも、レスラーはレスラー、社長は社長という二つのペルソナを使い分けていたわけで、それがようやく融合した。つまりはHOTへの対策を立てることによって、プレジデント棚橋弘至のキャラクターを名実ともに戦いを通じてプロレスのリング上に落とし込むことが可能になったということです。社長権限や采配などを、団体側の許可を待たずして当人の裁決でダイレクトに抗争に組み込むことができるようになったんですよね。リング上での社長キャラクターは今までのプロレスでも数あれど、やはり立場的に一歩引いた印象か、身体を張る非レスラーの一般人のようなゲストキャラみたいな位置付けであったわけですが、HOTの悪行を口実にリング上で権力を行使することが可能になったというのは非常に大きいなことなのです。

まとめると、今までは単なる建前に過ぎなかった団体側もHOTの悪行を問題視しているということを「プロレス」としてようやく展開できるようになったということで、それ即ちHOTからしても物語の第二章の幕開けにもなるわけです。団体そのものを巻き込む、BLEACHで言うところの「限定解除」の許可が下りたわけで、よりリアリティを強めつつハードに振る舞うのが予想されますね。団体側の縛りをどこまで本気でやるのか、それとも本当に単なるフリでしかないのかは今後見てみないとわかりませんが、少なくとも一つの可能性として表れたというのは大きな変化だと思うのですよ。楽しみですね。

さて……長々と書きましたが、本題は試合リポートでしたかね。脇道に逸れると長くなるのが悪い癖です……すみません。

今回の試合、出来は抜群にいいながらも難点を一つだけ挙げるとするなら、前述の会見内容がルールやシチュエーションと上手く噛み合っていなかったことで、ランバージャックデスマッチと言いながらも、実際のところはノーDQ戦に等しい内容だったんですよね。ようは反則が許された試合形式ということで、少しチグハグな印象があったのは否めませんでした。

しかしながら試合内容は素晴らしく、モクスリーの狂犬ぶりが凄まじ過ぎたせいか、それが逆に反則の正当性を強めてしまったというのが面白いポイントですね。HOTが狼藉を働けば働くほど、より苛烈な逆襲による制裁が観客の脳裏によぎるわけで、これはモクスリーの上手さもありますが、実際のところはキャラクターの勝利であるとも思います。HOTがモクスリーを囲ってシバキ回したのは原始時代の狩りのようで笑いましたが、あれぐらいやっても止まらないのがモクスリーのモクスリーたる所以ですね。

見せ場はありつつも第三世代のセコンドは基本的にはオマケに過ぎなかったと思います。ちなみに個人的に目を引いたのは天山で、天山ってセコンドに立ったときの「絵力」凄くないですか?振り返ると小橋vs蝶野戦でのタオル投入寸前の顔など、意外とセコンド映えするんですよね(笑)今回の第三世代の中で一番絵になっていたと思います。あとは真壁の白Tシャツが思った以上に似合っておらず、違和感ありすぎてびっくりしました(笑)

いやあ……それにしてもモクスリーはレベルが違いますよ。「脱力」仕草がとにかく上手く、何より所作が美しい。パウダー攻撃を喰らって腕のみで視界不良を示し、コーナーにもたれかかるその姿。凶器の選別だけで観客と「対話」し、最終的に有志鉄線バットが出てくるオチ。何もかもが完璧です。そしてそれを彩るようなEVILの千変万化の表情とスポットでの「映え」は敵役として本当に素晴らしく、ぶっちゃけた話存在感でモクスリーに喰われていなかったのは結構凄いことだと思うのですよ。そのチープさや言動が批判されることが多いのですが、チープだからこそやられる姿に味があり、それでいながら大物の空気感もあるという。あれが絶妙なんですよ。悪役にはそれなりに「オモシロ」の要素が必要だと思いますし「オモシロ」だからこそ未来永劫残り続ける。映画『コマンドー』のベネットみたいなものですよ。千両役者だと思います。

有志鉄線バットでHOTを蹴散らしてからのEVILの三連打。このときのリアクションが素晴らしかったですね。そして有志鉄線バット上へのデスライダーというあまりにもえげつなすぎるフィニッシュで幕引き。文字通りの完勝です。EVILは基本的にオーバーリアクションであるのですが、それ故にこれを喰らったときの苦悶の表情に壮絶な痛みのリアリティがあり、これがとてもよかったですね。反則介入によるマンネリズムが批判されていたHOTの試合ではありますが、今回の試合のクオリティはその中でも随一であり、文句なく名勝負と言っても差し支えはないでしょう。

とはいえ、HOTは謂わばジョーカーだったわけで、こうなると誰がモクスリーを止めるのか?という話になってしまうわけです。次に現れたのは……やはり流出のきっかけを作ってしまった内藤哲也。そのケツを拭くのは当然でありつつも、現状新世代でもEVILという飛び道具でもダメとなると、格や序列としても現新日の総大将が出てくるしかないですね。

内藤の出現でモクスリーは再び「外敵」の衣を纏いましたし、戦力としてもうあとがないからこそ「誰も出てこないから……」のマイクの皮肉がよく効いていると思います。リマッチは禁断の扉にて。格として申し分ない反面、再び内藤に戻るのも既定路線めいた感が少しあり……しかしながら純粋に「勝てるのか?」という不安もあり……色んな意味で楽しみになってきましたね。限界が近いながらも、いまだにこうしてチャレンジできる内藤哲也はいいと思いますよ。


◼️第9試合 時間無制限1本勝負
ダブルメインイベントⅡ
『BEST OF THE SUPER Jr.31』決勝戦
エル・デスペラード vs 石森 太二

ダブルメインイベントと銘打たれながらも、位置付け的にはまごうことなきメインであり、IWGPを差し置いてのこの位置はようやく実った感じがありますね。当初の予想としてはデスペラードvsTJPだと思っていて、昨年のワトvsティタンと比較するとやや安牌を切ったなという印象はあるのですが、石森の実力に疑いの余地はなく、どちらが勝っても初優勝というシチュエーションはやはり燃えるものがありますね。

単純な技量や練度で言うなら、参加者の中ではKUSHIDAと石森とTJPが頭一つ抜けており、そこにヒロムとデスペが追随してるというイメージではあるのですが、昔ほどデスペのチャレンジ感がなく王座経験による成長を実感したのがこの試合のポイントでしたね。しかしながらも試合内容はデスペの反撃を2〜3手目で潰すという喰らいつく側の成長と追われる者の本気というスポーツの接戦のような空気感があり、石森のダーティーファイトすら後口の悪さはなく、悪辣さよりも手段を選ばない決勝戦らしい必死さがあって良かったように思います。

命運を分けたのは石森の剥がしたコーナーマットであり、ここに石森が被弾したのがデスペにとっての天運でしたね。そこからの垂直落下式リバースタイガードライバーからピンチェロコという現状持ち得る最上級フルコースでの勝利。拮抗した実力者同士のギリギリの接戦が、コーナーマットという外部環境によって決まるという運を天に任せた感が溜まらず、それはさながら達人のサムライ同士の果し合いが、踏み込みのときの木の葉を踏む差によって決まるような……そんな趣があってよかったです。そしてその要因を作ったのが石森というのも面白く、勝負に拘った結果だからこそ、それがかえって自分の首を絞めてしまったという皮肉な幕引き。この残酷さもまたBOSJの味ですね。

試合後のデスペのマイクアピールでまさかのSHOの乱入。丁々発止のやり取りからの決着戦という言質をとっての金網戦の受諾。覇者にしては波乱の幕開けでありながら、デスペラードのデスマッチ適性の高さを思うと楽しみですね。

デスペラード、無頼なようでいて繊細で、自己肯定感の低さは戴冠しても優勝してもなかなか抜けるものではなく、その陰キャ感は非常にリアルでありつつも、それが飽くなき「飢え」への渇望と繋がっている。ヒロムとデスペの二人だけの青春狂想曲もそろそろ佳境で、ようやく他の選手も育ってきましたし、新日Jr.の黄金期はデスペのBOSJ優勝で今この瞬間始まりを告げたのかもしれません。ここからは追われる者の戦いであり、明らかにライガーを受け継ぎつつあるものの、デスペにしかできないJr.の世界観の発展を、これから先も見てみたいと思います。





久しぶりというのもあってかなり長くなってしまいました。ついでのような形で恐縮ですが、クリエイターサポートによる支援ありがとうございます。それにしては更新が随分と遅くなってしまい申し訳ないのですが、励みになりましたし圧にもなりましたので、今後も頑張ってなるたけビッグマッチは取りこぼさないように更新を続けていきたいと思います。そろそろG1の時期ですし、また例年の如く全試合更新をやっていきたいですね。ではでは。今日はここまで。

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